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第1章. 動き始める時
12. 聖剣の力
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アルド・ベリオールは何度も何度も鱗を飛ばし、レクロマはそれを防ぎ続ける。
これでは決着がつかない。どちらかというと魔力の消費が大きい俺の方が不利だ。
「レクロマ、このまま待ち続ける戦い方だといずれあなたが動けなくなる。私が人間の姿になって動けないあなたを背負って庇いながら戦うか、あなたが動けるうちに私であいつを斬り倒すか、どっちが良い?」
「その問い、悪意あるでしょ。決まってるよ。俺がもし今ここで動けなくなったとしても、意地でも動いてシアを守るよ。……まぁ、シアで戦うことがシアを守ることになるのかは良くわからないけど」
「その約束……忘れないでね」
シアは聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「えっ? 何か言った?」
「何でもない……。ほら、集中して。また来たよ」
アルド・ベリオールの鱗が群を成して向かってくる。ただの鱗でも、あの大きさではまともに食らったらただでは済まない。
「このまま突っ込むよ」
左手を鱗の動きに逆らわせるように振って、その場に凍りつかせた。そのままそれを踏み台にして跳び上がり、手足を後ろに反らして全身で胸を張るように体を動かす。すると、背中の肩甲骨の辺りからは魔力でできた羽が4枚現れた。無機質ながらも生きているような黒い翼だ。
「無粋だな。まるで悪魔だ」
そのままスピードを上げてアルド・ベリオールに向かって飛んでいく。雄叫びをあげて威嚇してくるが、レクロマはそれらを気にすることもなく進んでいく。そんな物に構ってやる暇はないと言うが如く、真っ直ぐにアルド・ベリオールを見据えている。
アルド・ベリオールの上空を飛行しながら、シアを両手で構えて柄に魔力を流す。すると鍔に付いている青い宝石と反応して青い光が周囲を満たした。光はアルド・ベリオールを取り囲む。アルド・ベリオールは戸惑って、何かを探すようにあちこちを見渡す。アルド・ベリオールの眼には光は全く届いていない。
「周囲の光を操作する。これが聖剣の力か。やはり強いな、圧倒的だ」
あまりシアに頼りきりになりたくなかったから、使うつもりもなかったけど。……いや、何もかも頼りきりだ。動けるのだって、魔法だってシアがいて初めて使える。俺はまた変な意地ばかり張って……。シアは俺に利用してみせろと言った。シアに頼りきりだって良い。これが俺の力なんだから。
俺はアルド・ベリオールの真横に降り立ち、両手でシアを振り上げた。アルド・ベリオールは諦めたように静かになり、天を仰いでいる。
「これで本当に終わりだ。本当に強かった……」
アルド・ベリオールの首を落とすと、首からは魔力が流れ出した。魔力はとめどなく流れ、地面に溶け込んで消えてゆく。
「これで、終わった。かなりの強敵だったな」
「お疲れ様、頑張ったね」
シアはそう言いながら人間の姿へと戻り、レクロマの脚と背中を支えて抱えた。
「少し休もうか。こんな強い相手と戦ったのは初めてだもんね」
シアはまばらに木が生えた場所へと向かい、その中でも特に大きな木の下に入った。俺を抱き抱えたまま座り、レクロマの頭がシアの太ももの上に乗るように俺を寝かせた。
シアの上は、服を隔てていても柔らかいし、いつも背負われている時とは違うとても温かい匂いが俺の脳を撫でてくる。
「本当に良く頑張ったね。かっこよかったよ」
シアは俺の胸を撫でながら微笑んできた。
「最後はシアの聖剣の力で勝ったんだよ。そんなの、ズルじゃないか……」
「あなたが倒したんだよ、私だけじゃ碧眼の力は使えない。そもそも、戦わずに逃げることだってできたはずだよ。ビレン村でアルド・ベリオールの話を聞いた時、黙っていれば戦うことにはならなかった。それなのに他人のために戦えるってすごいことじゃない? 私が見てきたのは自分のために私の力を使おうとする奴らばっかりだった。それに、私としてもあれ以上レクロマに傷ついて欲しくなかった……」
シアは急に頬を赤らめ、色々な方向を挙動不審に見回した。
「どうかし……んぅっ」
シアがレクロマの頭を両手で持ち上げて、唇に唇を重ねる。
これでは決着がつかない。どちらかというと魔力の消費が大きい俺の方が不利だ。
「レクロマ、このまま待ち続ける戦い方だといずれあなたが動けなくなる。私が人間の姿になって動けないあなたを背負って庇いながら戦うか、あなたが動けるうちに私であいつを斬り倒すか、どっちが良い?」
「その問い、悪意あるでしょ。決まってるよ。俺がもし今ここで動けなくなったとしても、意地でも動いてシアを守るよ。……まぁ、シアで戦うことがシアを守ることになるのかは良くわからないけど」
「その約束……忘れないでね」
シアは聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「えっ? 何か言った?」
「何でもない……。ほら、集中して。また来たよ」
アルド・ベリオールの鱗が群を成して向かってくる。ただの鱗でも、あの大きさではまともに食らったらただでは済まない。
「このまま突っ込むよ」
左手を鱗の動きに逆らわせるように振って、その場に凍りつかせた。そのままそれを踏み台にして跳び上がり、手足を後ろに反らして全身で胸を張るように体を動かす。すると、背中の肩甲骨の辺りからは魔力でできた羽が4枚現れた。無機質ながらも生きているような黒い翼だ。
「無粋だな。まるで悪魔だ」
そのままスピードを上げてアルド・ベリオールに向かって飛んでいく。雄叫びをあげて威嚇してくるが、レクロマはそれらを気にすることもなく進んでいく。そんな物に構ってやる暇はないと言うが如く、真っ直ぐにアルド・ベリオールを見据えている。
アルド・ベリオールの上空を飛行しながら、シアを両手で構えて柄に魔力を流す。すると鍔に付いている青い宝石と反応して青い光が周囲を満たした。光はアルド・ベリオールを取り囲む。アルド・ベリオールは戸惑って、何かを探すようにあちこちを見渡す。アルド・ベリオールの眼には光は全く届いていない。
「周囲の光を操作する。これが聖剣の力か。やはり強いな、圧倒的だ」
あまりシアに頼りきりになりたくなかったから、使うつもりもなかったけど。……いや、何もかも頼りきりだ。動けるのだって、魔法だってシアがいて初めて使える。俺はまた変な意地ばかり張って……。シアは俺に利用してみせろと言った。シアに頼りきりだって良い。これが俺の力なんだから。
俺はアルド・ベリオールの真横に降り立ち、両手でシアを振り上げた。アルド・ベリオールは諦めたように静かになり、天を仰いでいる。
「これで本当に終わりだ。本当に強かった……」
アルド・ベリオールの首を落とすと、首からは魔力が流れ出した。魔力はとめどなく流れ、地面に溶け込んで消えてゆく。
「これで、終わった。かなりの強敵だったな」
「お疲れ様、頑張ったね」
シアはそう言いながら人間の姿へと戻り、レクロマの脚と背中を支えて抱えた。
「少し休もうか。こんな強い相手と戦ったのは初めてだもんね」
シアはまばらに木が生えた場所へと向かい、その中でも特に大きな木の下に入った。俺を抱き抱えたまま座り、レクロマの頭がシアの太ももの上に乗るように俺を寝かせた。
シアの上は、服を隔てていても柔らかいし、いつも背負われている時とは違うとても温かい匂いが俺の脳を撫でてくる。
「本当に良く頑張ったね。かっこよかったよ」
シアは俺の胸を撫でながら微笑んできた。
「最後はシアの聖剣の力で勝ったんだよ。そんなの、ズルじゃないか……」
「あなたが倒したんだよ、私だけじゃ碧眼の力は使えない。そもそも、戦わずに逃げることだってできたはずだよ。ビレン村でアルド・ベリオールの話を聞いた時、黙っていれば戦うことにはならなかった。それなのに他人のために戦えるってすごいことじゃない? 私が見てきたのは自分のために私の力を使おうとする奴らばっかりだった。それに、私としてもあれ以上レクロマに傷ついて欲しくなかった……」
シアは急に頬を赤らめ、色々な方向を挙動不審に見回した。
「どうかし……んぅっ」
シアがレクロマの頭を両手で持ち上げて、唇に唇を重ねる。
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