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【14話】キングオーガ
しおりを挟む「ズォオオオオ!!」
大声で咆えたのは、鬼の顔をした巨大な魔物だ。
首の無いゴッゾの胴体を、丸太のような足でどっしり踏みつけている。
手に持っている大きな戦斧には、べっとりと血が付いていた。
冒険者たちが絶句している中、マリアはだけは違った。
現れた魔物の正体について思考を巡らす。
(オーガに似ているけど、違うわね)
オーガによく似た特徴を持っているが、大きく違う点がある。
まず、体の色。
通常のオーガは赤色をしているが、その魔物の体は金色に輝いている。
そして何といっても、大きさが違う。
巨大な体躯を持つオーガよりも、さらに二回りほども大きい。
オーガの上位種である、オーガの王。キングオーガだ。
滅多に現れることはないので、一般人の知名度はかなり低い。
しかしその危険度は、『赤鬼』と言われ恐れられているオーガを遥かにしのぐ。
(ミーナの言っていたことは、どうやら本当だったようね。今度何かお礼しなきゃ)
ふふふ、とマリアの口元が揺らぐ。
「うわぁぁぁぁあああ!!」
冒険者たちから一斉に悲鳴が上がった。
あのオーガの上位種が目の前に現れたという事実。そしてBランク冒険者が瞬殺されたという事実。
その信じられない二つの事実が、彼らに大きな恐怖と絶望を与えていた。
腰を抜かし、体を震わせながら地面にへたりこんでいる。
これでは、ただただ殺されるのを待っているのと変わらない。
そんな彼らを横目に、マリアはまったく臆することなくキングオーガに向かっていく。
その瞳は、らんらんと光り輝いていた。
(楽しい戦いになりそうだわ!)
腹の奥底から湧き上がる高揚感が、全身をくまなく満たしていく。
とてつもない危険度を持つ魔物と勝負できるなんて、嬉しくてたまらない。
地面を蹴り、キングオーガの懐に入り込むマリア。
まずは挨拶代わりに、軽いパンチを打ち込む。
キィィン。
キングオーガは戦斧の刀身を盾にして、マリアの拳を受け止めた。
甲高い金属音が森の中に響く。
「そうこなくっちゃ!」
目線はキングオーガに向けたまま後方に跳び、いったん距離を取る。
「今までの相手とはひと味違うようね! あははは!」
これまで色々な相手と戦ってきたが、攻撃を防がれたのは初めてだった。
普通なら落ち込む場面かもしれないが、マリアはまったくの逆。
レベルの高い相手と戦えることに、感謝感激の大興奮。
「グォォォオオ!」
唸るような低い声を上げながら、キングオーガが向かってくる。
元から恐ろしい鬼の顔が、さらに険しく厳つくなっていた。
怒りの感情が前面に浮き出ている。
楽しそうに笑うマリアの態度が、気に障ったのかもしれない。
戦斧を頭上に振り上げたキングオーガが、それを力いっぱいに振り下ろしてくる。
常人の動体視力では決して捉えることのできないであろう、恐ろしいほど速くて強力な一撃。
しかし、マリアにはその動きが見えていた。
躱そうと思えば余裕をもって躱せるくらいのゆとりは、まだ十分に残っている。
(避けられるけど、そんなことしたらつまらないじゃない! 私はこの戦いを楽しみたいわ!)
斧の一撃を避けずに、少し力を込めた拳をオーガに繰り出す。
それを合図にして始ったのは、ノーガードの戦い。
回避や防御を投げ捨てた両者は、ただひたすらに攻撃を撃ち合っていく。
大きな戦斧の刃を受けるマリアの体から、真っ赤な血が飛び散る。
だが、それは一瞬だけ。
傷を受けたそばから、その箇所を白い光が包む。
そして初めからダメージを受けていなかったのように、治癒していくのだ。
これは、マリアの意思とは関係なく常時発動している魔法【自動治癒】。
傷を受けると自動的に発動し、即座に傷を負った箇所を治癒するという、とても優れものの魔法だ。
そのため、同じノーガード戦法を取っているにもかかわらず、オーガはまったくダメージを与えられないでいた。
マリアの拳を一方的に浴びている。
怒りに満ちていたオーガの表情は、いつしか困惑へと変わっていた。
「あの女冒険者、キングオーガの攻撃を受けてもすぐ回復してやがる。そんなのアリかよ……」
「あいつ、笑いながら殴ってやがる。この戦いを楽しんでいるってのか」
傍観している冒険者たちは息を呑む。
彼らの恐怖の対象は、いつしかキングオーガからマリアに移り変わっていた。
そんな反応には目もくれず、拳を繰り出していくマリア。
そしてついに、決着の時が訪れる。
「グォ……」
息が抜けたような呻き声を上げ、大きな体がぐらりと揺れる。
キングオーガは、そのままうつ伏せに倒れた。
「とっても楽しい戦いができたわ! ありがとうね!」
晴れ渡る笑顔でお礼を言うマリア。
先の一撃で心臓が破裂したキングオーガには、その言葉が届くことはなかった。
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