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【13話】成功とも失敗とも言えない

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(よし、作戦は順調だ!)
 
 クロードの言葉に、リヒトは確信を得る。
 
 もくろみ通り、リリーナへの好感度はプラスに転じたようだ。
 これまでの作戦の成果を実感する。
 
(ナイスだレリエル! よくやった!)

 クロードの言葉を引き出してくれた妹へ、リヒトは心の中で大きな賞賛を送る。

「俺の話はこれくらいでいいだろう。それより、ずっと気になっていたんだが、リヒトとリリーナはどうやって友人になったんだ?」
「えっと……リリーナとは社交パーティーで会ったんだ。そのときたまたま話したんだけど、けっこう気が合ったんだよ」

 本当のことを言う訳にもいかず、この場ででっち上げたつくり話を披露。
 クロードに嘘をつくのは、これで何度目になるだろうか。心の中で、本当にごめんなさい、と誠意をもって謝る。
 
「ほう。君と気が合うヤツなんて珍しいな」
「……うん。たまたまよ。たまたま」

 話を振られたリリーナは、なんとも弱々しく答えた。
 やっぱり様子が変だ。
 
「お待たせいたしました」
 
 四人分のホットドッグとミルクティーが到着した。
 それからは、食事をしながら色々な話をしていく。
 
 しかしながら、話に参加しているのは三人だけ。
 リリーナは顔を下に向けて、いっさい口を開かないでいた。
 
 それを見かねたリヒトとレリエルは話を振るも、曖昧な反応しか返ってこなかった。
 
 
 食事会が終わりの時間を迎えた。
 評価をつけるならば、成功とも失敗とも言えない。
 
 良かった点は、これまでの作戦の成果を確認できたこと。
 
 悪かった点は、目的を達成できなかったこと。
 
 今回の目的は、リリーナとクロードの距離を縮めることにあった。
 それなのに肝心のリリーナは置物状態で、ほとんど会話をしていない。
 目的達成には、ほど遠いような結果となってしまった。
 
 席を立った四人は店の外へ出る。
 
「今日はとても有意義な時間を過ごせた。よければ、また誘ってくれ」
「来てくれてありがとうな。俺も楽しかったよ。また誘う」

 立ち去っていくクロードに、リヒトは手を振る。
 
「本当、いいやつだったな」

 今日一日じっくり話してみて、あらためてそう実感した。
 
 優しくて思いやりのあるイケメン。それがクロード・ソシエストという男だった。
 外見、中身ともに、まったく隙がない。まさに、完璧超人だ。
 リリーナが惚れこむ気持ちも、分かるような気がする。
 
 クロードのイケメンぶりに感心していたリヒトだったが、そんなことしている場合ではないことに気づく。
 
 リリーナだ。
 今日の彼女は、なんというかもうダメダメだった。
 
 どうしてあんな風になってしまったのか、話をしておかなければならない。
 
 しかしこの場にはもう、リリーナの姿はなかった。
 
「あれ? リリーナは?」
「お兄様がクロード様に感心している間に、お帰りになりましたよ」
「……マジか。帰ったのかよ」

 話をしたかったのだが、帰ったのなら仕方ない。
 追いかけてまでする話でもないし、今日の反省会は明日の放課後へ持ち越しだ。
 
「それにしても、結構お似合いでしたね」
「そりゃそうだ。二人とも、学園きっての美形だからな。あんなにお似合いのカップル、そうはいない」
「私が言っているのは、リリーナ様とクロード様のことではありませんよ」
「……じゃあ、誰と誰のことを言っているんだよ?」
「分からないならいいです」

 レリエルはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
 ひとりで、すこぶる楽しそうだ。
 
 肩をすくめたリヒトは、深いため息を吐く。
 意味不明な発言をすることが決して珍しくないレリエルだが、今の発言は輪をかけて意味不明だった。
 
「そうだ! 家に帰る前に、スイーツショップに寄っていきましょう! 頑張ったご褒美を、私に下さい!」
「今日はお前に随分と助けられたからな。よし、好きなものを好きなだけ買ってやる」
「わーい! お兄様大好き!!」

 満面の笑みで、レリエルが抱き着いてきた。
 
(この笑顔を守るためにも、リリーナの恋を叶えなきゃな)

 リリーナが暴走すれば、レリエルが被害に巻き込まれてしまうかもしれない。
 もしそうなれば、この笑顔も二度と見れなくなってしまう。
 
 そんな未来だけは、絶対にお断りだ。
 何が何でも変えてみせる。
 
 強く言い聞かせ、リヒトは自身を奮い立たせた。
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