婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空

文字の大きさ
上 下
10 / 25

【10話】冒険者としての日常 ※エリック視点

しおりを挟む

 懐かしいことを思い出しながら走っていたら、時刻は五時半を過ぎていた。
 
「もうこんな時間! ギルドに行かなきゃ!」

 依頼は早い者勝ち。
 少しでも条件の良い依頼を受けるには、依頼書が発行されるより前にギルドに行き、受付カウンターに並んでいる必要があった。
 
 
 ギルドに入り、依頼受付カウンターの列に並ぶ。
 幸い、エリックの前に並んでいる人はまだ少ない。
 これなら、好条件の依頼はまだ残っているはずだ。
 
 早朝にギルドに並んで依頼を受けるのは、エリックの仕事になっていた。
 初めのうちはマリアも一緒に来ていたのだが、二週間を過ぎた頃に『明日からはエリック君に任せるわ』と言ってきた。
 なんでも、早起きがしんどいらしい。
 
 そんな背景があるのだが、エリックはまったく気にしていなかった。
 むしろ憧れているマリアに信頼されているようで、ちょっと嬉しかったりもする。
 
「お次でお待ちの方、どうぞ」
 
 前の人が終わり、エリックの番になった。
 
「あら、おはようエリック君。今日も早いのね」
「ミーナさん、おはようございます」

 三か月近く顔合わせしていることもあり、受付嬢のミーナとはもうすっかり顔見知り。
 フレンドリーな関係を築けている。
 
「良い感じの討伐依頼はありますか?」
「うーん、Eランク冒険者が受けられるのは……」

 ミーナが依頼発注書をペラペラめくる。
 
 三か月の間に色々な依頼をこなしたことで、エリックとマリアはEランク冒険者に昇格した。
 
 とはいえ、受けられる依頼の難度はFランクの頃と大して変わらない。
 昇格したとはいえ、まだ下から二番目。難度の高い依頼は受けることができない。
 
「これなんてどうかしら」

 ミーナが選んだ依頼書は、ビッグボア一体の討伐依頼だった。
 場所はガルボ山だ。
 
 この内容なら、マリアは喜んでくれるだろう。
 喜んで受けようとしたエリックだったが、待ったをかける。
 
「この依頼の受注条件、Cランク以上になっているんですけど……」
「ふふっ、これは特別よ。あなた達なら大丈夫と思ってね」

 周りをざっと見渡したミーナは、小声で囁いた。
 
「いつも頑張っているエリック君へのご褒美よ。他の人には内緒ね」

 パチッとウィンクをするミーナに、エリックは小声でお礼を言った。
 
 
 依頼を受けたエリックは、ギルドを出て宿泊している安宿に戻った。
 
 朝食を作るため、共用のキッチンへ向かう。
 慣れた手つきでパンを切り、手際よくスープを作る。
 
 実家でずっと使用人の仕事をやらされてきたエリックの家事スキルは、相当なものになっていた。
 このことだけは、ビファレスト家に感謝しなければならない。
 
「よし、できた」

 完成した二人分の朝食をトレイに乗せ、マリアの部屋へ向かう。
 
「マリアさん、朝食の時間ですよ」

 声をかけるが、返事は返ってこない。
 
「入りますね」

 部屋に入ったエリックは小さなテーブルに座り、一人で朝食を食べ始める。
 これはいつもやっていることだ。
 
 しばらくして、マリアが目を覚ました。
 
「ふわぁ~」
 
 あくびをしながら、ぐいっと伸びをするマリア。
 モソモソとベッドから起きて、朝食に手を付け始める。
 
 ちなみに、これもいつものことだ。
 
「おはようエリック君」
「おはようございます、マリアさん!」

 眠そうに挨拶するマリアに、エリックは元気いっぱいに返す。
 
「今日は良い感じの依頼はあった?」
「はい。ビッグボアの討伐依頼を受注してきました。これも、ミーナさんが融通してくれたおかげです」
「ビッグボア……いいわね!」

 マリアの瞳がピカッと輝く。
 寝起きでスローだった動きが急加速。あっという間に朝食を平らげてしまう。
 依頼内容を聞いたことで、急にスイッチが入ったようだ。
 
「こうしちゃいられないわ! エリック君、早くガルボ山に行くわよ!」
「はい!」

 急いで朝食をかき込み、エリックは立ち上がった。
 
 
 ガルボ山に着いたエリックとマリアは、山頂を目指し登っていく。
 
 依頼書によれば、近頃、山頂付近に居着いたビッグボアが暴れているらしい。
 おかげで、ガルボ山を通りたい人が困っているのだとか。
 
「そろそろ山頂に着きますね」
「えぇ。もういつ出てきてもおかしく――って、言った側から出てくるとはね」

 ノシノシと近づいてくる大きな足音。
 それは間違いなくビッグボアのものだった。
 
 だが、聞こえてくる足音の数が多い。
 どう考えても、一体だけのものとは思えなかった。
 
 周囲を見てみる。
 二人の前に現れたビッグボアは、全部で五体いた。
 
(まさか、こんなにいるなんて……)
 
「一匹討伐すればそれで依頼完了ですけど、どうします?」
「決まっているじゃない。五体とも私が倒すわ」
「……ですよね。マリアさんならそう言うと思っていました」

 予想通りの答えが返ってきたことがなんだか嬉しくて、エリックは小さく微笑んだ。
 
「あの、一つお願いがあるんです」
「エリック君の方からお願いしてくるなんて珍しいわね。どうしたの?」
「一体、僕に譲ってくれませんか?」

 エリックは、今の実力を試したい気分になっていた。
 今朝昔のことを思い出したことが、彼をやる気にさせていた。
 
「エリック君にはお世話になっているし、仕方ないわね。……でも、今回だけだからね。分かった?」
「ありがとうございます!」

 明らかに嫌そうな顔をしているマリアに、エリックは苦笑いで頭を下げる。
 
 マリアから距離を取ったエリックは、群れている五体のうち一体だけを強く睨みつけて挑発。
 そのままゆっくり、誘うようにして横に歩いていく。
 
(群れから引き離す)
 
 うまいこと挑発に乗ってくれた一体が、エリックを追って群れから離れる。
 まずは、一匹だけを誘い出すことに成功した。
 
(あとは、僕の実力が通用するかだ)
 
 エリックが剣を引き抜く。
 
 それと同時。
 ビッグボアがいきなり突進をかけてきた。
 
 エリックは横方向に頭からダイブ。
 奇襲ともいえる攻撃を、辛うじて回避した。
 
 軽い打ち身を作ってしまったが、突進を食らって串刺しになることを考えれば上々だろう。
 
(あの巨大でなんて速さをしているんだ。あの突進をまともに喰らったらいけない。そうしたら多分、僕は死ぬ)

 立ち上がり、剣を構えるエリック。
 ひやりとした冷たい汗が背筋を伝う。
 
 ひしひしと感じるのは死の恐怖。
 この場から逃げ出したくなる。
 
 だが、そうしたら弱い自分に逆戻りしてしまう。
 無価値のまま人生を終えてしまう。
 
(そんなのは絶対に嫌だ! 先生、僕の戦いを見ていて下さい!)

 足を踏ん張り、ビッグボアを睨みつける。
 
 大きな牙を突き出したビッグボアが、再び突進してくる。
 
 その突進を、横方向に体をねじることで回避。
 併せて、ビッグボアの巨体を剣で斬りつける。
 
「ブ……ブモォ」

 小さなうめき声を上げて、ビッグボアはその場に倒れた。
 
 戦いを制したエリックは、安堵の息を吐く。
 
「ふぅ、なんとか勝てた」
「全部見てたわよ! エリック君も、案外やるじゃない!」
 
 笑顔のマリアは、勝利のVサインを送ってくれた。
 背後には、ビッグボア四体の屍が地に伏せている。
 
(僕の戦いを見ながら、ビッグボア四体を倒してしまうなんて……流石マリアさんだ!)

 マリアの凄さというものを、エリックは再確認した。
 
 
 無事に依頼を終えた二人は、ギルドで完了報告を済ませた。
 その頃にはもう、すっかり陽が沈んでいた。
 
 宿に戻ったエリックは、夕食作りを始める。
 
 今晩のメニューはシチューだ。
 高級食材であるビッグボアの肉を入れたので、いつもより豪勢になっている。
 本日ガルボ山で狩ってきたばかりの採れたて新鮮なお肉なので、なお美味しく仕上がっているはずだ。
 
「マリアさん、夕食が出来ましたよ」
「ありがとう。入って」

 マリアの部屋で、二人は夕食を食べる。
 
「う~ん、とっても美味しいわ!」

 シチューをパクっと口に入れたマリアは、とろけるような顔になった。
 
「お口に合うようで良かったです」
「やっぱりエリック君の料理は最高ね。掃除も洗濯も全部やってくれるし、パーティーを組んで本当に良かったわ!」

 笑顔のマリアがエリックの頭をわしわし撫でる。
 
 撫でられているエリックの顔は真っ赤になっていた。
 憧れであり、そして、した女性にこんなことされたらしょうがない。
 
 モンスターフォレストで出会ったあの日、あの瞬間から、エリックは恋に落ちていたのだ。
 
 マリアとパーティーを申し込んだ理由は、自分が強くなるために必要だと思ったからだ。
 でも、それだけじゃない。
 マリアの――好きな人の近くにいたいと思ったからだ。
 
 いつかはこの気持ちを打ち明けたい。
 でも、今はまだダメだ。
 
 マリアの横に並べるくらいに強くなるまで秘めておこう、そうエリックは決めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

処理中です...