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【26話】ステラからのお誘い
しおりを挟む校舎から出たリヒトは、中庭の端にあるベンチに向かった。
そこには既に、ステラの姿があった。
極上の美少女っぷりは、本日も健在だ。
ステラは膝の上に手を乗せ、じっと座っている。
昼食にはまだ手をつけていなかった。
「もしかして、俺が来るのを待っていてくれたのか?」
「はい」
「先に食べててくれて良かったのに。俺に気を遣う必要はないぞ」
「私がそうしたかったんです」
ステラがニコリと笑う。
そう言ってくれるのは嬉しいが、申し訳なさでいっぱいになるので気を遣わないでほしい。
「あれ? そのバスケットは?」
「こいつはだな……廃棄予定だった食材を押し付けられたんだ」
ステラの隣に腰を下ろしたリヒトは、このバスケットを貰うにいたった経緯を話した。
「クロードさんのために苦手なお料理を……。リリーナさんは本当にクロードさんのことが大好きなんですね」
「知ってたのか」
驚きだ。
リリーナが恋焦がれている相手を、ステラに話した覚えはない。
「クラスの人たちが話しているのが、偶然耳に入ってきたんです」
「なるほどな」
リリーナがクロードを好きというのはかなり有名な話だ。
そして二人とも、学園ではかなりの有名人。
クラスの連中が話していたとしても、まったく不思議ではない。
「でも、それだけじゃありません。以前、リヒトさんの家に四人で集まって試験勉強をした時のことを覚えていますか?」
「ああ」
「クロードさんを見るリリーナさんの瞳が、私にはとても特別なものに思えました。その時、確信したんです。この人はクロードさんに恋しているんだな、って」
リリーナの瞳が恋する乙女になっていたことなど、今までリヒトはまったく気づかなかった。
放課後はいつも一緒にいるのにだ。
それなのにステラは、たった一度会っただけで気づいたという。
「……すごいな」
恐るべし洞察力を前にしたリヒトは、感心を通り越したあまり、やや呆けた反応しか返せなかった。
「あの……一つお伺いしたいのですが」
やけに強張った表情で、ステラが声を上げた。
緊張しているのか、声が少し震えているように思える。
「ごめんなさい……。やっぱりなんでもないです。気にしないでください」
「そう言われると逆に気になるな。どうしたんだ? 遠慮せずに言ってくれ」
ステラは逡巡する様子をみせたあと、決意したように少し顎を引いた。
「えっと、その……リヒトさんとリリーナさんは、ただのお友達なんですよね?」
「そうだけど……どうしてそんなこと聞くんだ?」
「いえ、深い意味はありません」
そう言ってから、ごまかすようにして笑ったステラ。
質問の意図は分からなかったが、何はともあれ元に戻ってくれて良かった。
せっかくの昼休憩なのに、強張っているなんてもったいない。
「リヒトさん、次の休日って空いてますか?」
「おう。特に予定はないかな」
「実は、『おねーちゃんの友達を連れてきて』と、妹にせがまれているんです。もしよければ私の家にご招待したいのですが……やっぱりご迷惑ですよね」
「迷惑な訳あるか。喜んでお邪魔させてもらうよ。ステラの妹に会ってみたいしな」
「ありがとうございます!!」
眩しい笑顔を浮かべたステラが、ぐいっと顔を寄せてきた。
至近距離で見てみれば、なおさらに美少女だ。
「ステラの妹もお姉ちゃんに似て、きっとものすごく可愛いんだろうな」
「か、可愛い……私が!?」
ぶわーっと、ステラの顔が一気に真っ赤になった。
両手で顔を覆い、下を向いてしまう。
「大丈夫か?」
急な変わりように心配になったリヒト。
覗き込むようにして彼女の顔を見上げる。
「…………いきなりそういうことを言うのは反則です」
ぷいっ。
ステラにそっぽを向かれてしまった。
それからしばらく、ステラは口を利いてくれなかった。
怒らせてしまったのかもしれないが、リヒトにはまるで心当たりがなかった。
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