シアカラーステッチ

乾寛

文字の大きさ
上 下
30 / 38
第2章. 反乱の野心

30. あなたのために私のために

しおりを挟む
 ドアを閉める瞬間、後ろからレクロマの声が聞こえた気がするけど……。今すぐレティアに言ってやらなければ気が収まらない。

 レティアの部屋は一番奥から一つ手前の部屋だったかな。

 コンッコンッコンッ……

「シアです。レティアに話したいことがある。入れてもらいたい」

 レティアは、レクロマも来ていると思ってすぐに出て来た。レティアは私を部屋に入れてドアを閉じた。

「私のことを紫って呼ばないの珍しいわね。それに、レクロマ君はいないの?」

 紫ちゃんなんて呼ぶ気分じゃない。

「あなた、本当に自分のことばかり。相手のことは何も考えていない。自分が欲しいものは相手の気持ちを考えずに手に入れようとする。本当に、セルナスト王族らしいよ」

「いきなり何の話?」

「そういうところ。あなたの言葉でレクロマを深く傷つけたこと、わかってないでしょ」

「そんなわけないでしょ。そんなこと言ってないじゃない」

「あなたは王族だから気を使ってもらってばかりで相手の気持ちなんて気にしたこともないのでしょ。レクロマに、私と手を繋いでいる時だけは身体能力が高いなんて言うのは素のレクロマを否定してるとしか思えない」

 レティアはシアの圧力に当てられて椅子にへたり込んだ。

「私は、そんなつもりじゃない。ただ、褒めようとしただけ」

「それはレクロマだってわかってる。でも、あなたの無神経な発言のせいでどれだけレクロマが苦しんでるのかわかる? ずっと酷い色だった。帰って来るまでも、苦悩が重なっていくのが見えた」

 レティアは動揺した様子でシアを見つめてくる。

「ごめんなさ──」

「私に謝って何になるの。それに、あなたの言葉が原因ではあるけどあなたが謝って済む話じゃない。レクロマは自分が動けなくて他人に頼りっきりになってることをコンプレックスに感じてる。あの子は活発だけどとっても繊細なの。少し心のしこりに触れるだけで崩れてしまう。部屋を使わせてもらってることには感謝してるけど、もうレクロマに近づかないで。迷惑だから。これが言いたかっただけだから、じゃあね」

====================

 レクロマは一人きりの部屋でベッドに横たわっている。

 今は泣きたいのか落ち着かせたいのかわからない。自分がわからず声をあげて泣いてみたり深呼吸してみたりする。それでも訳の分からない焦燥は収まらない。

 シアのハグが恋しい。その温もりに包まれていたい。

 ただひたすらに重い空気がレクロマを押し付ける。

「シアと出会うまではずっと一人だったはずなのに」

 シアの気持ちを最優先に考えたいと思っていたのに自分のことしか考えていない自分がいる。気持ち悪い。

 コッコッ……小さなノックが聞こえる。

 シア! シアが、戻って来てくれたのか。

「こんにちは、コエンです。お昼ご飯をもってきました」

 シアじゃないのか……

「どうぞ」

 コエンは二人分の料理をトレーに載せて入って来た。

「あれ、レクロマさん、どうしました? こんな時間に横になって。それにシアさんは……」

 コエンなりに気を使っているのか涙でぐちゃぐちゃの顔のことには触れてこない。

「何でもないよ、シアは用事があるらしくてどこかに行ってしまった」

「そうなんですか……」

 コエンはタオルを濡らして持って来た。

「顔、拭きますね」

「ありがとう」

 そういえば、コエンにはシアに似たお姉さんがいたって言ってたな。

「コエンのお姉さんってどんな人だったんだ?」

「優しい人でした。喧嘩なんて一度もしたことなくて、僕はいつも姉の後ろをついて行くだけでした。僕も姉のようになれたら良いなって思っているんですけど、なかなか難しいです」

 コエンは呆れたように笑う。

「やっぱり、シアに似てるな」

====================

 初めてコエンがご飯を食べさせてくれた。何も問題は無いし、やってることはシアと変わらないはずなのにどこか虚しい。

「ありがとうコエン」

 コエンは食事を片付けて椅子に座った。

「シアさんが戻ってくるまでここにいましょうか?」

「いや、いいよ。コエンは好きにしてて」

「分かりました。では、何かありましたらお呼びください」

 コエンはトレーを持って部屋を出て行った。

 あぁ、部屋が広い。やっぱりコエンにいてもらった方が良かったかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...