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【16話】魔術師団副団長との決闘
しおりを挟むリグダード王国には、王国兵が鍛錬するための施設である修練場がいくつか設けられている。
そのうちの一つがここ、第三修練場だ。
アーチ状に広がる屋根が、天井を覆っている。
内部はとても広く、千人程度を収容できるキャパシティーを持っている。
マリアとラウドの決闘は、そこを貸し切って行われることになった。
第三修練場の中には今、四人の人間がいる。
まずは、決闘者であるマリアとラウド。
二人は距離を置き、互いに向かい合っていた。
そこから離れたところには、エリックがいる。
そしてその隣にはもう一人、紫色の長い髪をした若い男性がいた。
彼の名はハーメル。
中性的な顔をした、とても優しそうな外見をしている。
王国魔術師団の団長をしており、今回の決闘の立会人をしてくれる。
「二人とも準備はいいかな?」
ハーメルが声を上げる。
中性的な顔立ちにピッタリな、静かで優しげな声だ。
「問題ない」
「えぇ、私も問題ないわ。いつでもどうぞ」
「それじゃ、始めて」
ハーメルが手を叩く。
それが決闘のゴングとなった。
最初に仕掛けたのはラウドだった。
「まずは様子見からだ。【火球】」
突き出した片腕の手のひらから、大きな火の球が放たれる。
大きさはかなりあるが、その反面、スピードはそれほどでもない。
キングオーガの戦斧の方がずっと速い。
避けようと思えば、簡単に避けられるだろう。
だが、マリアはそうしない。
向かってくる火の球を片手で無造作に払い、弾き飛ばした。
「おいおい、嘘だろ」
驚いているような言葉遣いだが、ラウドの口元には笑みが浮かんでいた。
「手を抜いたとはいえ、そんな簡単に対処されるなんて少し落ち込むな。キングオーガを討った実力は、やっぱり伊達じゃないみたいだ。これだったら、もう少し強めの魔法を使っても良いか」
今度は、両方の腕を突き出すラウド。
手のひらの先で、パチッと白い雷光が発生する。
「【双雷】」
集約された二つの白い雷撃が、直線状に向かってくる。
ホブゴブリン程度の魔物なら、容易く貫通できるほどの威力を持っていそうだ。
しかしその程度の魔法は、マリアにとって何の脅威にもならない。
先ほどの【火球】と同じようにして、片手で払いのける。
「余裕で対応してきたか。今の魔法を防げる奴は、魔術師団の中でも限られているっていうのに。その才能は本物だな、褒めてやる」
「あなたに褒められても、まったく嬉しくありませんけどね。次は、私から攻めます。死にたくなければ防御魔法の使用をお薦めします」
「は? どういう意味だ」
「どうって、そのままの意味です」
瞬き一つするより速く、間合いを詰めたマリア。
少し力を込めた拳を、ゼロ距離で繰り出す。
ラウドの体が勢いよく吹き飛んでいく。
せっかく忠告してあげたというのに、防御魔法を使わなかったみたいだ。
少ししてから、ラウドはよろよろと立ち上った。
不機嫌そうな顔で、口内の血をプッと吐き捨てる。
「どうしてすぐに追撃をしてこなかった。そうすればこの勝負、お前が勝っていたはずだ」
「そんな風に勝利を得ても、何の意味もありません。私は、本気の貴方をねじ伏せたいんです。そうしなければ、このイライラがスッキリしませんから」
「……そうか。つまり俺は、舐められているってことだよな」
パーツの整った美しい顔が、真っ赤に染まっていく。
ブラウンの瞳に、怒りの炎が燃え盛った。
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