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【33話】いつも通り

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 放課後。

 リヒトは空き部屋に向かう。
 今日も彼女は来ない、と分かっていながらも向かうのだ。
 
 デートの練習をした翌日から、リリーナは空き部屋に来なくなった。
 それがもう、数週間も続いている。

 彼女が空き部屋に来ることは、金輪際ないのかもしれない。
 
 それでもリヒトは毎放課後、一日も欠かすことなく、空き部屋に通い続けている。
 それをめたら、リリーナとの関係が終わってしまうような気がした。
 
 あんな喧嘩別れみたいな終わり方に、納得がいっていなかったのだ。

 ドアを開け空き部屋に入る。
 
「遅いじゃない」
 
 聞き覚えるのある声が、すぐに飛んできた。
 
 そこには、来ないと思っていたはずの彼女が来ていた。
 白い丸テーブルのふちに寄りかかっている。

 背筋をピンと伸ばしたリヒトは、短い悲鳴のようなものを上げた。
 幽霊でも見ているかのような気分になる。
 
「何よその反応。失礼しちゃうわね」
「……す、すまん。いるとは思わなかったから」
「今日は話があってきたのよ」

 長い金髪を指でくるくる巻きながら、リリーナはテーブルに座った。
 
「私、この前デートしてきたの。クロードとね」
「……そうか」

 小さく呟いてから、リリーナの対面に座る。

 デートをしてきたということは、それはつまり、告白してきたということだ。
 二人は両想い。
 リリーナの告白は成功し、結ばれることとなったのだろう。
 
 これでめでたく、目的は達成されたという訳だ。
 
 だから、これからリリーナが言ってくるであろう言葉が、リヒトには容易に想像できてしまう。
『これであんたとの関係は終わり。今までご苦労様』と、そんなことを言ってくるはずだ。

(けっこうキツイな)

 クロードに告白する、そう聞いたときから、こういう日が来ることは分かっていた。
 
 いや、違う。本当はもっと前からだ。
 リリーナの恋心を叶えると決めたあの時から分かっていた。
 
 しかしいざその瞬間を迎えてみれば、心が締め付けられるような感覚になってしまう。
 なんて不甲斐ないのだろうか。
 
「でも結局、告白できなかったのよ」
「…………は?」

 耳を疑った。

 飛んできたのは、まさかの言葉。
 成功とか失敗とか、それ以前の話だった。
 
 完全に予想が外れたリヒトは、緑色の目を大きく見開く。
 
「いざ告白しようと思ったら、その……緊張して言えなくなっちゃったのよ!!」

 告白しなかったということは、二人はまだ結ばれていない訳で、つまりそれは、これからもこの関係が続いていく訳で。
 そんなことを考えてしまったリヒトは、つい頬が緩んでしまった。
 
「そういう訳だから、今後とも恋愛相談は継続――って、ちょっとあんた! 私が失敗したっていうのに、何笑ってんのよ!」
「悪い悪い。そう怒んなよ」

 半笑いで謝るも、リリーナはフンと鼻を鳴らすだけ。
 拗ねてしまったようだ。
 
(よし、いつも通りだ)
 
 リヒトは微笑ましい気持ちになる。
 失われそうだった楽しい時間が戻ってきた、そんな気がしたのだ。
 
 告白できなかった、という結果は、良いか悪いかで言ったら悪いのかもしれない。
 それでもリヒトは、そうなって良かったと思ってしまうのであった。
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