シアカラーステッチ

乾寛

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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々

42. 正義の騎士団長との一騎討ち

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「我が君ヴァレリア陛下から授かったエレスリンネの力、その眩い輝きをお見せしよう」

 ヴァルトが俺に向かって鞘に入ったままのエレスリンネを振り下ろすと衝撃波が地面を切り裂いた。レクロマはそれを跳び上がって避けた。

 うぉっ……危ない。

「レクロマ……あの攻撃、魔法じゃないよ。魔力の動きが見えない。それに、信頼の……深い青色」

 シアの言葉が頭に響いた。

 裂け目は底が見えないほど深い。あんな斬撃が魔法じゃないなんて……騎士団長っていうのも伊達じゃないな。

 カミツレのメンバーも騎士団員たち一瞬驚いて見せたが、武器を構えて飛び出した。エリネは戦うつもりも無さそうにそのまま立って見ている。

 ヴァルトが左手を上に伸ばすと、半球状の結界が広がっていった。結界は騎士団員もカミツレのメンバーも押し退けて拡大していく。それなのに、レクロマだけはすり抜けて中に入れた。

 結界は数百メートルまで拡大したとこで動きを止めた。

「陛下のため、そして騎士団長としての名誉のために、力を示す時が来た。レクロマ・セルース、一騎討ちを受けて立つか?」

「受けないっていう選択肢があるのか? どうせ出れないようになっているんだろ」

「当然のことだ。拒むならば、この場で討ち取るまで。セルナスト陛下の偉大な愛国心を理解できぬ反逆者に、この国で生きる価値などないのだからな」

 ヴァルトは両手を広げて天を仰いでいる。

 爽やかな好青年なのにすごく残念な奴だな。能力も肩書きもあるのに……

 ヴァルトは天を仰いだまま、瞳だけを動かしてレクロマを見下ろした。

「その剣、アングレディシアをいただく」

「狂信者が……渡すわけないだろ。あんたにも国王にもシアの価値は分からない」

 ヴァルトは、エレスリンネを鞘に入れたまま持っている。

「覚悟するがいい、レクロマ・セルース」

「俺にとってはカミツレはどうだっていい。シアを奪おうとするなら殺す」

 レクロマはシアを振るって体の周囲に無数の氷柱を纏う。そして、体を反らして背中から4枚の翼を顕現した。

「もう準備はできたかい?」

 これが騎士道精神か。レディファーストの精神は持ち合わせていないようだが。

「出来てるよ」

「では、始めようか」

 ヴァルトが水平に左手を振るうと、薄い魔力の膜が水平に広がり、レクロマの首を狙った。その膜は、薄いながらも鋭く光っている。

 レクロマは飛び上がり、膜を避けた。そのまま左手を伸ばすと氷柱は円形に並んでレクロマの周りを廻りだした。

「死ね!」

 レクロマが左手を握ると、氷柱がヴァルトに向かって飛び出した。同時にシアを円形に振るって円状の雷撃を飛ばした。その雷撃は球状になり、収縮を始めた。

====================

 アリジスは騎士団員と戦いながらレクロマの動きを見ていた。

「あれは、私が使った技か……若さか、意欲か、素晴らしい成長性だな」

 アリジスは力ない攻撃を受け止めながら、それを弾き飛ばす。

「それより、自分から攻めてきたはずなのに、騎士団員にやる気も強さも感じられない」

「10日間毎日歩き回って、戦うって言われてもやる気なんて感じられるはずがないだろうが」

「やる気のある上司の下に付くと大変だな」

「分かるか、あんたも」

 騎士団員の一人は敵を相手取っているにも関わらず、同志に出会えたという喜びを感じていた。

「分からないな。我々は有志が集まった組織なんだ。どれだけ休みを与えても、誰もが自己研鑽に励んでいる。我々は皆誰かのために戦っているんだ」

 アリジスはそう言いながら太刀を胸部に突き刺した。

「一緒にするなよ」

 騎士団員の一人は絶望とも疑念とも取れるような表情をした。

「やるなら……スッパリ……やって……くれ……」

 騎士団員の一人はゆっくりとアリジスに向かって手を伸ばした。

「あぁ……大人しくしろよ」

 アリジスは太刀を振り下ろし、首をスッと切り落とした。

 それでも緑髪の少女は気にもしないようにじっとヴァルトを見つめている。

「待機……観戦……勝利……」

 後ろから近づいて来たカミツレのメンバーの一人には、顔面に一発だけ殴打を喰らわせてそのままヴァルトを見つめ続ける。
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