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【46話】新たなミッション
しおりを挟むステラに告白の返事をした翌日。
放課後である今、リヒトは旧校舎の空き部屋にいた。
手紙で呼び出した人物が来るのを、丸テーブルに座りながらじっと待っている。
ゆっくりとドアが開く。
ウェーブがかった長い金髪を揺らしながら、女生徒が部屋に入ってきた。
「久しぶりだな、リリーナ」
「…………話ってなに?」
昼休憩、リヒトはリリーナの机の中に手紙を忍ばせておいた。
伝えたいことがある。放課後、いつもの空き部屋に来て欲しい――手紙に書いたのは、そんな内容だ。
深く息を吸ったリヒトは、まっすぐにリリーナを見る。
「好きだ」
躊躇うことなく、一息で言い切った。
本心をどうやって伝えるか色々考えたのだが、リヒトは駆け引きみたいのが苦手だ。
だから、ごくごくシンプル。直球勝負でいくことにした。
女の子に告白するなんて、これが人生初めてだ。
ドキドキしながらリリーナの反応を待つも、
「…………ステラは? ステラから告白されたんでしょ?」
返って来たのは、イエスでもノーでもない。
直球勝負の言葉がもたらしたのは、まさかまさかの意外な結果だった。
(というか、それ以前におかしくないか)
「どうしてお前がそのこと知ってるんだよ。それにステラのことは、今は関係ないだろ」
「いいから答えて……!」
問い詰めるリリーナの目尻には、涙が溜まっていた。
色々疑問はあるが、これに答えなければ先には進めないような気がする。
昨日のことを思い出したリヒトは、バツが悪くなって視線を逸らした。
「……断ったよ。お前とは付き合えないって、そう言った」
「ッ……!」
唇を噛みながら近づいてきたリリーナが、リヒトの両肩を強く握った。
「馬っっ鹿じゃないの!!」
怒声が飛んでくる。
けどそれは単なる怒りの声ではなくて、いっぱいいっぱいのせつない感情が込められていた。
「ステラはずっとあんたを――あんただけを想い続けてたのよ!」
「ああ、知ってる」
「くっつけば幸せになれたのに!」
「そうかも……しれないな」
「私はあんたに幸せになって欲しかったのに! だから、距離を取ったのに! どうして……どうしてよ!!」
「ステラと俺をくっつけるのに邪魔だと思って、お前は自ら距離を取ったのか?」
リリーナは答えない。
代わりと言わんばかりに、瞳から涙がこぼれ落ちた。
こういうとき、この言葉を言うのは違うだろう。
それでもリヒトは、「好きだ」と口にした。
距離を取った理由は、リヒトの幸せを願ってのことだった。
それを聞けて、やっぱりリリーナが好きなのだと実感できた。
むしろ、もっともっと好きになった。
「ごめんな。お前の気持ちを無駄にしちまった。……でも、俺は自分の気持ちに嘘はつけない。どうやっても俺は、お前のことが好きらしい」
「馬鹿馬鹿馬鹿! リヒトの大馬鹿!!」
泣きじゃくるリリーナが、リヒトの胸をポカポカ殴ってきた。
どうしていいか分からなくなるリヒト。
胸に飛び込んでくるとか、そんな甘い妄想をしていただけに、リリーナの反応が予想外だった。
何か言うべきか、とか、頭を撫でるべきか、とか色々考える。
しかし、どれも違う気がする。
そうしていると、
「目を瞑りなさい!!」
とリリーナが、声を上げた。
いきなりの命令に目を白黒させていたら、「早くして!」と急かされてしまった。
ギュッと目を閉じたリヒトは、歯を食いしばった。
(ビンタかな……)
リヒトの愚かさにキレているリリーナが何をしてくるかなんて、分かったもんじゃない。
ビンタか、はたまたグーパンが飛んでくる可能性だってある。
最悪、殴り殺されてしまうかもしれない。
迫りくる暴力を想像し、リヒトはビクビクしながらその時を待つ。
けれど、
「えっ!?」
首の後ろに手を回されたような感触。
そして、唇に熱い感触。
想定外の二つの感触に驚き、リヒトはパッと目を開ける。
キス、をしていた。
学園きっての超有名人で、ゲームの悪役令嬢で、想い人である彼女と、キスをしていたのだ。
「っ!?」
びっくりした表情になったリリーナは、首の後ろに回していた両手を解き、慌てて唇を離した。
紅潮している頬は、ルビーのような瞳の赤よりもさらに赤くなっている。
「どどどうして目を開けてるのよ! 閉じてろって言ったじゃない!!」
「あ……ごめん」
と、謝るが、今はそんな場合ではない。
確かめなければいけないことがある。
「聞きたいんだけどさ……えっと、これはつまり、リリーナも俺と同じ気持ちってことで――」
「言わせないでよ! 最低!!」
プイっと横を向いてしまう。
そんな姿がたまらなく愛おしい。
我慢できなくて真っ赤な頬に軽く口づけをすると、さらに赤みが濃くなった。
それを、何度も何度も繰り返す。
可愛くて愛おしくて、歯止めが効かなくなってしまう。
「ちょっと、いい加減にして!」
ストップがかかる。
流石にやりすぎてしまったようだ。
(もっとキスしたいのに)
反省しつつも、これで終わりだと思うとしゅんとなる。
まだまだ物足りない。
どれだけリリーナのことが好きなのか、もっと知って欲しい。
「ほっぺにされるのって、なんだか子ども扱いされてるみたいで嫌。……だから、こっちにしてよ」
瞳をギュッと瞑ったリリーナが、唇を突き出した。
(可愛いすぎかよ!)
なんとも可愛いお願いに、リヒトはすぐに応える。
すぐに口を近づけ、とろけるような熱いキスをリリーナと交わした。
******
リリーナの恋心を叶える――その目的は達成された。
これでリリーナは闇堕ちすることはなくなったはずだ。
よって、未来の惨劇は回避された。
しかし、油断はできない。
ふとしたことがきっかけで、リリーナが闇堕ちしてしまう可能性というのは捨てきれない。
だから、リヒトは決めた。
闇堕ちする暇なんてないくらい幸せにしてやる、と。
どんな時も側にいて、全身全霊でサポートする。
もしリリーナが嫌と言っても、絶対に離れてなんかやらない。
こうして、一生をかけたリヒトの新たなミッションがスタートした。
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