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【18話】リリーナへのご褒美

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「……仕方ない。こうなったら二人で回るか」
「まずはあそこよ!」

 リヒトの手を強く掴んだリリーナは、グイグイと引っ張って歩いていく。
 向かう先は、飲食物を取り扱っている露店だ。
 
「ハンバーガーとチーズバーガー、それとテリヤキバーガー! 全部三つずつお願いね!」
「……腹減ってないってのは嘘だったのか?」
「失礼ね。嘘じゃないわよ。でもそれは、さっきまでの話。クロードと離れて緊張から解放されたら、ものすごくお腹が減ってきたの!」

 リリーナも色々と大変な事情を抱えているようだ。
 ハンバーガー九個は食い過ぎじゃないか、なんていう指摘はやめておこう。
 
 飲食店での買い物を終え、道端のベンチに座った二人。
 リリーナの手元には九個のハンバーガー、リヒトの手元にはつられて買ってしまったホットドッグがある。
 
 ホットドッグを食べていると、真横からじっとした視線が飛んできた。
 おいしそう、とその視線は訴えかけている。
 
「……食うか?」
「うん!」

 食べかけのホットドッグを向けると、リリーナはパクリと噛みついた。
 美味しいわ! と声を上げ、幸せそうな表情を浮かべる。
 
「はい、お返し」

 今度はリリーナが、食べかけのハンバーガーをリヒトへ向けてきた。
 
「私、借りは返す主義なの!」

 正直いらなかったが、断ったら何か言われそうだ。
 そうなるのも面倒くさいので、リヒトは従順に一口もらうことにした。
 
「どう、おいしい?」
「普通だな……。普通にうまい」

 ハンバーガーならさっき食べたしな、と心の中で付け加える。

「何よそのつまらない感想は。せっかく私が慈悲を恵んであげたんだから、もっと気の利いたこと言いなさいよ!」

 食べたくもないハンバーガーを食べさせられた上に、そんなことまで求めてきた。
 
(困ったやつだ……)

 面倒と思いつつも、ここで断ったらさらに面倒なことになるだろう。
 仕方なくリヒトは、全力でリクエストに応える。

「リリーナ様の慈悲の味がして、とっても美味しかったです!」
「うんうん、それでいいのよ!」

 リリーナが満足げに頷いた。
 何がよかったのか、それはよく分からないが、合格点に達することができたようだ。
 
(なんだかなぁ)
 
 そう思うも、リヒトの口元は微笑んでいた。
 ぞんざいな扱いをされたにも関わらず、悪い気がしていなかったのだ。
 
 食事を終えた二人は、色々な店を回ったり、出し物を見たりして、フェスティバルを満喫。
 
 リリーナはその間ずっと、楽しそうに笑っていた。
 お祭りではしゃぐ無邪気な少女が、そこにはいた。
 
 こんなにも楽しそうにしているリリーナの顔を、クロードは知っているのだろうか。
 もし知らないのであれば、少しもったいないような気もする。
 

 時刻は午後四時。
 
「そろそろ帰る時間じゃないのか?」

 隣を歩くリリーナに声をかけてみたのだが、彼女はその場に立ち止まってしまった。
 
「私、今日も緊張しちゃった。せっかくクロードが来てくれたのに、全然うまく喋れなかった」

 深いため息が地面に落ちる。
 ついさっきまで楽しそうにしていたリリーナの顔は、どんよりと曇っていた。
 
「……私、ダメダメだわ」
「お前はダメなんかじゃないよ」
「そんなの思ってない癖に。同情なんていらないわよ」
「嘘じゃない。クロードの帰り際、勇気を出して声をかけていただろ? お前が頑張っていたのを、俺はしっかり見てたんだ。……そうだ、ちょっと待ってろ」

 近くにある、アクセサリーを取り扱っている露店に向かう。
 
 そこは、数時間前に四人で訪れた露店。
 リリーナが欲しそうにしていたネックレスが売っている露店だった。
 
 シルバーのネックレスを購入したリヒトは、リリーナの元へと戻るなり、それをプレゼントする。
 
「頑張ったお前にご褒美だ」

 赤色の瞳をまん丸くさせたリリーナは、泣きそうな顔になる。
 
 だが、それは一瞬。
 我に返ったかのようにハッとすると、リヒトに怪訝そうな視線を向けた。
 
「まさかとは思うけど……あんた、私を口説くつもりじゃないでしょうね?」
「なっ! そんな訳ないだろ! そんなこと言うなら返せ!」

 リリーナの手から奪い取ろうと手を伸ばすも、空振り。
 素早く手をひっこめたリリーナは、それを胸にギュッと押し当てた。
 
「冗談よ。ありがとうね」

 満面の笑みで笑う。
 
 その笑顔があまりにもまっすぐで、純粋で、眩しくて、可憐で。
 だから、ドキッとしてしまうのもしょうがなかった。
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