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【6話】手料理の魅力
しおりを挟む「何よその気持ち悪さ全開のセリフは。死んでも言いたくないんだけど。吐き気がするわ」
「……今のは例えだよ。そこはお前の好きに変えていい」
(そんなに気持ち悪かったのか、今のセリフ……)
そこまでこき下ろされるとは思わなかった。
即興で作ったセリフだったものの、結構ショックだ。
「というかそもそも、なんで距離が縮まるって分かるのよ?」
「前に言ったろ? 俺には未来が見えるってな。それにな、男という生き物はすべからく女の子の手料理には弱いものなんだ」
「まるで、経験者は語る、みたいな言い草ね」
「ふっ、まぁな」
昼休憩に食べたステラの素晴らしい手料理を、頭に思い浮かべる。
するとどうだろうか。思い浮かべただけで、すこぶる幸せな気分になってきた。
「手料理の素晴らしさを語ってやろうか?」
「しなくていいわ。今のニヤケ顔だけでもかなりムカついて手が出そうなのに、これ以上何かしてきたら殴り殺しちゃいそうだもの」
冗談か本気か分からない微妙なラインの返事が返ってきた。
後者の可能性を考慮し、手料理の素晴らしさは胸の奥にしまうことにする。
「とりあえず、クロードの弁当を作って持っていけばいいのよね。分かったわ。シェフに作らせる」
「待て待て。俺の話聞いてたか? クロードとの距離を縮めるのは、手料理。いわば、不完全な料理だ。一流シェフが作った完全無欠の料理を持っていったって、なんの意味もない。クロードの心は揺さぶれない」
「じゃあどうすればいいのよ。私、料理なんてしたことないんだけど」
「……大丈夫だ。俺に考えがある」
******
翌日、早朝。
シードラン子爵邸。
キッチンに立っているリヒトは、せっせと料理を作っていた。
太陽が昇っていないうちから気合を入れて朝食作り……というわけではない。クロードの弁当を作っているのだ。
リヒトが作った弁当を、リリーナに渡す。
それをリリーナが、『あなたのために愛情こめて作ってみたの』、と言ってクロードに渡す。
そんな作戦だ。
リヒトは料理の腕に覚えがあった。
最近は料理をしていないが、昔はよく、作った料理を家族や使用人に振る舞っていたものだ。
料理の評判は上々だった。
ブランクがあるとはいえ、そこそこのクオリティには仕上がるはずだ。
「あれ、お兄様がお弁当を作ってます!」
快活な少女が、元気な足音を立ててキッチンに入ってきた。
彼女の名はレリエル。リヒトの二つ歳下、十四歳の妹だ。
妹と言っても血は繋がっていない。
父の再婚相手の連れ子――つまり、義妹だ。
サラサラとした銀色の髪に、くりくりとした水色の瞳をしている。
身内びいき抜きにしても、とても可愛らしい美少女だ。
「売店から、自作弁当に切り替えたんですか?」
「いや、俺のじゃない」
「ということは、誰かにあげる用ですか……ふふふ」
レリエルの目元がニヤニヤと上がる。
「もしかして――もしかしなくても、女の子ですね!」
「違うけど」
即座に否定。
しかしレリエルは、「お兄様にも、ついに春が来ました!」と喜びの声を上げていた。
まったく話を聞いていない。
「恋愛経験ゼロの兄の恋路。妹としては、全力で応援するしかありません! それでそのお相手は、どんな方なのですか?」
「……気が散る。部屋に戻って寝てろ」
「あらら、ご機嫌斜めになってしまいました。ごめんなさい」
可愛らしく笑ったレリエルは、ペロッと舌を出した。
うん、まったく反省していない。
「私もお手伝いするので、どうか許してください」
「……分かったよ。じゃあお前は、野菜を切ってくれ」
「喜んで!」
レリエルが加わったことで、もの静かだったキッチンの雰囲気は一変。
クロードの弁当作りは、とてもにぎやかに進んでいった。
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