シアカラーステッチ

乾寛

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第1章. 動き始める時

17. ビレン村からの旅立ち

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 レディンさんの家に着き、レディンさんたちに村から出ていくことを告げると、皆一同に悲しみに包まれた。

「とうとうこの時が来ちゃったか。俺は二人のことは我が子のように思ってるよ。ケガしないように。必ず、ここに帰って来てね。いつでも大歓迎だから」

 レディンさんはありったけのパンをシアに渡し、シアは魔法の異次元にしまっていく。

「ありがとうございました、レディンさん。必ずまたこの村に帰って来ます」

「パン、本当に美味しかったです。3年前に会えて良かったです。ありがとうございました」

 レディンさんはシアを抱え込むように抱きしめる。

「3年間楽しかったよ。ありがとう」

 エレナさんはレクロマとシアの頭をなで、2人の頭を近づけて抱きしめた。

「エレナさんもお元気で」

「レッくん、シアちゃん、仲良くね」

 セリオはシアの腰にしがみついて来た。

「シアちゃん……レッくん……本当に行っちゃうの?」

「ごめんね、セリオ。俺たちはやらなきゃいけないことがあるんだ」

「やだよ、本当のお兄ちゃんとお姉ちゃんができたと思ったのに」

 シアはしゃがんでセリオを抱え込んで背中をさする。するとセリオはさらに強く抱きしめてきた。

「全てが終わったら帰ってくるから。その時は笑って迎えてね」

「うん……うん……待ってるから、必ずまた来てね」

 セリオはうえっうえっと泣き声をあげながら泣き出してしまった。

「泣いちゃダメだよ。必ず来るからね」

「必ずだよ」

 シアは立ち上がってセリオの頭を撫でる。セリオはやっとシアから離れ、涙を拭っている。

「それじゃあ、もう行きます。今までありがとうございました」

「ありがとうございました」

 レディンさんとエレナさんは笑いかけながら手を振り、セリオも泣きながら両手で手を振ってきた。シアも手を振り返しながら歩みを進めた。

「ようやく、復讐が始まる」

「そうだね、私も力になるから。まずはどこへ向かおうか」

「決まってる。まずはなんてない。目標はセルナスト王がいるエデルヴィック宮殿だよ。……いや、やっぱり俺の故郷のセレニオ村に行きたい。宮殿に向かう途中にあるはずだから」

「わかった。じゃあ、行こうか」

 シアは南西に向かって歩き始めた。

====================

 ひたすら南西に向かって進み続けていると、沈黙が少し寂しく感じるようになる。

「シアはなんであんなに強いの?」

 3年間シアは俺に戦闘の方法を叩き込んでくれた。圧倒的な力はいつも側で見てきた。

「私は剣なんだよ。何千何万っていう戦いに参加してきた。色んな感情や魔力が私を蝕んで、私はそれを取り込んだ」

「そうか……それなら、強い魔法が使えて戦闘技能が高いのも納得──」

 何か聞こえる。叫び声、それに金属がぶつかり合う音だ。さらに南に進んだ方から聞こえてくる。

「シア、あっちに向かおう」

「わかった。ちょっと走るよ」

「おう……うぉっ」

 シアが走ると呼吸ができなくなり、視界は、何を見ているのかわからないくらいの速度で移り変わっていく。美しいが……く……苦しい……

====================

 2分ほど走っていただろうか。もう……死にそうだ。

「見えたよ、……あのマーク、セルナスト王国騎士団の騎士だよ。騎士団が武装した数人を包囲してる。今は持ち堪えてるようだけど、もう厳しそうだね」

「一旦……止めて……」

 はぁっ……はぁっ……。やっと……息が……できる。

 白い鎧を着た5人が赤い鎧を着た騎士団に取り囲まれている。

「あれが、セルナスト王国の騎士団か。少し話を聞いてみよう」

 シアは俺を背負ったまま、歩いて王国兵たちの中心に向かっていった。
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