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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々
39. 新たなステッチ
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何か聞こえる……ただ暗い世界の中にぽつんとただ一人私だけが浮かんでいる。体は動かない、声も出ない、頭も全く働かない。何か聞こえても何が聞こえているのかは全く分からない。
無限にも思える時間が過ぎた頃、ようやく眩しさに目覚めた。
「あれ、私は……」
やっと目が開くと寝室のエリネのベッドの上にいた。すぐ近くには隣の家の奥さんがいた。
あれ、なんで隣の奥さんがいるんだ? それに私は……生きていたのか。
「なんで……」
「あ、起きた? ヴァルト君。良かった」
奥さんは私を看病してくれていたようだ。
「一週間前にエリネちゃんがものすごい焦った様子で訪ねてきたから、何かと思ってエリネちゃんに付いていったら人が3人倒れてたからびっくりしたよ」
一週間も寝てたのか。
「ヴァルト君の傷はもう塞がってるから安心してね。あと、必要な届出は全部やっておいたから」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ、それが隣人ってもんでしょ。それにしてもさすがね、ヴァルト君。お腹から死んでてもおかしくない量の血が出てたのにエリネちゃんを守るために強盗と戦うなんて」
「え? いや、ちが……」
エリネが人殺しをしたなんて、そんな罪を背負わせたくない。それなら、私が殺したってことにすれば……
「エリネを絶対に守らなきゃって思って……」
「本当にすごいよ、自分以外の人のために命を張れるなんて」
なんだか、良心が痛む。
「5日前にヴァルト君を診察に来たお医者様はものすごい高名な方らしくて、お付きが何人も付いていたわよ。それからは一気に回復してとてもびっくりしたわ」
そんな高名な方が私のような騎士団の一中隊長を治すためにわざわざ来てくれるなんて。
「それにね、エリネちゃんがすごい自責してたわ。自分のせいでヴァルト君が苦しんでいるって、自分が近づかなければって」
「そ、そんなこと……」
エリネは悪くない。すぐにエリネを連れて家から逃げていればこんなことにはならなかった。
エリネはどこに……まさか出ていってしまったんじゃ。
「エリネは!」
勢いよく起き上がると、鋭くて重い痛みが腹を貫いた。
がぁっ……痛……
「エリネちゃんはここで寝てるわよ」
奥さんはベッドの横を指差した。痛みを我慢してベッドの脇を覗くとエリネが布団で寝ていた。
あぁ、良かった。
「エリネちゃん、さっきまでずっと看病してたのよ。全然ご飯も食べずに一日中ヴァルト君の側にいて」
エリネの寝顔を眺めていると、不意にエリネの目が開いた。目が合うと、エリネは急に起き上がった。
すると、ごんっという鈍い音が頭に響いく。
いっだぁ……
エリネは立ち上がり、申し訳なさそうな顔で何かを言いたそうにしていた。
「謝罪……貴公……厄介……」
迷惑をかけたことを謝ってるのか。エリネは悪くない……
「エリネ……」
私が両手を開くと、エリネは涙を流して抱きついてきた。
「うっ……うぇっ……うぇっ……ああぁぁぁぁ……」
「エリネ、無事で良かった」
「放棄……恐怖……怖気……」
捨てられることを恐れているのか。捨てるわけないのに……。なら……
「……エリネ、本当に私の子供にならないか?」
エリネは一瞬固まり、さらに涙が溢れ出した。
「うぇっ……うぅ……感謝……感激……雨霰……」
「だからといって何かが変わるわけでもないけど。これからもよろしくね」
エリネの頭を撫でてやるとさらに私の胴を抱きしめてきた。
ふと気付くと、気を遣ってくれたのか奥さんはいつの間にか部屋から居なくなっていた。
====================
それからというものエリネは、守護……護衛……庇保……と言ってどこにでも私について来た。騎士団の仕事にもトイレにも風呂にさえ……初めはそういう遊びなのだと思っていたが、いつまで経っても終わることはなくいつまでも私に同行して来た。
そういえば、私は騎士団の仕事を一週間も無断欠勤していたのに誰にも責められることも降格も解雇も無く、人を殺したことになっているはずなのに誰にも咎められない。逆に気味が悪いほどだ。
エリネは剣ではなく、素手で戦う練習をするようになった。エリネが言うには武器を使うよりも護っているという実感があるらしい。
無限にも思える時間が過ぎた頃、ようやく眩しさに目覚めた。
「あれ、私は……」
やっと目が開くと寝室のエリネのベッドの上にいた。すぐ近くには隣の家の奥さんがいた。
あれ、なんで隣の奥さんがいるんだ? それに私は……生きていたのか。
「なんで……」
「あ、起きた? ヴァルト君。良かった」
奥さんは私を看病してくれていたようだ。
「一週間前にエリネちゃんがものすごい焦った様子で訪ねてきたから、何かと思ってエリネちゃんに付いていったら人が3人倒れてたからびっくりしたよ」
一週間も寝てたのか。
「ヴァルト君の傷はもう塞がってるから安心してね。あと、必要な届出は全部やっておいたから」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ、それが隣人ってもんでしょ。それにしてもさすがね、ヴァルト君。お腹から死んでてもおかしくない量の血が出てたのにエリネちゃんを守るために強盗と戦うなんて」
「え? いや、ちが……」
エリネが人殺しをしたなんて、そんな罪を背負わせたくない。それなら、私が殺したってことにすれば……
「エリネを絶対に守らなきゃって思って……」
「本当にすごいよ、自分以外の人のために命を張れるなんて」
なんだか、良心が痛む。
「5日前にヴァルト君を診察に来たお医者様はものすごい高名な方らしくて、お付きが何人も付いていたわよ。それからは一気に回復してとてもびっくりしたわ」
そんな高名な方が私のような騎士団の一中隊長を治すためにわざわざ来てくれるなんて。
「それにね、エリネちゃんがすごい自責してたわ。自分のせいでヴァルト君が苦しんでいるって、自分が近づかなければって」
「そ、そんなこと……」
エリネは悪くない。すぐにエリネを連れて家から逃げていればこんなことにはならなかった。
エリネはどこに……まさか出ていってしまったんじゃ。
「エリネは!」
勢いよく起き上がると、鋭くて重い痛みが腹を貫いた。
がぁっ……痛……
「エリネちゃんはここで寝てるわよ」
奥さんはベッドの横を指差した。痛みを我慢してベッドの脇を覗くとエリネが布団で寝ていた。
あぁ、良かった。
「エリネちゃん、さっきまでずっと看病してたのよ。全然ご飯も食べずに一日中ヴァルト君の側にいて」
エリネの寝顔を眺めていると、不意にエリネの目が開いた。目が合うと、エリネは急に起き上がった。
すると、ごんっという鈍い音が頭に響いく。
いっだぁ……
エリネは立ち上がり、申し訳なさそうな顔で何かを言いたそうにしていた。
「謝罪……貴公……厄介……」
迷惑をかけたことを謝ってるのか。エリネは悪くない……
「エリネ……」
私が両手を開くと、エリネは涙を流して抱きついてきた。
「うっ……うぇっ……うぇっ……ああぁぁぁぁ……」
「エリネ、無事で良かった」
「放棄……恐怖……怖気……」
捨てられることを恐れているのか。捨てるわけないのに……。なら……
「……エリネ、本当に私の子供にならないか?」
エリネは一瞬固まり、さらに涙が溢れ出した。
「うぇっ……うぅ……感謝……感激……雨霰……」
「だからといって何かが変わるわけでもないけど。これからもよろしくね」
エリネの頭を撫でてやるとさらに私の胴を抱きしめてきた。
ふと気付くと、気を遣ってくれたのか奥さんはいつの間にか部屋から居なくなっていた。
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それからというものエリネは、守護……護衛……庇保……と言ってどこにでも私について来た。騎士団の仕事にもトイレにも風呂にさえ……初めはそういう遊びなのだと思っていたが、いつまで経っても終わることはなくいつまでも私に同行して来た。
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