シアカラーステッチ

乾寛

文字の大きさ
上 下
12 / 46
第1章. 動き始める時

12. 聖剣の力

しおりを挟む
 アルド・ベリオールは何度も何度も鱗を飛ばし、レクロマはそれを防ぎ続ける。

 これでは決着がつかない。どちらかというと魔力の消費が大きい俺の方が不利だ。

「レクロマ、このまま待ち続ける戦い方だといずれあなたが動けなくなる。私が人間の姿になって動けないあなたを背負って庇いながら戦うか、あなたが動けるうちに私であいつを斬り倒すか、どっちが良い?」

「その問い、悪意あるでしょ。決まってるよ。俺がもし今ここで動けなくなったとしても、意地でも動いてシアを守るよ。……まぁ、シアで戦うことがシアを守ることになるのかは良くわからないけど」

「その約束……忘れないでね」

 シアは聞こえないくらい小さな声で呟いた。

「えっ? 何か言った?」

「何でもない……。ほら、集中して。また来たよ」

 アルド・ベリオールの鱗が群を成して向かってくる。ただの鱗でも、あの大きさではまともに食らったらただでは済まない。

「このまま突っ込むよ」

 左手を鱗の動きに逆らわせるように振って、その場に凍りつかせた。そのままそれを踏み台にして跳び上がり、手足を後ろに反らして全身で胸を張るように体を動かす。すると、背中の肩甲骨の辺りからは魔力でできた羽が4枚現れた。無機質ながらも生きているような黒い翼だ。

「無粋だな。まるで悪魔だ」

 そのままスピードを上げてアルド・ベリオールに向かって飛んでいく。雄叫びをあげて威嚇してくるが、レクロマはそれらを気にすることもなく進んでいく。そんな物に構ってやる暇はないと言うが如く、真っ直ぐにアルド・ベリオールを見据えている。

 アルド・ベリオールの上空を飛行しながら、シアを両手で構えて柄に魔力を流す。すると鍔に付いている青い宝石と反応して青い光が周囲を満たした。光はアルド・ベリオールを取り囲む。アルド・ベリオールは戸惑って、何かを探すようにあちこちを見渡す。アルド・ベリオールの眼には光は全く届いていない。

「周囲の光を操作する。これが聖剣の力か。やはり強いな、圧倒的だ」

 あまりシアに頼りきりになりたくなかったから、使うつもりもなかったけど。……いや、何もかも頼りきりだ。動けるのだって、魔法だってシアがいて初めて使える。俺はまた変な意地ばかり張って……。シアは俺に利用してみせろと言った。シアに頼りきりだって良い。これが俺の力なんだから。

 俺はアルド・ベリオールの真横に降り立ち、両手でシアを振り上げた。アルド・ベリオールは諦めたように静かになり、天を仰いでいる。

「これで本当に終わりだ。本当に強かった……」

 アルド・ベリオールの首を落とすと、首からは魔力が流れ出した。魔力はとめどなく流れ、地面に溶け込んで消えてゆく。

「これで、終わった。かなりの強敵だったな」

「お疲れ様、頑張ったね」

 シアはそう言いながら人間の姿へと戻り、レクロマの脚と背中を支えて抱えた。

「少し休もうか。こんな強い相手と戦ったのは初めてだもんね」

 シアはまばらに木が生えた場所へと向かい、その中でも特に大きな木の下に入った。俺を抱き抱えたまま座り、レクロマの頭がシアの太ももの上に乗るように俺を寝かせた。

 シアの上は、服を隔てていても柔らかいし、いつも背負われている時とは違うとても温かい匂いが俺の脳を撫でてくる。

「本当に良く頑張ったね。かっこよかったよ」

 シアは俺の胸を撫でながら微笑んできた。

「最後はシアの聖剣の力で勝ったんだよ。そんなの、ズルじゃないか……」

「あなたが倒したんだよ、私だけじゃ碧眼の力は使えない。そもそも、戦わずに逃げることだってできたはずだよ。ビレン村でアルド・ベリオールの話を聞いた時、黙っていれば戦うことにはならなかった。それなのに他人のために戦えるってすごいことじゃない? 私が見てきたのは自分のために私の力を使おうとする奴らばっかりだった。それに、私としてもあれ以上レクロマに傷ついて欲しくなかった……」

 シアは急に頬を赤らめ、色々な方向を挙動不審に見回した。

「どうかし……んぅっ」

 シアがレクロマの頭を両手で持ち上げて、唇に唇を重ねる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...