5 / 25
【5話】冒険者ギルドでのいざこざ
しおりを挟むモンスターフォレストから歩いて、一時間ほど。
陽が沈み始めた頃、マリアとエリックはリグダード王国の王都に足を踏み入れていた。
「ふーん、ここがリグダード王国なのね」
エリックの後ろを歩くマリアは、街並みにキョロキョロと顔を動かす。
(クルダールとは、雰囲気が結構違うわ)
壁に書かれたいくつもの落書き。
柱にひびが入った建造物。
飲んだくれ、ケンカをしている酔っ払い。
端的に言うと、かなり治安が悪い。
何よりも秩序を重んじるクルダール王国の王都の街並みとは、正反対の雰囲気だ。
だがその一方で、住民はどこか生き生きしているように思えた。
大声を上げて客寄せしている露店商の店主。
立ち止まり、楽しそうに談笑している女性。
元気な笑顔で街を駆けまわる子どもたち。
そこには、縛られない自由のようなものを感じる。
それがこの国の特色なのかもしれない。
(なんだが、そういうのって良いわね)
口元に手を当て、マリアは小さく笑った。
これからの自分の生き方には、こういう雰囲気が合っているような気がした。
「着きましたよ。ここが冒険者ギルドです」
街の中央にある噴水広場。
その近くに、ギルドは建っていた。
中に入ってみると、多くの冒険者で賑わっていた。
そのほとんどが厳つくて、ガラの悪い者ばかりだった。
「それじゃあ僕は、依頼完了報告をしてきますね。新規登録はあちらのカウンターで出来ます」
「食事のことといい、ここのことといい、色々親切にありがとうね。本当に助かったわ」
ここまでのお礼をこめて、マリアは深くお辞儀した。
「あの、もし一緒の依頼を受ける機会があったら、その時はよろしくお願いします」
「えぇ、楽しみにしてるわ。それじゃあね」
なんだか寂し気なエリックに手を振り、マリアは新規登録を受け付けているカウンターに向かった。
「冒険者の新規登録をしたいのだけど、よろしいかしら」
「かしこまりました。そうしましたら、こちらの書類にお名前を記入ください」
「ありがとうね」
「おいおい、やめとけよ姉ちゃん」
受付嬢の指示に従いペンを手に取ったところで、テーブルに座るガラの悪い大男が声をかけてきた。
そのテーブルには、他にも数人の男たちが座ってる。揃いも揃って全員ガラが悪い。
酒の入ったジョッキを片手に、下品な笑みを浮かべていた。ガラだけでなく、頭も悪そうだ。
「冒険者っていうのは過酷な世界なんだ。てめぇみたいな弱そうな女に務まるはずがない。そんな綺麗な顔してるなら、娼婦にでもなった方がいいんじゃねぇか? きっと人気間違いなしだぜ?」
大男がそう言うと、テーブルからドッと笑い声が上がった。
(面倒くさいわね)
小さくため息を吐いてから、マリアは書類に名前を記載しようとする。
「おい、無視してんじゃねぇよ!」
大男が勢いよく立ち上がる。
大きな足音を立てながら向かってきて、マリアの肩を強く掴む。
「せっかく忠告してやってるって言うのに、無視するってのはどういうことだ!」
「無視はしていません。聞く必要性をまったく感じなかったので、聞き流していただけです」
「それを無視って言うんだよ!」
「そうなんですか。教えていただきありがとうございます。勉強になりました」
「この、クソアマっ……!」
大男の顔がトマトみたいに真っ赤に染まる。
唇はプルプル震え、鼻息が荒くなった。
「俺がDランク冒険者と知ってのことか!」
男の言葉に、マリアはピコンと反応する。
冒険者には、F~SSまでのランクが与えられている。
例外はあるが、ランクが高いほど実力も高い。
モンスターフォレストからギルドに来るまでの間、エリックがそんなことを言っていた。
ちなみに駆け出しのエリックは、一番下のFランクだそうだ。
(F、E、D……下から三番目か。どれくらい強いのかしら)
この大男の持つDランクというのが、どれほどの強さか気になる。
外見と言動からしてあまり強そうには見えないが、かなりの実力を持っているのかもしれない。
「ねぇ、私と勝負してくれない?」
「あぁ!? 何言ってんだ!」
声を張り上げる大男に、マリアはニコリと笑いかける。
「私が敗けたらあなたに謝罪するわ。そして、忠告してくれた通り冒険者になることは諦める」
「……ハ、ハハッ! 俺をDランク冒険者と知って勝負を挑んでくるとは、良い度胸じゃねぇか! いいぜ、乗ってやる! 後悔すんじゃねぇぞ!」
ガハハと笑う大男。
その笑い声からは、揺るぎない勝利の自信が溢れている。
「ありがとうございます」
彼と向かい合うマリアもまた、誘いを受けてくれたことに喜び、静かに口角を上げていた。
595
お気に入りに追加
949
あなたにおすすめの小説
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる