上 下
37 / 46

【37話】ダンスのお誘い

しおりを挟む

 中庭のベンチでステラと昼食を食べているリヒトは、吹いてきた風に体を震わせた。
 
「うおっ、寒いな」
「ですね」
 
 季節はすっかり冬。
 ダンスパーティーの開催日まで、二週間を切っていた。
 
 リリーナは無事、クロードとペアを組めていた。
 クロードと組めたわよ! 、と一週間ほど前に喜んで報告してきた。
 
 リヒトのもくろみ通りに、事は進んでいる。
 ダンスパーティーにおいてやるべきことは、これでとりあえず無いだろう。
 
「もうすぐダンスパーティーですね。リヒトさんはご出席なさるのですか?」
「まさか。俺は出ないよ」
「そうなんですか? 私はてっきり、リリーナさんとご出席されるものとばかり」

 不思議そうにしているステラに、リヒトは深いため息を吐く。

「……どうしてそうなるんだ。あいつが好きなのはクロードだぞ。それはステラも知ってるだろ」
「そうでした。リヒトさんとリリーナさんは、ただのお友達……ですものね」
「当たり前だろ。今さら何言ってんだ」

 リヒトは怪訝な表情になる。
 分かり切っているであろうことを、ステラは念押しするかのように聞いてきた。
 
(しかも笑ってるし)
 
 どうしてかステラは、嬉しそうにしている。
 ますます訳が分からない。

「ということは、リヒトさんは今、フリーなんですよね?」
「まぁ、そうなるな」
「でしたら、私とペアを組んで出席してくれませんか?」

 体を寄せてきたステラが、上目遣いで見上げてきた。
 ミルク色の髪から流れるふんわりとした香りが、リヒトの鼻腔をくすぐる。
 
 リヒトの心拍数は今、急上昇していた。
 匂いを感じるほどに接近されて緊張しているということもあるが、それだけではない。
 
 ダンスパーティーに出席する男女のペアは、付き合っているか、それに近しい関係にあるか――そのどちらかがほとんどだ。
 
(つまりステラは、俺とそういう関係になりたいってことか!?)

 どうしよう。なんて答えるべきか。
 
 ステラのような超絶美少女からそんな風に思われていたとは、本当に驚きだ。
 今の気持ちを端的に表すならば、ものすごく嬉しい。
 
 しかし、あまりにも突然すぎる。
 
 ステラの誘いは、言わば告白。
 告白した経験もされた経験も皆無のリヒトは、まったくもって心の準備ができていなかった。
 
「私、ダンスパーティーに出てみたいんです。でも、リヒトさん以外の男子生徒に声をかける勇気はなくて」
「…………あぁ、そういうことか」

 ステラはただ単純に、ダンスパーティーに出席したいだけだった。
 男女一組で参加する、という参加条件を満たすために、リヒトを誘ったに過ぎない。
 
 つまり、リヒトが想像していたような関係になりたい訳ではなかったのだ。
 
(俺の勘違いかよ)
 
 ガックリと肩を落とす。
 
 勝手に勘違いして、勝手に舞い上がってしまった。
 そんな自分が哀れで、とてつもなく悲しくなる。

「あの、いかがでしょうか?」
「いいよ。一緒にペアを組もう」

 ダンスパーティーにはまったく興味ないが、ステラのお願いとあらば断わる訳にはいかない。

「ありがとうございます!」

 ステラは満面の笑みをみせた。
 そんなにも、ダンスパーティーに出てみたかったのだろうか。
 
 きらびやかな場所が好きなタイプとは思えないし、ステラの笑顔の理由がまったく分からなかった。
 
(引っかかる所はあるけど……いっか)
 
 でもこうして、彼女は笑ってくれた。
 その眩しい笑顔を見ていると、こっちまで元気を貰える。癒される。
 
 だからもう、細かいことはどうでもよくなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪ルートを全力で回避します~乙女ゲームに転生したと思ったら、ヒロインは悪役令嬢でした~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲームのヒロインに転生した。貧乏な男爵家の娘ながらも勉強を頑張って、奨学生となって学園に入学したのだが、蓋を開ければ、悪役令嬢が既にハーレムを作っていた。どうやらこの世界は悪役令嬢がヒロインのようで、ざまぁされるのは私のようだ。 ざまぁを回避すべく、私は徹底して目立たないようにした。しかし、なぜか攻略対象たちは私に付きまとうようになった。 果たして私は無事にざまぁを回避し、平穏な人生を送ることが出来るのだろうか?

自分から売り込みに行ってやる〜娼館エンドなんてまっぴらゴメン〜

かぜかおる
ファンタジー
殴られ、倒れた拍子に頭を打って自分が悪役令嬢に転生したことに気付いたロザリー ヒロインを虐め倒すはずが、乙女ゲームの設定とは違い虐められている!? このままいくとロザリーは娼館エンドまっしぐらだが・・・ 娼館に売られるくらいなら、自分から売り込みに行ってやる! プロローグ的なロザリーのモノローグ R15は保険です。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

処理中です...