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第1章. 動き始める時
1. 永遠の握手の始まり
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眠るといつも同じ夢を見る。
村には濃い紫色の霧が立ち込め、知っている声が鳴り響く。父さん、母さんの声もだ。メルの近くに置いてあった壺の魚たちは目を真っ赤にして不自然に跳ね上がる。メルの泣き声が聞こえる。
「お兄ちゃん……お父さんとお母さんが変だよ……」
メルはそう言って苦しみ悶える両親を揺らしていた。メルもすでに苦しそうに左手と両膝を地につけている。
俺はこの夢の中ではいつも、何もできずにいる自分を隣で見続けるだけ……
父さんも……母さんも……妹のメルも……幼馴染のリレイも……みんな死んだ。俺は誰も救えなかった。俺だけが生き残ってしまった……
どうしてメルに先に帰らせてしまったのだろう。どうしてすぐにメルを連れて逃げなかったのだろう。メルだけは救えるはずだったのに……
====================
村の外れにぽつんと建てられた小さな物置。その中で、綺麗に整えられたベッドの上で寝ていた少年が目を覚ました。不揃いに切られた紺色の髪、そして目の翠色の虹彩が眩しいほど光る。
「くそっ……また二年前の夢か。俺がみんなを助けられなかった罰か……。体さえ動けば……この罪を償えれるのなら……絶対に殺してやるのに、セルナスト王。俺の手で……」
こんな意味のない言葉を何度唱えただろう。体も動かないくせに……
朝はいつもそんな無駄なことを考えるだけに費やされてしまう。
その時、いきなり物置の扉が開いた。朝特有の眩しい日差しと共に現れた女性は、躊躇なく家に入って来た。
「初めまして。君、面白い感情をしているね。赤と黒が混ざったとても強い色だ」
なんだ……なんで、いきなり……
毛先が紅掛かった白色のミディアムヘアの女性が碧い瞳で俺の顔を覗き込んできた。透き通るほど深く、強く輝く瞳の奥に自分が映る。まるで自分を見透かされているようだ。
歳は18歳くらいだろうか。ふんわりとした白いワンピースを着て、少し動くたびに服がとろんと揺れ動く。
「誰だ。何しにきた」
「私はアングレディシア。君の名前は?」
「俺の名前は、レクロマだけど……」
「近くを歩いていたらとても強い感情を感じたから、ちょっと寄ってみようと思ってね」
こいつ、頭がおかしいのか……
「さっき、強い怒りと殺意を抱いていたでしょ」
「なんで……なんで分かるんだ」
「私、感情が見えるの。君の混じり気のない純粋な感情もね」
何かやばい。さっさと出ていかせないと。
「君に付いていっていいかな。君と一緒にいればきっと面白いものが見られる。そう思うんだ」
「面白いものなんて何も無い。俺は何もできない、2年前から俺の四肢はもう動かないんだよ。身体の成長も止まった。俺の身体は15歳のままだ」
レクロマの顔は苦痛に歪んでいる。
「ここで寝て起きて、1日1回ご飯が運ばれるのを、窓の外の何も無い空を眺めながらただ待っているだけの生活だ。食事も排泄も、自分一人じゃ出来やしない。外からは俺を邪魔者扱いする声だって聞こえる。この気持ちがお前に分かるか」
「分かるよ」
アングレディシアと名乗った女は俺の目をまっすぐに見据えて言い放った。女は俺の体を見て何かを思いついたようにニヤリと笑う。
「私が動かしてあげようか」
「からかってるのか。そんなことできるわけないだろ」
「手、借りるね」
「おいっ、何する気だ」
女は俺の力の入らない右手を掛け布団の下から取り出して握った。すると女の体から無数の白い光の筋が現れ右手に集まり、1本の光の棒を紡いでいった。
「何だこれ? 剣? さっきまでいた女はどこに消えた」
できる限り首を動かしてなんとか手元をみると、女の姿はそこから消え、俺の手には透明感のある赤色に光る剣が握られていた。赤白い刃が流れるように交わり、鍔には大きな碧い宝石が浮いている。
刃はぬるぬると光り輝き、鍔の宝石は窓から差し込む光を複雑に反射させていた。
「私はここにいるよ。ちょっとだけ苦しいかもしれないけど最初の一回だけだから少しの間我慢してね」
頭の中に女の声が響く。
「えっ……どういう……」
がっ……ぐああぁぁ……苦……しい……。体の奥から溶けているみたいだ。
====================
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「夢だったのか……二年前の事じゃない夢も、人と話すのも久しぶりだな。あんな夢ならまた見たい」
右手に違和感を感じ、目の前に持ってきて眺めると、そこには剣が握られていた。
「これって……夢じゃなかったのか……。ふぅ……流石にこんなに大きな剣はちょっと重いな。相変わらずとても美しい剣だ」
刃の赤白さの中にさらに複雑な濃淡があり、傾ける角度でその木目のような模様は姿を変える。
1メートル強はありそうなこの剣を俺みたいに貧弱な腕で持ち上げ続けるのは、どこか厳しいものがある。
「えっ……!」
驚きのあまりに跳ね起きた。
「動いてる。何で……」
ベットから降りて体を動かすこともできる。すごい、もう動くことなく死んでいくと思っていた。
2年振りだ……こんなことが起こるなんて。
なぜ動けるのかは分からないが、これで王を殺せる。村のみんなを殺したあいつに復讐してやれる。
村には濃い紫色の霧が立ち込め、知っている声が鳴り響く。父さん、母さんの声もだ。メルの近くに置いてあった壺の魚たちは目を真っ赤にして不自然に跳ね上がる。メルの泣き声が聞こえる。
「お兄ちゃん……お父さんとお母さんが変だよ……」
メルはそう言って苦しみ悶える両親を揺らしていた。メルもすでに苦しそうに左手と両膝を地につけている。
俺はこの夢の中ではいつも、何もできずにいる自分を隣で見続けるだけ……
父さんも……母さんも……妹のメルも……幼馴染のリレイも……みんな死んだ。俺は誰も救えなかった。俺だけが生き残ってしまった……
どうしてメルに先に帰らせてしまったのだろう。どうしてすぐにメルを連れて逃げなかったのだろう。メルだけは救えるはずだったのに……
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村の外れにぽつんと建てられた小さな物置。その中で、綺麗に整えられたベッドの上で寝ていた少年が目を覚ました。不揃いに切られた紺色の髪、そして目の翠色の虹彩が眩しいほど光る。
「くそっ……また二年前の夢か。俺がみんなを助けられなかった罰か……。体さえ動けば……この罪を償えれるのなら……絶対に殺してやるのに、セルナスト王。俺の手で……」
こんな意味のない言葉を何度唱えただろう。体も動かないくせに……
朝はいつもそんな無駄なことを考えるだけに費やされてしまう。
その時、いきなり物置の扉が開いた。朝特有の眩しい日差しと共に現れた女性は、躊躇なく家に入って来た。
「初めまして。君、面白い感情をしているね。赤と黒が混ざったとても強い色だ」
なんだ……なんで、いきなり……
毛先が紅掛かった白色のミディアムヘアの女性が碧い瞳で俺の顔を覗き込んできた。透き通るほど深く、強く輝く瞳の奥に自分が映る。まるで自分を見透かされているようだ。
歳は18歳くらいだろうか。ふんわりとした白いワンピースを着て、少し動くたびに服がとろんと揺れ動く。
「誰だ。何しにきた」
「私はアングレディシア。君の名前は?」
「俺の名前は、レクロマだけど……」
「近くを歩いていたらとても強い感情を感じたから、ちょっと寄ってみようと思ってね」
こいつ、頭がおかしいのか……
「さっき、強い怒りと殺意を抱いていたでしょ」
「なんで……なんで分かるんだ」
「私、感情が見えるの。君の混じり気のない純粋な感情もね」
何かやばい。さっさと出ていかせないと。
「君に付いていっていいかな。君と一緒にいればきっと面白いものが見られる。そう思うんだ」
「面白いものなんて何も無い。俺は何もできない、2年前から俺の四肢はもう動かないんだよ。身体の成長も止まった。俺の身体は15歳のままだ」
レクロマの顔は苦痛に歪んでいる。
「ここで寝て起きて、1日1回ご飯が運ばれるのを、窓の外の何も無い空を眺めながらただ待っているだけの生活だ。食事も排泄も、自分一人じゃ出来やしない。外からは俺を邪魔者扱いする声だって聞こえる。この気持ちがお前に分かるか」
「分かるよ」
アングレディシアと名乗った女は俺の目をまっすぐに見据えて言い放った。女は俺の体を見て何かを思いついたようにニヤリと笑う。
「私が動かしてあげようか」
「からかってるのか。そんなことできるわけないだろ」
「手、借りるね」
「おいっ、何する気だ」
女は俺の力の入らない右手を掛け布団の下から取り出して握った。すると女の体から無数の白い光の筋が現れ右手に集まり、1本の光の棒を紡いでいった。
「何だこれ? 剣? さっきまでいた女はどこに消えた」
できる限り首を動かしてなんとか手元をみると、女の姿はそこから消え、俺の手には透明感のある赤色に光る剣が握られていた。赤白い刃が流れるように交わり、鍔には大きな碧い宝石が浮いている。
刃はぬるぬると光り輝き、鍔の宝石は窓から差し込む光を複雑に反射させていた。
「私はここにいるよ。ちょっとだけ苦しいかもしれないけど最初の一回だけだから少しの間我慢してね」
頭の中に女の声が響く。
「えっ……どういう……」
がっ……ぐああぁぁ……苦……しい……。体の奥から溶けているみたいだ。
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いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「夢だったのか……二年前の事じゃない夢も、人と話すのも久しぶりだな。あんな夢ならまた見たい」
右手に違和感を感じ、目の前に持ってきて眺めると、そこには剣が握られていた。
「これって……夢じゃなかったのか……。ふぅ……流石にこんなに大きな剣はちょっと重いな。相変わらずとても美しい剣だ」
刃の赤白さの中にさらに複雑な濃淡があり、傾ける角度でその木目のような模様は姿を変える。
1メートル強はありそうなこの剣を俺みたいに貧弱な腕で持ち上げ続けるのは、どこか厳しいものがある。
「えっ……!」
驚きのあまりに跳ね起きた。
「動いてる。何で……」
ベットから降りて体を動かすこともできる。すごい、もう動くことなく死んでいくと思っていた。
2年振りだ……こんなことが起こるなんて。
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