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【20話】頭がいっぱい ※ステラ視点
しおりを挟むフェルライド男爵邸に帰ってきたステラは、私室のベッドへ、正面からボフンと倒れ込む。
先ほどまでリヒトと祭りの会場にいたステラだが、ネックレスをプレゼントして貰ったあとのことをあまり覚えていない。
確かなのは、そこから現在にいたるまで、ずっと心臓がバクバクしていることだけだ。
プレゼントをくれたリヒト。
転倒しそうになった自分を、すかさず支えてくれたリヒト。
転ばないようにと、ギュッと手を繋いでくれたリヒト。
頭の中が、リヒトのことでいっぱいになる。
「リヒトさん、とっても素敵だったな」
首元のネックレスに指を当てたステラ。
彼から貰った大切なプレゼントを、愛らしくゆっくりとなぞる。
「あっ、プレゼント……」
手に握っている紙袋の存在を、今さらながらに思い出す。
中には髪留めが入っている。
ステラもプレゼントを買ってあったのだ。
リヒトのことで頭がいっぱいで、すっかり忘れてしまっていた。
「まだ起きているよね」
ベッドから起き上がったステラは、急ぎ足で私室を出た。
「エリン、入るよ」
妹、エリンの部屋に入る。
「はい、これ。お土産」
「わーい! ありがとうおねーちゃん!!」
髪留めを渡すと、エリンは大喜び。
元気いっぱいの、無邪気な笑顔をみせてくれた。
六歳のエリンは、ステラとそっくりな外見をしている。
でも似ているのは、外見だけ。
中身はまったく違う。
エリンは人懐っこく、いつでも明るい。
控えめで臆病、ウジウジしているステラとは、真逆の性格をしていた。
ステラが月なら、エリンは太陽。
眩しい太陽の光に、ステラはいつも元気を貰っているのだ。
「リヒトおにーちゃんとのお出かけ、楽しかった?」
一度も会ったことのないリヒトのことを、親し気に『リヒトおにーちゃん』と呼ぶエリン。
それは、ステラが彼の話を聞かせているからだ。
学校のお話してー、と毎日のようにぜがんでくるエリンに、ステラはメルティ魔法学園での出来事を聞かせている。
けれど、話す内容はほとんど決まっている。
昼休憩にリヒトとどんなことを話したか、そればかり。
彼の他に親しい人間がいないステラが学園の話をしようと思ったら、必然的にそうなってしまうのだ。
それを毎日のように聞いていたエリンはいつの間にか、リヒトのことを『リヒトおにーちゃん』と呼ぶようになっていた。
「うん、とっても楽しかったよ」
「あ! おねーちゃん、綺麗なネックレスしてる!」
「ありがとうね。このネックレスは、プレゼントしてもらったんだ」
「リヒトおにーちゃんに?」
一発で正解を当てられた。
当時のことを思い出したステラは、頬が赤くなっていく。
図星のステラを見て、エリンはニヤニヤした。
「リヒトおにーちゃんとのデート、うまくいったんだね! エリン、行かなくて正解だった!」
「……もしかして、フェスティバルに来なかったのはわざと?」
「うん!」
「……変な気遣わなくていいのに」
小さくため息を吐いたステラは、誇らしげに胸を張ったエリンの頭を優しく撫でる。
リヒトとはただの友達だ。
だから今日のお出かけも、別にデートでもなんでもない。
ステラはそう思っているし、きっと同じことを、リヒトも思っているだろう。
「そろそろ寝なさい」
「えー! やだ! デートのお話して!」
「……ダメ。わがまま言わないの」
話せるはずがなかった。
今そんな話をしようものなら、リヒトへの気持ちが溢れて、変なことを口走ってしまうだろう。
想像しただけでも、恥ずかしくて死んでしまいそうになる。
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