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【7話】パーティーメンバー
しおりを挟むエリックからの突然の申し出に、面食らうマリア。
どうしてそんなことを言ってきたのかは分からないが、答えは既に決まっている。
「お断りさせてもらうね。私の望みはただ一つ、楽しい戦いをすることよ。一緒に冒険する仲間は求めていないの。悪いけど、他の人を当たってちょうだい」
「面倒なお願いを言っているのは、重々承知です! でも、どうにかなりませんか!」
エリックは食い下がる。
冗談を言っているとは思えない、本気の眼をしている。
正直、意外だった。
彼の優しい性格からして、素直に言うことを聞いてくれるものと思っていた。
(引き下がれない理由があるのかしら?)
エリックをここまで真剣にさせている何か。
その正体が、マリアは少し気になった。
「どうして私と組みたいと思ったの?」
「僕は強くなりたいんです!」
拳をギュッと握るエリック。
「弱くて何もできない自分を変えたくて、僕は冒険者になりました。だから、このまま終わりたくない……! マリアさんのような強い人の近くにいれば、僕も強くなれるかもしれない。そう思ったんです」
なりたい自分を夢見て、一生懸命必死にもがく。
そんなエリックに、奏の姿が少しだけ重なる。
だからマリアは、ちょっとした気の迷いを起こしてしまう。
「エリック君、あなた食事以外の家事も上手なの?」
「え?」
「いいから答えて」
「そうですね……それなりにはできると思います。経験がありますから」
「そう」
マリアはフッと微笑む。
「私の身の回りのお世話を全てすること。一番強い相手は私に譲ること。私の戦いの邪魔を絶対にしないこと。これが条件よ」
「あの……条件とはいったい?」
困惑しているエリックに、マリアは片目をパチッと閉じてウィンクを決める。
「決まっているじゃない、パーティー加入の条件よ。どう、守れる?」
「よ、よろしいんですか!」
エリックの顔がパァーっと輝いていく。
言葉にしなくても、答えが表情に表れている。
「あらためてよろしくね、エリック君」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
マリアとエリックは固い握手を交わす。
この日、リグダード王国に新たな冒険者パーティーが誕生した。
更地を出て、ギルドに戻る二人。
マリアは今度こそ、冒険者登録を済ませた。
「もうすぐ夜になりますし、依頼を受けるのは明日からですね」
「残念だけど、そうするしかないわね」
ギルドが発行する依頼書を通して、冒険者は依頼を受ける。
依頼書を発行するタイミングは一日一回、朝だけだ。
今の時間にはもう、目ぼしい依頼が残っていない。
「今日はもう休みましょう。そうだ、マリアさんって泊まる場所はもう決めているんですか?」
「いえ、決まっていないわ。そうね……野宿でもしようかしら?」
「ちょっと、何言ってるんですか!?」
むぅと膨れたエリックが、グイっと顔を近づけてくる。
「そんなの危ないですよ! 僕が宿泊している宿に行きましょう」
「でも私、お金持ってないわよ?」
モンスターフォレストにいた三日間のどこかで、マリアはうっかり財布を無くしてしまっていた。
魔物に戦いを挑むことに夢中で、落としたことにまったく気づかなったのだ。
そのため、今のマリアは一文なしなのである。
「大丈夫です。マリアさんの分は僕が出します」
エリックは意外に頑固な性格をしているようだ。
人は見かけによらないという言葉があるが、どうやらそれは本当らしい。
「うーん、やっぱり悪いからいいわよ」
「ダメです。僕はマリアさんの身の回りの世話を、全て任されているんですから」
「そういえば私、そんなこと言ったわね。もう忘れていたみたい。忘れっぽいのかしら?」
二人は顔を見合わせ、どちらともなく笑い声を上げ始めた。
こんな風に心から笑ったのは、マリアにとって初めてのことだった。
聖女をしていた時には味わえなかった、心温まる体験。冒険者になって、やっぱり良かったと思った。
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