乙女ゲームのモブ(雑に強い)の俺、悪役令嬢の恋路を全力でサポートする。惨劇の未来から王国を救うために奔走します!

夏芽空

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【17話】一歩前進

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 時刻は午後二時。
 解散の時刻になる。
 
「もうこんな時間か。本当はもっといたいのだが……すまない」
「用事があるんだろ。気にすんなよ」
 
 クロードはこれから用事があるらしい。
 解散時刻が午後二時になっているのは、それが理由だ。
 
「それでは失礼する」
「おう。また遊ぼうぜ」

 クロードが背を向ける。
 
 その背中に「待って!」の声がかかる。
 リリーナからだ。
 
「きょ、今日は楽しかったわ。……また明日、学園でね」

 目線はクロードはではなく、下に向いている。
 声は小さい上に震えていて、かなり聞き取りづらい。
 
 でも、リリーナは頑張った。
 緊張してうまく喋れないはずなのに、別れ際の挨拶を誰の手も借りずに一人でやり切ってみせたのだ。
 
 一歩前進したリリーナに、リヒトは感動。
 目頭がちょっと熱くなってくる。
 
「君との時間はとても充実していた。ありがとう」

 振り返ったクロードは、なんとも素敵な言葉をかける。
 
 それを受けたリリーナはうっとり。
 目がハートマークになっていた。
 
 クロードが去った後も、それは持続している。
 よほど嬉しかったのだろう。
 
「じゃあ俺たちも帰るな。また明日」
 
 夢見心地なリリーナの邪魔をしないよう、そっと声をかける。
 
 ステラとの約束は午後五時からだ。
 それまで時間が空くので、シードラン邸にいったん帰ろうかと考えていたのだが、
 
「ちょっと待ちなさいよ」

 リリーナに呼び止められる。
 
「私、四時時過ぎまで暇なんだけど」

 ウェーブがかった金髪を指でくるくるいじりながら、リリーナは視線を横に逸らした。
 
「……だから何だよ」
「お兄様、流石にそれは鈍すぎです」

 リヒトの肩に手を置いたレリエルが、ため息を吐いた。

「リリーナ様は、フェスティバルを楽しみたいんですよ。はっちゃけたかったのに、緊張していたせいでそうできなかった。つまり、不完全燃焼なんです!」
「……言い方がムカつくわね」

 リリーナが鋭い目線を投げるも、レリエルは気にもしていない。
 むしろ少し楽しそうに、微笑みを浮かべている。

「……そうなのか、リリーナ?」
「だから、最初からそう言ってるじゃない!」

 真っ赤になった頬をぷくっと膨らませる。
 
(いや、分かんねえよ)
 
 暇なんだけど、という言葉からそこまで察するのは流石に無理だ。
 文句を言われても困る。
 
「それで、どうなのよ!」
「別にいいぞ。時間はあるからな。レリエルもそれで――」
「私はこの後用事があります。これで失礼しますね!」

 頑張ってくださいお兄様、リヒトの耳元でそう言って、レリエルは足早に去っていった。
 
(どういう意味だよ)
 
 頑張れ、と言われても何を頑張ればいいのか。
 訳が分からない。
 
 レリエルの去り際の言葉は、リヒトの頭に多くの疑問符を発生させただけだった。
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