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第3章. 親が子に、子が親に捧げる日々
37. 大きな大きな小さな一歩
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今日の分の仕事を全て完了させ、託児所に行くとエリネが駆け寄って来た。エリネは単語帳を握って私に抱きついてきた。
「おぉ、エリネ。大人しくしてたか?」
「……こうりょ……じゅっこー……しりょ……」
……考慮、熟考、思慮か。使い方は違うが、もう話せるようになったのか。すごいな。これで少しはコミュニケーションが取れるようになるはずだ。
託児所の職員が話しかけてきた。
「エリネちゃんは他の遊びにも目もくれず、一心不乱にそのノートを読み続けていました。エリネちゃんが指差した単語を私が読むと、真似して発音の練習をして、話した簡単な言葉の意味まで理解できるようになったんですよ」
そうか、単語を書き連ねただけの単語帳を読んでもらえるか不安だったが、良かった。気に入ってもらえたようで。
「ありがとうございました」
「いえ、礼には及びませんよ。私もエリネちゃんと一緒に勉強ができて楽しかったですよ」
「それじゃエリネ、帰ろうか」
「……たんねん……さいしん……ていねい……」
丹念、細心、丁寧か。まだ意思疎通までには到達できていないけど、かなりの進歩だ。
ヴァルトが手を差し出すと、単語帳を左腕に抱えたまま右手で手を取った。
====================
家に着き、私が椅子に座るとエリネも私の膝の上に座った。膝に尻の骨が刺さって少々痛い。
エリネは私が新しいノートに単語帳を作っているのをじっと眺めている。私が頭を撫でてやると首を後ろに反らして私の方を見てくる。愛らしいものだ。
単語を書き込みながら読み上げるとエリネも楽しそうに読み上げた。
エリネはノートを見ようと覗きこみ、長い髪を煩わしそうにかき分ける。
「エリネ、髪切ろうか」
後ろ髪をさらさらと触るとエリネは前髪をかきあげる。
「私は不器用だからあんまり期待はしないでね。それじゃあ椅子に座ってね」
言っている意味はなんとなく理解しているのか、促されるまま大人しく椅子に座った。
しばらく試行錯誤しながら髪を切っていき、ヴァルトは少し焦りながらもなんとか形は整えた。
髪、ちょっと切り過ぎたかな。
前髪は自然さがまるで無い。前髪を下に垂らしてから真っ直ぐに切ったせいでアーチ状におでこが見えている。後ろ髪は首が見えるくらいの長さのボブヘアになっている。
それでもエリネには不満げな様子は微塵もない。
====================
ヴァルトは髪が軽くなったエリネを膝に乗せて単語帳にひたすら単語を書き連ねていた。
「単語帳を作るのも少し疲れたな。剣術の練習をするか」
エリネを膝から下ろして壁に掛けられた剣を手に取った。すると、エリネはヴァルトのベルトに掴まってついてきた。
エリネも一緒に居たいのか。それならエリネも剣術を練習したら良いか……。これから生きていく上で、剣術を使えるようになればどんな時にも精神的に優位に立てる。
「エリネも剣を持っておいで」
エリネはよく分からなそうな顔をしてヴァルトの顔を見上げてくる。
まだ、言葉を理解しきれてる訳じゃないんだもんな。
エリネに木剣を取って渡してやると大切そうに抱えて私と一緒に家の近くの公園に出た。私が素振りの練習をしていると、エリネも真似をして振り始めた。
力を入れ過ぎないようにして、体の芯をぶらさないようにしてと言って教えると、エリネはみるみるうちに上達していった。なかなか様になっている。一度言ったことは次には修正している。
「剣術は強いものだ。どんな道に進むとしてもきっとエリネの役に立つ。人を殺す力は人を殺さぬ強さになり得る」
====================
結局、休憩のはずが時間を忘れて剣術を練習してしまっていた。外は真っ暗になっている。
家に戻り、エリネと晩御飯を食べた。今日は肉じゃがとシーザーサラダだ。エリネは正面に座ってヴァルトの目を気にしながら恐る恐るスプーンに手を伸ばした。エリネはさっと器を取って口をつけた。ヴァルトの顔をちらちら確認しながら掻っ込んでいる。
やはり虐待されてた時の名残が身についてるみたいだな。記憶はなくても……。
「落ち着いて食べて。誰もエリネを怒ったりしないよ」
「とほ……ゆーしゅー……こーそー……」
徒歩、優秀、構想か? さっきまでは類語3つを並べるだけだったが、違う意味の単語も使えるようになったのか。ほんの短い間に成長したな。
やはり、他人と食べるご飯は格別だ。自分だけの時は食事を気にしたりなんてしなかった。今までは、十分に給料は貰ってるにも関わらず極度な節約をしていた。一度大量に作って5日間同じものを食べ続けるなんてざらにあった。だが、エリネも食べるものだと思うと栄養や味にも気をつけるようになった。エリネに質素な食べ物なんて食べさせたくない。
エリネの口の周りはべちょべちょに汚れてしまっている。
「ゆっくりでいいから。好きなだけ食べて良いから」
エリネの口の周りをタオルで拭いてやるとスプーンを私に突き出して口を大きく開いた。
「分かったよ。アーン……」
肉じゃがをすくって口に突っ込んでやるとエリネはにんまり笑ってスプーンの上のものを舐めきった。
結果、何度もアーンをしてやったら明日の分の料理まで食べきってしまった。たくさん食べやがって、なんて思う気は全くない。美味しそうに食べてもらって良かった。嬉しそうにぱくぱく食べれくれれば私だって気持ちが良い。
「おぉ、エリネ。大人しくしてたか?」
「……こうりょ……じゅっこー……しりょ……」
……考慮、熟考、思慮か。使い方は違うが、もう話せるようになったのか。すごいな。これで少しはコミュニケーションが取れるようになるはずだ。
託児所の職員が話しかけてきた。
「エリネちゃんは他の遊びにも目もくれず、一心不乱にそのノートを読み続けていました。エリネちゃんが指差した単語を私が読むと、真似して発音の練習をして、話した簡単な言葉の意味まで理解できるようになったんですよ」
そうか、単語を書き連ねただけの単語帳を読んでもらえるか不安だったが、良かった。気に入ってもらえたようで。
「ありがとうございました」
「いえ、礼には及びませんよ。私もエリネちゃんと一緒に勉強ができて楽しかったですよ」
「それじゃエリネ、帰ろうか」
「……たんねん……さいしん……ていねい……」
丹念、細心、丁寧か。まだ意思疎通までには到達できていないけど、かなりの進歩だ。
ヴァルトが手を差し出すと、単語帳を左腕に抱えたまま右手で手を取った。
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家に着き、私が椅子に座るとエリネも私の膝の上に座った。膝に尻の骨が刺さって少々痛い。
エリネは私が新しいノートに単語帳を作っているのをじっと眺めている。私が頭を撫でてやると首を後ろに反らして私の方を見てくる。愛らしいものだ。
単語を書き込みながら読み上げるとエリネも楽しそうに読み上げた。
エリネはノートを見ようと覗きこみ、長い髪を煩わしそうにかき分ける。
「エリネ、髪切ろうか」
後ろ髪をさらさらと触るとエリネは前髪をかきあげる。
「私は不器用だからあんまり期待はしないでね。それじゃあ椅子に座ってね」
言っている意味はなんとなく理解しているのか、促されるまま大人しく椅子に座った。
しばらく試行錯誤しながら髪を切っていき、ヴァルトは少し焦りながらもなんとか形は整えた。
髪、ちょっと切り過ぎたかな。
前髪は自然さがまるで無い。前髪を下に垂らしてから真っ直ぐに切ったせいでアーチ状におでこが見えている。後ろ髪は首が見えるくらいの長さのボブヘアになっている。
それでもエリネには不満げな様子は微塵もない。
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ヴァルトは髪が軽くなったエリネを膝に乗せて単語帳にひたすら単語を書き連ねていた。
「単語帳を作るのも少し疲れたな。剣術の練習をするか」
エリネを膝から下ろして壁に掛けられた剣を手に取った。すると、エリネはヴァルトのベルトに掴まってついてきた。
エリネも一緒に居たいのか。それならエリネも剣術を練習したら良いか……。これから生きていく上で、剣術を使えるようになればどんな時にも精神的に優位に立てる。
「エリネも剣を持っておいで」
エリネはよく分からなそうな顔をしてヴァルトの顔を見上げてくる。
まだ、言葉を理解しきれてる訳じゃないんだもんな。
エリネに木剣を取って渡してやると大切そうに抱えて私と一緒に家の近くの公園に出た。私が素振りの練習をしていると、エリネも真似をして振り始めた。
力を入れ過ぎないようにして、体の芯をぶらさないようにしてと言って教えると、エリネはみるみるうちに上達していった。なかなか様になっている。一度言ったことは次には修正している。
「剣術は強いものだ。どんな道に進むとしてもきっとエリネの役に立つ。人を殺す力は人を殺さぬ強さになり得る」
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結局、休憩のはずが時間を忘れて剣術を練習してしまっていた。外は真っ暗になっている。
家に戻り、エリネと晩御飯を食べた。今日は肉じゃがとシーザーサラダだ。エリネは正面に座ってヴァルトの目を気にしながら恐る恐るスプーンに手を伸ばした。エリネはさっと器を取って口をつけた。ヴァルトの顔をちらちら確認しながら掻っ込んでいる。
やはり虐待されてた時の名残が身についてるみたいだな。記憶はなくても……。
「落ち着いて食べて。誰もエリネを怒ったりしないよ」
「とほ……ゆーしゅー……こーそー……」
徒歩、優秀、構想か? さっきまでは類語3つを並べるだけだったが、違う意味の単語も使えるようになったのか。ほんの短い間に成長したな。
やはり、他人と食べるご飯は格別だ。自分だけの時は食事を気にしたりなんてしなかった。今までは、十分に給料は貰ってるにも関わらず極度な節約をしていた。一度大量に作って5日間同じものを食べ続けるなんてざらにあった。だが、エリネも食べるものだと思うと栄養や味にも気をつけるようになった。エリネに質素な食べ物なんて食べさせたくない。
エリネの口の周りはべちょべちょに汚れてしまっている。
「ゆっくりでいいから。好きなだけ食べて良いから」
エリネの口の周りをタオルで拭いてやるとスプーンを私に突き出して口を大きく開いた。
「分かったよ。アーン……」
肉じゃがをすくって口に突っ込んでやるとエリネはにんまり笑ってスプーンの上のものを舐めきった。
結果、何度もアーンをしてやったら明日の分の料理まで食べきってしまった。たくさん食べやがって、なんて思う気は全くない。美味しそうに食べてもらって良かった。嬉しそうにぱくぱく食べれくれれば私だって気持ちが良い。
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