婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空

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【25話】変わらない日々

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 空に合図を放ってからしばらく。
 
 マリアの元に、エリックが駆け寄ってきた。
 クルダール王国に転移してきた時とは打って変わって、傷だらけになっている。
 
「そんなボロボロになっちゃって何があったのよ! 大丈夫!?」
「色々な魔物と戦っていたら、こんなになっちゃいました」

 えへへ、とエリックは恥ずかしそうに笑う。
 
「それより、あのホワイトドラゴンを一人で倒しちゃうなんて凄いですね! さすがマリアさんです!」
「うん……ありがとうね」
「あんまり嬉しそうじゃないですね」
「見抜かれちゃったか」

 心配そうにしているエリックに、マリアは苦笑いする。

「嬉しくない訳じゃないのよ。ホワイトドラゴンは今まで戦ってきた中で、間違いなく最強の相手だった。とっても楽しい戦いができたわ。でもね、私の拳が通用しなかったの。それが、かなり悔しかったのよ」

 【物理攻撃絶対無効】というスキルを持っていた以上、ホワイトドラゴンに勝利するには、魔法を使用するほかなかった。
 あの時はそうするしかないと思ったし、実際にマリアはそうした。
 
 けれど、納得はしていなかった。
 拳を使って倒したかったという思いが、どうしても心に引っかかっている。
 
「なんだかマリアさんらしいですね」
「それどういう意味よ」

 微笑むエリックの額をコツンと小突く。
 そうすると、彼はさらに嬉しそう笑うのだ。
 
 それを見たら、どうしてかほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
 
「ありがとうね、エリック君」
「急にどうしたんですか?」

 不思議そうにしているエリックに、マリアはそっと微笑む。

「ううん、何でもないわ。よし、そろそろ帰りましょうか。いっぱい動いたから、お腹空いちゃった」
「でもここに来る前、夕食を食べてきたばかりですよ」
「そんなの関係ないわ。そうだ、ホワイトドラゴン討伐記念にたくさんごちそうを作ってよ!」
「作るのは構いませんけど、そんなにいっぱい食べたら太っちゃいますよ。そうなっても、僕は知りませんからね」
「エリック君、ひとつ忠告してあげる。デリカシーのない男の子はモテないのよ。せっかく可愛い顔しているのに、もったいないわ」
「別にモテなくてもいいですよ。だって僕の好きな人は……」

 顔を赤くしたエリックは、もごもごとしたまま口を閉じてしまった。
 何を言おうとしていたのだろうか。よく分からない。
 
(分からないけど、とりあえず帰ろうかしら)

 浮かんだ疑問に蓋。
 エリックの手を握り、【ワープ】の魔法を使おうとする。
 
 その直前、へたり込んでいる王国兵に呼び止められた。
 
「ま、待ってくれ」

 王国兵は体を震わせながらマリアを見る。
 
「名前……あんたの名前だけでも聞かせてくれないか?」
「マリア。何よりも勝負が大好きな冒険者のマリアよ」

 それだけ言ってから、マリアは【ワープ】の魔法を使う。
 見慣れた宿屋の部屋に、一瞬で風景が切り替わる。
 
 
「なんだか、戻ってきた、って感じがしますね」
「何よそれ。そのままじゃない」

 顔を見合わせた二人は、互いに同じような笑みを見せた。
 
******

 ホワイトドラゴン討伐から二か月。
 
 クルダール王国は、敏腕と言われる第二王子が中心となって国の復興に全力を注いでるらしい。
 将来は彼が国王になるのではないかと、もっぱらの噂だ。
 
 そんなクルダール王国は今、ホワイトドラゴンを一人で倒してしまったマリアの話で持ちきりだった。
『救国の聖女』だとか、はたまた『地獄からの使者』だとか、色々な名で呼ばれている。


 そんなことになっているのを、マリア本人はまったく気にしていなかった。
 現在も変わらず冒険者として、バリバリ依頼をこなす毎日を送っている。
 
 ホワイトドラゴンを倒したことで、王族の専属護衛騎士のスカウトなど、数え切れないくらいの誘いがマリアに殺到した。
 そのほとんどが格別の好待遇で、誰が見てもとってもオイシイ話だった。
 
 けれどマリアは、それらの誘いを一つ残らず断っていた。
 
 理由は簡単。
 冒険者を続けていた方が、強い相手と出会えそうだからだ。
 
「さぁエリック君、出発するわよ!」
「はい、マリアさん!」

 強い相手を求め、今日もマリアは依頼をこなしていく。
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