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【14話】不調のワケ

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 翌日。

「昨日はその……悪かったわね」

 放課後の空き部屋に、リリーナの声がポツンと浮かんだ。
 昨日よりは多少マシになったように見えるが、それでもまだ、本調子にはほど遠い。
 
「謝らなくてもいいけどさ、とりあえず理由を聞かせてくれよ」

 緊張したり、弱々しかったり、曖昧な反応しか返さなかったり。
 昨日のリリーナは、明らかに様子がおかしかった。
 
 リリーナのサポート役としては、不調の理由を聞いておかなければならない。
 
「……好きの理由が変わったのよ」

 少しためらうも、リリーナはボソッと話を切り出した。
 
「今まではずっと、高い地位や美しい外見に惹かれていたの。でも最近、クロードは私に優しくなったじゃない? それでその……紳士で優しい部分に、心がときめくようになったのよ」
「外面じゃなくて、中身を好きになったってことか」
「……その通りよ。でもそしたら、体が変になったのよ」

 リリーナが小さくため息を吐く。

「クロードの近くにいるだけで、心臓がバクバクしちゃうの。頭も真っ白になって、もうパニックよ。こんなこと初めてだわ。ねぇリヒト、私どうしたら元に戻れるの?」
「いや、そのままでいい。安心しろリリーナ。これはいい傾向だ」
「そうなの? とてもそうは思えないけど。クロードが近くにいるだけで緊張で変になって、うまく喋れなくなっちゃうのよ?」

 切れ長の瞳を不安そうに向けてくるリリーナは、今にも泣いてしまいそうだった。
 不安不安でたまらないのだろう。
 
 そんな彼女を安心させたくて、リヒトは口元に笑みを浮かべる。

「前に言っただろ、クロードの好きなタイプ」
「控えめがどうたらこうたらってやつ?」
「そうだ。今のお前は、どんどんそれに近づいている」
「それ本当? 嘘じゃない?」
「嘘じゃない。本当のことだ。お前の恋は順調に進んでいるよ。それは俺が保証してやる」
「……あんたが言うなら、うん」

 元気の無かったリリーナの表情が、明るさを取り戻していく。
 
 さすがにもう少し喋れた方が良いとは思うが、この場では口にしないでおく。
 せっかく元気を取り戻しているというのに、余計な一言を言って妨害したくない。
 
「あんたと話したら元気が出てきたわ! しゃくだけどお礼を言ってあげる!」
「そりゃどーも。余計な一言さえなければ完璧だったのにな」

 不器用だけど、まっすぐで一生懸命。
 リリーナという人間を、少しだけ理解できたような気がする。
 
(でも、まさかそんなヤツだったとはな)

 マジカルラブ・シンフォニックでは、傲慢ワガママな悪役令嬢だったリリーナ。
 とことん性悪で、良いところなんて一つもなかった。
 
 けどこうして付き合ってみれば、まったくの別人だ。
 
 未来を変えるうんぬんを抜きにしても、応援したくなる。
 なんだか放っておけないのだ。
 
(まるで親にでもなった気分だな)

 同い年の娘ができるとは思わなかった。
 そんな下らないことがおかしくて、リヒトは軽く噴き出した。
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