6 / 46
第1章. 動き始める時
6. 菓子パン最高
しおりを挟む
「お二人さん、今の見てましたよ。かっこよかったです。出来立てのパンはどうですか? あったかくてふわふわですよ。お二人なら2割引でいいです」
人懐っこそうな男が早口で話しかけてきた。
「パン、良いね。レクロマはどう? パンは好き?」
「好きだよ、昔もよく食べてた」
「じゃあ決まり、二人お願いね」
「わっかりました。どうぞこちらへ」
男は跳ねるようにパン屋に向かって駆けて行った。
少し歩くとシンプルな看板の付いたパン屋があった。看板にはカッコウが止まっている。前は儲かっていたのか、大きめの店構えだ。
「どうぞどうぞ、入ってください」
外装に似合わず、中はゆったりとした空間が広がっていた。左側にはたくさんのパンが並んでいて、右側にはイートインスペースがある。パンのふんわりとした香りが鼻の奥を刺激した。
「美味しそうだね、シア」
「うん、すごく美味しそう」
パン屋の男は店の奥の一つだけ離れた席に連れて行った。
「そちらの椅子に座ってお待ちください」
シアは俺を椅子に降ろした。そして、もう一つの椅子を俺の右隣に持ってきて座った。座って正面に見える窓からは広々とした草原が見える。
「とてもいいところだね」
シアはレクロマを背負いあげて棚に並べてあるパンを眺めさせてくれる。どれも美味しそうだ。
「良かった、持ち直してくれたね。黄色に戻ったよ」
「うん、パンがとても美味しそうだからね」
席に着き直すと、パン屋の男が話しかけてきた。
「ご注文、お聞きします」
「ねぇシア、たくさん食べてもいい?」
「良いよ。好きなだけ食べて」
「良いの!? じゃあクリームパン二つとあんぱん一つ、メロンパン一つ、クロワッサン二つ、フレンチトースト三つ」
「……じゃあ私はカレーパンとピザトーストを一つずつ」
「少々お時間よろしいですか?」
「えぇもちろん」
====================
しばらくすると出来立てのパンのふんわりとした匂いが漂ってきた。大きなトレーに乗ったたくさんのパンがテーブルに置かれた。
「うわぁ美味しそうだな」
「何から食べたい?」
「クロワッサン」
焼きたてのクロワッサンはバターの濃い匂いで鼻をくすぐる。俺が口を開けると、シアがクロワッサンを小さくちぎって口の中に入れる。外側はザクザクして中はフワフワなのにもっちりしている。
「すごい美味しい。ザクザクでフワフワでもっちり!」
「ふふっ……語彙力がなくなるほど美味しかったの?」
「シアも食べてみなよ。びっくりするよ」
シアがクロワッサンの欠片を口に運ぶと急に表情が変わった。
「美味っしい。こんなパン食べたことない」
パン屋の男はシアが頼んだパンを運んできていた。
「そうでしょう。焼きたてのクロワッサンは特に食感が良くて美味しいんですよ。うちのパンは焼きたてでなくても特に美味しいんですがね」
男は自慢げに笑った。
「次はフレンチトーストが食べたい」
「はいはい」
シアはフレンチトーストをちぎり、メープルシロップをたっぷりかけた。皿のフレンチトーストがあった部分にはしっとりとした卵液が染み出している。鼻に近づけると、甘くて温かみのある香ばしい匂いが食欲をそそる。口に入れて一口噛むと、くたくたになるほど染み込んだ卵液が溢れ出し、バニラの香りとメープルシロップの甘みがさらに美味しさを引き立てる。
「美味しい。もっと……もっと食べさせて」
「はい」
ぱくっ……口に入れられたフレンチトーストの欠片は一瞬にして腹の中に消えてしまう。
「はい」
あむっ……
「はい」
もふっ……
====================
あぁ……いつの間にか俺が頼んだパンが全て終わってしまった。シアに食べてもらう分も無くなってしまった。
「ごめん、シア。シアの分に渡そうと思ってた分も食べちゃったよ」
「言ったでしょ。私にとって食事は娯楽。レクロマの幸せそうな感情と表情を見るのは食べるよりもよっぽど娯楽なの。黄色の感情を通り越して白い感情すらも発してたよ」
「白ってどんな感情なの?」
「無感情、意識しない感情、疑わない感情。つまりは深層的な感情だけになっているときに白色に見えるの」
そうなのか。俺ってそんなに甘いパンが好きだったんだな。母さんもよくパンを焼いてくれていたし。
人懐っこそうな男が早口で話しかけてきた。
「パン、良いね。レクロマはどう? パンは好き?」
「好きだよ、昔もよく食べてた」
「じゃあ決まり、二人お願いね」
「わっかりました。どうぞこちらへ」
男は跳ねるようにパン屋に向かって駆けて行った。
少し歩くとシンプルな看板の付いたパン屋があった。看板にはカッコウが止まっている。前は儲かっていたのか、大きめの店構えだ。
「どうぞどうぞ、入ってください」
外装に似合わず、中はゆったりとした空間が広がっていた。左側にはたくさんのパンが並んでいて、右側にはイートインスペースがある。パンのふんわりとした香りが鼻の奥を刺激した。
「美味しそうだね、シア」
「うん、すごく美味しそう」
パン屋の男は店の奥の一つだけ離れた席に連れて行った。
「そちらの椅子に座ってお待ちください」
シアは俺を椅子に降ろした。そして、もう一つの椅子を俺の右隣に持ってきて座った。座って正面に見える窓からは広々とした草原が見える。
「とてもいいところだね」
シアはレクロマを背負いあげて棚に並べてあるパンを眺めさせてくれる。どれも美味しそうだ。
「良かった、持ち直してくれたね。黄色に戻ったよ」
「うん、パンがとても美味しそうだからね」
席に着き直すと、パン屋の男が話しかけてきた。
「ご注文、お聞きします」
「ねぇシア、たくさん食べてもいい?」
「良いよ。好きなだけ食べて」
「良いの!? じゃあクリームパン二つとあんぱん一つ、メロンパン一つ、クロワッサン二つ、フレンチトースト三つ」
「……じゃあ私はカレーパンとピザトーストを一つずつ」
「少々お時間よろしいですか?」
「えぇもちろん」
====================
しばらくすると出来立てのパンのふんわりとした匂いが漂ってきた。大きなトレーに乗ったたくさんのパンがテーブルに置かれた。
「うわぁ美味しそうだな」
「何から食べたい?」
「クロワッサン」
焼きたてのクロワッサンはバターの濃い匂いで鼻をくすぐる。俺が口を開けると、シアがクロワッサンを小さくちぎって口の中に入れる。外側はザクザクして中はフワフワなのにもっちりしている。
「すごい美味しい。ザクザクでフワフワでもっちり!」
「ふふっ……語彙力がなくなるほど美味しかったの?」
「シアも食べてみなよ。びっくりするよ」
シアがクロワッサンの欠片を口に運ぶと急に表情が変わった。
「美味っしい。こんなパン食べたことない」
パン屋の男はシアが頼んだパンを運んできていた。
「そうでしょう。焼きたてのクロワッサンは特に食感が良くて美味しいんですよ。うちのパンは焼きたてでなくても特に美味しいんですがね」
男は自慢げに笑った。
「次はフレンチトーストが食べたい」
「はいはい」
シアはフレンチトーストをちぎり、メープルシロップをたっぷりかけた。皿のフレンチトーストがあった部分にはしっとりとした卵液が染み出している。鼻に近づけると、甘くて温かみのある香ばしい匂いが食欲をそそる。口に入れて一口噛むと、くたくたになるほど染み込んだ卵液が溢れ出し、バニラの香りとメープルシロップの甘みがさらに美味しさを引き立てる。
「美味しい。もっと……もっと食べさせて」
「はい」
ぱくっ……口に入れられたフレンチトーストの欠片は一瞬にして腹の中に消えてしまう。
「はい」
あむっ……
「はい」
もふっ……
====================
あぁ……いつの間にか俺が頼んだパンが全て終わってしまった。シアに食べてもらう分も無くなってしまった。
「ごめん、シア。シアの分に渡そうと思ってた分も食べちゃったよ」
「言ったでしょ。私にとって食事は娯楽。レクロマの幸せそうな感情と表情を見るのは食べるよりもよっぽど娯楽なの。黄色の感情を通り越して白い感情すらも発してたよ」
「白ってどんな感情なの?」
「無感情、意識しない感情、疑わない感情。つまりは深層的な感情だけになっているときに白色に見えるの」
そうなのか。俺ってそんなに甘いパンが好きだったんだな。母さんもよくパンを焼いてくれていたし。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる