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【21話】ステラの不安

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 レーベンドフェスティバルから、一か月ほどが過ぎた。
 
 季節は七月。
 本格的な夏の入り口を迎えている。
 
「暑いわね」
「だな」

 空き部屋の丸テーブルの上に、リリーナとリヒトは似たような格好で、だらんと突っ伏せる。
 
 うだるような暑さの日が続く今も、毎日旧校舎の空き部屋に集まっている二人。
 やっていることといえば、リリーナの恋愛相談に関わることが二割、残りは関係ない雑談をしている。
 
「アイス食べたくなってきたわ……。ねぇ、リヒトは何味が好き?」
「うーん……チョコレートかな」
「ぷっ、お子様ね」

 こんな風に、雑談の内容はかなり下らない。

 そんな生産性の欠片もない話をいくつかしていたら、いつしか空が赤くなっていた。
 解散の時間だ。
 
「じゃあねリヒト。また明日」
「いや、恋愛相談室は再来週まで休みだ」
「なんでよ?」
「期末試験があるだろ。もしかして、忘れているのか?」
「忘れてないけど、それがどうしたの?」
「どうしたの、って……。試験勉強をするからに決まってるだろ」

 メルティ魔法学園では定期的に学術試験が行われているのだが、難易度が異常に難しい。
 
 その上、成績不良者にとことん厳しい。
 来週行われる期末試験の成績が一定の基準に達しなければ、地獄のような量の課題を出されてしまう。
 
 しかしそれで済めばまだ良い方で、あまりも成績が悪いと退学処分を受けることもあるのだ。
 去年も成績不良が原因で、数人の生徒がこの学園を去っていった。
 
「お前は勉強しないのかよ」
「する訳ないでしょ。あんな簡単な問題、わざわざ勉強しなくたって余裕で解けるわよ」

(ああ、そうだった……)

 リリーナは天才。
 勉学の才能にも秀でている。
 
 凡人にとっては難しいと感じる期末試験も、彼女にとっては朝飯前なのだろう。
 
「あんたは違うの?」
「天才のお前と一緒にするな。俺みたいな凡人は、必死になって勉強しなきゃならないんだよ」

 とは言ってみるものの、リヒトの頭は決して悪くはない。
 もっと踏み込んで言えば、結構良い。
 一年の頃から、成績上位者と呼ばれるだけの結果は残している。
 
 勉強しなくても、そこそこの成績は取れる自信はある。
 一定の基準に達しないなんてことは、万が一にも起こらないだろう。
 
 だがそれでも、念のためだ。
 
「ふーん、凡人は苦労しているのね」
「お前にも苦労を分けてやりたいよ」

 厭味ったらしく悪態をついて、リヒトは空き部屋を去っていった。
 
 
 翌日の昼。
 リヒトの隣で昼食を摂るステラの顔には、不安の色がありありと浮かんでいた。
 
「ここの学園って、試験の成績が悪い人にはすごく厳しいんですよね……?」
「ああ。退学になることも珍しくないな」
「……どうしよう。このままじゃ私、退学になっちゃう……」

 真面目に授業を受けているのに成績が悪い――ステラにはそんな設定がある。
 マジカルラブ・シンフォニックでは、クロードに勉強を教えて貰うことで、なんとか期末試験を乗り切っていた。
 
 このまま何もしなければ、ステラが退学になってしまう可能性がある。
 
「俺で良ければ勉強を教えようか?」

 それをただ黙って見過ごすなんて真似、リヒトにはできなかった。

「よろしいのですか!」
「ああ。毎日ステラの美味しい昼食を食べるのが、俺の楽しみだからな。お前にいなくなられたら困る」
「嬉しいです……!」

 いっぱいの不安が浮かんでいたステラの表情に、明るい光が射した。
 
「そうだ。他に二人誘ってもいいか?」

 リリーナとクロードを誘うことを思いつく。
 癖はあるものの、二人とも良いヤツなのは確か。
 きっと、ステラの良き友になってくれるだろう。
 
 現状、ステラの友達はリヒトしかいないはずだ。
 余計なお世話かもしれないが、さらなる友人をステラに作ってあげたかった。
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