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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々
40. 遥かなる憧れの先へ
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エリネが私の子供になってから5年が経った。私は27歳、エリネは15歳だ。
エリネは騎士団に入り、頭角を現している。私のお下がりのブカブカな鎧を着て、拳で荒々しく戦う姿はまるで騎士には見えない。エリネは私の副官になると言って研鑽を重ねている。それでもどんな時も常に私の側にいる。
一度死にかけてからはなんだか魔力量が増え、力が溢れるような気さえした。
今、エデルヴィック宮殿に来ている。今日は騎士団長の任命式だ。高齢になって退陣するエレイブ騎士団長に代わり、私が歴代最年少でセルナスト王国騎士団長となる。
騎士団の中では、騎士団長のみが王国政府の一員であり、官僚だ。王国政府の者のみが陛下に会うことが許される。
遂に、遂にだ……遂に今日、私が陛下によって騎士団長に任命される。陛下に会うことができる。
正装を着せられ、化粧をさせられている。こんなこと初めてだ。腰には中身の無い剣の鞘を付けている。
騎士団の団員は鎧を着て任命式に参加することになっている。エリネには私が、合ったサイズの鎧を着せた。エリネは嫌がりながらもそういう規則だからと大人しく新しい鎧を着る。本当に、成長したものだ。
====================
謁見の間の前に立ち、扉に手をかけた。エリネはさすがに今はついて来ていない。
この扉を開ければ、この先に陛下が……私の父親がいる。ここまで努力した結果だ。このために必死で頑張ってきたんだ。
謁見の間の扉を開けると、貴族や騎士団員が所狭しと並んでいる。私はその真ん中の通路を堂々と歩く。常に、私の歩む道の最も先には陛下がいる。
初めて見る……父親の顔。黄金色の髪に紅い瞳。確かにどこか私に似ている気がする。
「なんであんな若い奴が騎士団長……」「陛下の子だからでしょ……」「王族になりきれない奴が……」「騎士団も堕ちたな……」そんな声が聞こえてくる。本当にそうなのかもしれない。でも、私は私が陛下のためにできることをやるだけだ。
陛下の前の階段の下で立膝になり、頭を下げる。すると、陛下は剣を持って私の前に立った。
「騎士団長となる貴方にこの魔剣エレスリンネを与える。この剣で、国を守る力となってもらいたい」
私は両手を差し出して剣を賜る。
ものすごい感動だ。それと同時に遥かな重みを感じる。
「ありがとうございます、陛下」
剣を鞘に収め、陛下に頭を下げてたくさんの人の方を見る。誰もが嫌そうな顔をしながらも仕方がなく手を叩いている。しかし、背後からは、前方からの拍手よりも遥かに大きな拍手が聞こえる。そして、よく頑張ったな、という声が微かに聞こえた気がした。
あぁ……頑張って良かった。
====================
任命式が終わって準備室でエリネと共に正装を脱いでいると、宮殿の衛兵が入ってきた。宮殿の衛兵はセルナスト王国騎士団の団員だ。つまりは私の部下になる。衛兵ですら王と話すことは許されず、側近を通して指示を受けている。
「失礼します、騎士団長様。国王陛下により貴殿に対し、王の書斎へのご参上をご命令されました」
「分かりました。すぐに向かいます」
衛兵は報告だけしてすぐに出て行った。
「エリネ、ここにいてくれ。私は陛下の部屋に行ってくる」
「了解……永遠……待機……」
永遠に待つと言っているのか。エリネは私の陛下への忠義を分かってくれている。
「ありがとう、なるべく早く帰ってくるから」
急いで部屋から出て、王の書斎へ向かった。
====================
王の書斎の前に着いた。
この先に陛下が……いる。陛下がどういうつもりで呼んだのかは分からないが、上司と部下ではなく親子として話したい。
コンッコンッコンッ……
「入りなさい」
「失礼いたします」
書斎に入ると、王は椅子に座り、側には黒い長髪の男が立っていた。
「ゼルビア、少し出ていてくれ」
「かしこまりました、陛下」
王がそう言うと、黒いスーツを着た男が部屋から出て行った。
王は椅子から立ち上がり、ヴァルトを抱きしめた。
「初めまして、我が息子ヴァルト・ヘイム。ずっと会いたかった」
エリネは騎士団に入り、頭角を現している。私のお下がりのブカブカな鎧を着て、拳で荒々しく戦う姿はまるで騎士には見えない。エリネは私の副官になると言って研鑽を重ねている。それでもどんな時も常に私の側にいる。
一度死にかけてからはなんだか魔力量が増え、力が溢れるような気さえした。
今、エデルヴィック宮殿に来ている。今日は騎士団長の任命式だ。高齢になって退陣するエレイブ騎士団長に代わり、私が歴代最年少でセルナスト王国騎士団長となる。
騎士団の中では、騎士団長のみが王国政府の一員であり、官僚だ。王国政府の者のみが陛下に会うことが許される。
遂に、遂にだ……遂に今日、私が陛下によって騎士団長に任命される。陛下に会うことができる。
正装を着せられ、化粧をさせられている。こんなこと初めてだ。腰には中身の無い剣の鞘を付けている。
騎士団の団員は鎧を着て任命式に参加することになっている。エリネには私が、合ったサイズの鎧を着せた。エリネは嫌がりながらもそういう規則だからと大人しく新しい鎧を着る。本当に、成長したものだ。
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謁見の間の前に立ち、扉に手をかけた。エリネはさすがに今はついて来ていない。
この扉を開ければ、この先に陛下が……私の父親がいる。ここまで努力した結果だ。このために必死で頑張ってきたんだ。
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初めて見る……父親の顔。黄金色の髪に紅い瞳。確かにどこか私に似ている気がする。
「なんであんな若い奴が騎士団長……」「陛下の子だからでしょ……」「王族になりきれない奴が……」「騎士団も堕ちたな……」そんな声が聞こえてくる。本当にそうなのかもしれない。でも、私は私が陛下のためにできることをやるだけだ。
陛下の前の階段の下で立膝になり、頭を下げる。すると、陛下は剣を持って私の前に立った。
「騎士団長となる貴方にこの魔剣エレスリンネを与える。この剣で、国を守る力となってもらいたい」
私は両手を差し出して剣を賜る。
ものすごい感動だ。それと同時に遥かな重みを感じる。
「ありがとうございます、陛下」
剣を鞘に収め、陛下に頭を下げてたくさんの人の方を見る。誰もが嫌そうな顔をしながらも仕方がなく手を叩いている。しかし、背後からは、前方からの拍手よりも遥かに大きな拍手が聞こえる。そして、よく頑張ったな、という声が微かに聞こえた気がした。
あぁ……頑張って良かった。
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任命式が終わって準備室でエリネと共に正装を脱いでいると、宮殿の衛兵が入ってきた。宮殿の衛兵はセルナスト王国騎士団の団員だ。つまりは私の部下になる。衛兵ですら王と話すことは許されず、側近を通して指示を受けている。
「失礼します、騎士団長様。国王陛下により貴殿に対し、王の書斎へのご参上をご命令されました」
「分かりました。すぐに向かいます」
衛兵は報告だけしてすぐに出て行った。
「エリネ、ここにいてくれ。私は陛下の部屋に行ってくる」
「了解……永遠……待機……」
永遠に待つと言っているのか。エリネは私の陛下への忠義を分かってくれている。
「ありがとう、なるべく早く帰ってくるから」
急いで部屋から出て、王の書斎へ向かった。
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この先に陛下が……いる。陛下がどういうつもりで呼んだのかは分からないが、上司と部下ではなく親子として話したい。
コンッコンッコンッ……
「入りなさい」
「失礼いたします」
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「ゼルビア、少し出ていてくれ」
「かしこまりました、陛下」
王がそう言うと、黒いスーツを着た男が部屋から出て行った。
王は椅子から立ち上がり、ヴァルトを抱きしめた。
「初めまして、我が息子ヴァルト・ヘイム。ずっと会いたかった」
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