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【17話】温かい気持ち

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 アリシアの心には温かい気持ちが広がっていた。
 
『彼女は俺とって、世界一大切な女性だ! ずっとここにいてもらう! 貴様たちのような輩には、絶対に渡さん!!』
 ルシルが言ってくれたその言葉が、とてつもなく嬉しかったのだ。
 
「ルシル様の意向は分かりました。お飾りの妻であるアリシアのことをそこまで大切に思っているとは、正直意外でしたけど」

 呆れ顔になったシーラが、肩をすくめた。

「ですが、アリシアはどう思っているでしょうね」

 アリシアへ視線を向けるシーラ。
 口元には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。
 
「アリシア。私たちのところへ帰ってきてちょうだい。お願いよ」
「貴様、ふざけたことを――」
「ルシル様」

 助けようとしてくれたルシルを、言葉で制したアリシア。
 大丈夫です、という意味を込めて首を横に振る。
 
「シーラ様が嫁いできてからの七年、私はいつも言うことを聞いてきましたよね」
「そうよ。そして今回も、今ままでと同じ。あんたは私の言うことを聞いてくれる――そうでしょ?」
「……今回ばかりはダメです」

 グッと拳を握ったアリシアは、まっすぐにシーラを見る。
 
「あなたの言うことには従えません。私はここにいたいのです」
「…………は?」

 勝ち誇った笑みが、シーラの顔から消える。
 代わりに浮かんだのは、大きな驚きだった。
 
「ねぇ、よく聞こえなかったんだけど? もう一度言ってくれる?」
「あなたには従えない。そう言ったんです」
「あんたねぇ……!」
 
 ピクリと眉を上げたシーラが、大きく舌打ちをした。
 
「ルシル様は優しくて、とっても素敵なお方。そんなお方の隣に、私はずっといたいのです。あなたたちのところへなど、死んでも戻りたくありません!」
「……なによそれ。なんなのよそれは!!」

 シーラの顔が真っ赤に染まった。
 全身から、大きな怒りが溢れていく。
 
「ふざけんじゃないわよ!!」

 勢いよく立ち上がったシーラ。
 掴みかかろうと、アリシアへ腕を伸ばしてくる。
 
 その腕が、アリシアに届く直前。
 
「動くな!!」

 一喝。
 ルシルの大きな声が、部屋いっぱいに響いた。
 
 大きな声量と迫力を持ったその声に、シーラは愕然。
 動きが止まる。
 
「少しでもアリシアに触れてみろ。貴様ら二人とも、この場で処分してやるからな……!」

 冗談ではない、これは本気だ。
 殺意のこもったルシルの鋭い目つきが、それをありありと物語っていた。
 
 ルシルの怒りを真っ向から受けたシーラとダートンは、すっかり委縮。
 口を半開きにして、ぶるぶると体を震わせている。
 
「話は終わりだ」

 吐き捨てるように言ったルシルは、外で待機していた私兵を部屋の中に呼びつける。
 
「こいつらを外につまみ出せ」

 私兵によって、連行されていく二人。
 彼らは部屋を出ていく最後まで、ルシルの雰囲気に圧倒されていた。
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