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第2章. 反乱の野心
26. 副長の願い
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カミツレに来てからは8日経った。その間も、外に出て体は動かしている。レティアが言うにはあと10日程経ったところで進軍を開始するらしい。
「じゃあねレクロマ君、また来るね」
レティアはフリルがついた白いネグリジェを揺らしながら、嬉しそうに部屋から出て行った。廊下に響く足音も軽快だ。
もう一週間連続だ。大した用事もなくレティアが朝の6時に1時間だけ訪ねて来る。寝ぼけて入って来てしまったとか、間違えて部屋の物を持って行ったから返しに来たとか。
俺は気が付かなかったが、シアが言うには夜に入って来たこともあったらしい。俺が寝てるベッドに入って来ようとしたが、シアが起き上がって何をしているのか尋ねたらごめんなさいと言って出て行ったらしい。
なんなんだ。部屋を貸してもらっている以上、断れないが。
「だんだんわかりやすくアプローチをかけて来るようになったね」
シアはインスタントコーヒーを淹れながら俺の方を向いた。
「そうだな、最近はひらひらしたネグリジェを着て来るようにもなったし」
「好きになったりしないの?」
「無いよ。シアを道具扱いするような奴だからな。それに体が動かなくなってからは性欲が無くなった。だから、透き通ったようなネグリジェを着て来られてもそんな気は全く起きない」
シアはコーヒーが入ったカップを2つ持って俺の隣に座った。
「口開けて。ぬるめに作ってあるからもう飲めるよ」
「ありがとう」
シアは少し開けた俺の口の中にコーヒーを注ぎ込んだ。
ゴンッゴンッゴンッ……部屋のドアがノックされた。レティアとは違う少し強めの叩き方だ。
「誰でしょうか」
シアは訝しげな様子でレクロマに目配せをしてからドアの前に立った。
「アリジス・テーニャです。少しばかり話したいことがございます」
シアは再びレクロマをチラリと見て、レクロマは軽く頷く。
「どうぞ」
シアがドアを開けるとアリジスが入って来て俺を睨みつけてきた。アリジスの背中には大きな刀が背負われている。いつでも戦えると言うわけか。
「単刀直入に言います。レティア様をたぶらかすのをやめて頂きたい」
アリジスは椅子にも座らず、レクロマにそう言い放った。
「最近レティア様はおかしい。最低限の仕事だけはするが、あとはずっとあなたのことばかり。このままでは部下たちの士気にも関わります」
「たぶらかしているつもりはないですが」
「レティア様は幼い頃から凛としていて、男に籠絡されるなんてことはなかった」
籠絡する気なんてない。それに……
「幼い頃から?」
「私はレティア様が生まれた頃からレティア様とお母君のヘルティナ様に仕えていましたので」
「それじゃあ、レティアの母親が殺された時も……」
アリジスは両手で頭を抱え、髪を雑にいじった。
「そうだ、そうだよ。俺の目の前で、殺された。守れた……はずなのに……。くそっ」
アリジスは思い切り部屋の壁を叩いた。
「すまない、お前たちに当たってもしょうがないが……。それに、妻と息子が死んだのも俺のせいだ」
コエンが言うには、妻子を失ってカミツレに参加したって聞いたが。
「アリジスさんのせいじゃ……。セルナスト王の政策のせいで……」
アリジスは両膝を地につき、右手で頭を抱えた。
「同情ならやめてくれ。俺の家族は妻の故郷で暮らして、俺だけが宮殿の近くに暮らしていた。俺がヘルティナ様を守れなかったから、ヴァレリアが王となってあんな悪政を……。君は多くの貧しい村を破壊した者を知っているか?」
アリジスは頭を抱えたまま語り始めた。
「王の側近の魔法使いということくらいしか……」
「ゼルビア・スレディオ。それが王の命令で村を破壊した者だ」
「ゼルビア・スレディオ……」
「私の学院時代の先輩でもある男だ。奴はずば抜けて優秀で、在学中から王に目をつけられていた」
ゼルビア、ゼルビアか……。ゼルビア・スレディオが父さんも母さんもメルもリレイも殺したのか……。だが、今度は俺が殺す番だ。
「俺がレティア様と共にカミツレを作ったのは、償いきれないと思っていても少しでも二人のために行動したかったからだ。そのためにセルナスト王とゼルビアを殺す。だから、レティア様にぶれられると困る」
アリジスにも、それだけの過去が。
「わかった。俺からもレティアに言ってみ
ます」
「助かる。だが、その前に一度手合わせ願いたい。お前がどんな者か知っておきたい」
「わかりました。私としても腕が鈍らないようにしておきたいですし。シアも、良い?」
「良いよ」
シアは俺の腰のヒモを外し、俺を背負った。
「じゃあねレクロマ君、また来るね」
レティアはフリルがついた白いネグリジェを揺らしながら、嬉しそうに部屋から出て行った。廊下に響く足音も軽快だ。
もう一週間連続だ。大した用事もなくレティアが朝の6時に1時間だけ訪ねて来る。寝ぼけて入って来てしまったとか、間違えて部屋の物を持って行ったから返しに来たとか。
俺は気が付かなかったが、シアが言うには夜に入って来たこともあったらしい。俺が寝てるベッドに入って来ようとしたが、シアが起き上がって何をしているのか尋ねたらごめんなさいと言って出て行ったらしい。
なんなんだ。部屋を貸してもらっている以上、断れないが。
「だんだんわかりやすくアプローチをかけて来るようになったね」
シアはインスタントコーヒーを淹れながら俺の方を向いた。
「そうだな、最近はひらひらしたネグリジェを着て来るようにもなったし」
「好きになったりしないの?」
「無いよ。シアを道具扱いするような奴だからな。それに体が動かなくなってからは性欲が無くなった。だから、透き通ったようなネグリジェを着て来られてもそんな気は全く起きない」
シアはコーヒーが入ったカップを2つ持って俺の隣に座った。
「口開けて。ぬるめに作ってあるからもう飲めるよ」
「ありがとう」
シアは少し開けた俺の口の中にコーヒーを注ぎ込んだ。
ゴンッゴンッゴンッ……部屋のドアがノックされた。レティアとは違う少し強めの叩き方だ。
「誰でしょうか」
シアは訝しげな様子でレクロマに目配せをしてからドアの前に立った。
「アリジス・テーニャです。少しばかり話したいことがございます」
シアは再びレクロマをチラリと見て、レクロマは軽く頷く。
「どうぞ」
シアがドアを開けるとアリジスが入って来て俺を睨みつけてきた。アリジスの背中には大きな刀が背負われている。いつでも戦えると言うわけか。
「単刀直入に言います。レティア様をたぶらかすのをやめて頂きたい」
アリジスは椅子にも座らず、レクロマにそう言い放った。
「最近レティア様はおかしい。最低限の仕事だけはするが、あとはずっとあなたのことばかり。このままでは部下たちの士気にも関わります」
「たぶらかしているつもりはないですが」
「レティア様は幼い頃から凛としていて、男に籠絡されるなんてことはなかった」
籠絡する気なんてない。それに……
「幼い頃から?」
「私はレティア様が生まれた頃からレティア様とお母君のヘルティナ様に仕えていましたので」
「それじゃあ、レティアの母親が殺された時も……」
アリジスは両手で頭を抱え、髪を雑にいじった。
「そうだ、そうだよ。俺の目の前で、殺された。守れた……はずなのに……。くそっ」
アリジスは思い切り部屋の壁を叩いた。
「すまない、お前たちに当たってもしょうがないが……。それに、妻と息子が死んだのも俺のせいだ」
コエンが言うには、妻子を失ってカミツレに参加したって聞いたが。
「アリジスさんのせいじゃ……。セルナスト王の政策のせいで……」
アリジスは両膝を地につき、右手で頭を抱えた。
「同情ならやめてくれ。俺の家族は妻の故郷で暮らして、俺だけが宮殿の近くに暮らしていた。俺がヘルティナ様を守れなかったから、ヴァレリアが王となってあんな悪政を……。君は多くの貧しい村を破壊した者を知っているか?」
アリジスは頭を抱えたまま語り始めた。
「王の側近の魔法使いということくらいしか……」
「ゼルビア・スレディオ。それが王の命令で村を破壊した者だ」
「ゼルビア・スレディオ……」
「私の学院時代の先輩でもある男だ。奴はずば抜けて優秀で、在学中から王に目をつけられていた」
ゼルビア、ゼルビアか……。ゼルビア・スレディオが父さんも母さんもメルもリレイも殺したのか……。だが、今度は俺が殺す番だ。
「俺がレティア様と共にカミツレを作ったのは、償いきれないと思っていても少しでも二人のために行動したかったからだ。そのためにセルナスト王とゼルビアを殺す。だから、レティア様にぶれられると困る」
アリジスにも、それだけの過去が。
「わかった。俺からもレティアに言ってみ
ます」
「助かる。だが、その前に一度手合わせ願いたい。お前がどんな者か知っておきたい」
「わかりました。私としても腕が鈍らないようにしておきたいですし。シアも、良い?」
「良いよ」
シアは俺の腰のヒモを外し、俺を背負った。
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