21 / 46
【21話】ステラの不安
しおりを挟むレーベンドフェスティバルから、一か月ほどが過ぎた。
季節は七月。
本格的な夏の入り口を迎えている。
「暑いわね」
「だな」
空き部屋の丸テーブルの上に、リリーナとリヒトは似たような格好で、だらんと突っ伏せる。
うだるような暑さの日が続く今も、毎日旧校舎の空き部屋に集まっている二人。
やっていることといえば、リリーナの恋愛相談に関わることが二割、残りは関係ない雑談をしている。
「アイス食べたくなってきたわ……。ねぇ、リヒトは何味が好き?」
「うーん……チョコレートかな」
「ぷっ、お子様ね」
こんな風に、雑談の内容はかなり下らない。
そんな生産性の欠片もない話をいくつかしていたら、いつしか空が赤くなっていた。
解散の時間だ。
「じゃあねリヒト。また明日」
「いや、恋愛相談室は再来週まで休みだ」
「なんでよ?」
「期末試験があるだろ。もしかして、忘れているのか?」
「忘れてないけど、それがどうしたの?」
「どうしたの、って……。試験勉強をするからに決まってるだろ」
メルティ魔法学園では定期的に学術試験が行われているのだが、難易度が異常に難しい。
その上、成績不良者にとことん厳しい。
来週行われる期末試験の成績が一定の基準に達しなければ、地獄のような量の課題を出されてしまう。
しかしそれで済めばまだ良い方で、あまりも成績が悪いと退学処分を受けることもあるのだ。
去年も成績不良が原因で、数人の生徒がこの学園を去っていった。
「お前は勉強しないのかよ」
「する訳ないでしょ。あんな簡単な問題、わざわざ勉強しなくたって余裕で解けるわよ」
(ああ、そうだった……)
リリーナは天才。
勉学の才能にも秀でている。
凡人にとっては難しいと感じる期末試験も、彼女にとっては朝飯前なのだろう。
「あんたは違うの?」
「天才のお前と一緒にするな。俺みたいな凡人は、必死になって勉強しなきゃならないんだよ」
とは言ってみるものの、リヒトの頭は決して悪くはない。
もっと踏み込んで言えば、結構良い。
一年の頃から、成績上位者と呼ばれるだけの結果は残している。
勉強しなくても、そこそこの成績は取れる自信はある。
一定の基準に達しないなんてことは、万が一にも起こらないだろう。
だがそれでも、念のためだ。
「ふーん、凡人は苦労しているのね」
「お前にも苦労を分けてやりたいよ」
厭味ったらしく悪態をついて、リヒトは空き部屋を去っていった。
翌日の昼。
リヒトの隣で昼食を摂るステラの顔には、不安の色がありありと浮かんでいた。
「ここの学園って、試験の成績が悪い人にはすごく厳しいんですよね……?」
「ああ。退学になることも珍しくないな」
「……どうしよう。このままじゃ私、退学になっちゃう……」
真面目に授業を受けているのに成績が悪い――ステラにはそんな設定がある。
マジカルラブ・シンフォニックでは、クロードに勉強を教えて貰うことで、なんとか期末試験を乗り切っていた。
このまま何もしなければ、ステラが退学になってしまう可能性がある。
「俺で良ければ勉強を教えようか?」
それをただ黙って見過ごすなんて真似、リヒトにはできなかった。
「よろしいのですか!」
「ああ。毎日ステラの美味しい昼食を食べるのが、俺の楽しみだからな。お前にいなくなられたら困る」
「嬉しいです……!」
いっぱいの不安が浮かんでいたステラの表情に、明るい光が射した。
「そうだ。他に二人誘ってもいいか?」
リリーナとクロードを誘うことを思いつく。
癖はあるものの、二人とも良いヤツなのは確か。
きっと、ステラの良き友になってくれるだろう。
現状、ステラの友達はリヒトしかいないはずだ。
余計なお世話かもしれないが、さらなる友人をステラに作ってあげたかった。
3
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢・お助けキャラ・隠しヒロインって、役割過多だと思います。
章槻雅希
ファンタジー
皇国の重鎮セーヴェル公爵令嬢アレクサンドラは学院の卒業記念舞踏会で突然第9皇子から婚約破棄を告げられる。皇子の傍らには見知らぬ少女が寄り添ってこちらを嘲笑うかのような表情で見ていた。
しかし、皇子とは初対面。アレクサンドラには婚約者などいない。いったいこの皇子は何をどう勘違いしているのか。
テンプレな乙女ゲームに転生したアレクサンドラ。どうやらヒロインも転生者らしい。でも、どうやらヒロインは隠しルートには到達できなかったようだ。
だって、出来ていれば断罪イベントなんて起こすはずがないのだから。
今更ながらに悪役令嬢ものにハマり、衝動の余り書き上げたものです。テンプレ設定にテンプレな流れ。n番煎じもいいところな、恐らくどこかで見たような流れになっていると思います。
以前なろうに投稿していたものの修正版。
全8話。『小説家になろう』『Pixiv(別名義)』にも投稿。
悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない
亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ
社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。
エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも……
「エマ、可愛い」
いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる