5 / 46
【5話】次の作戦
しおりを挟む翌日、正午過ぎ。
中庭の端にあるベンチには、リヒトとステラが隣り合って座っていた。
二人の間にあるのは、二つのバスケット。
ステラが持参してきたものだ。
「どうぞ、リヒト様」
二つのバスケットのうちの一つを持ったステラが、それをリヒトに差し出した。
(俺の分まで作ってくれるとか、なんていい子なんだ!)
昨日の『明日は昼食を持ってこないでくださいね』という言葉の意味を、リヒトはここで理解。
「ありがとうな!」
差し出されたバスケットを、感動しながら受け取る。
バスケットの中には、昨日と同じく、いっぱいのサンドイッチが入っていた。
どれも美味しそうだ。
さっそく一切れを手に取って、勢いよくかぶりつく。
「うん、やっぱりうまい!!」
「良かったです。これから学園のある日は毎日、リヒト様の分も作ってきますね!」
「マジか! それはめっちゃ嬉しい! ……けど、いいのか? 作るの大変だろ?」
ステラのサンドイッチは、かなり手が込んでいる。
一人分作るだけでも大変そうなのに追加でもう一人ともなれば、かなりの負担になること間違いなしだ。
「私、嬉しいんです」
心配するリヒトに、ステラは笑顔で応えた。
「自分の作った料理を、美味しい、と言って嬉しそうに食べてくれる人がいる。私はそれが、とっても嬉しいんです!」
(え、なにこの子。めっちゃ眩しいんだが!)
あまりにも純粋で綺麗な言葉に、リヒトの心は浄化されていく。
そして、こう思う。
(やっぱり、手料理って最高だなぁ)
女の子に手料理を作ってもらうという、男子憧れのシチュエーション。
それのすごさを、リヒトはあらためて実感していた。
ピロン!
手料理のありがたさを実感したリヒトの頭に、突如として浮かび上がったものがある。
それは、マジカルラブ・シンフォニックのワンシーン。
ステラの手料理を食べたクロードが、いたく感動するというシーンだ。
その出来事がきっかけとなり、クロードとステラの距離がグッと縮まっていく。
(クロードも俺と同じで、女の子の手料理に弱い。つまり、クロードとの距離を縮めるには手料理を振る舞えばいい……そういうことだな!)
リリーナの恋心を叶えるために、次に何をすべきか。
ステラの手料理のおかげで、それが分かったような気がした。
放課後。
旧校舎の空き部屋には、リヒトとリリーナがいた。
約十日ぶりの対面である。
「ずいぶん待たせたと思えばいきなり呼びつけるなんて、あんた何様のつもりよ?」
「待たせたのはすまなかった。今日呼んだのは、次の作戦を閃いたからだ」
丸テーブルの対面でイライラしているリリーナへ、リヒトは自信満々に口を開いた。
「弁当を渡せ」
「は? いきなり何よ?」
「自作弁当を作るんだ。そしてその弁当を、明日の昼クロードに渡す。『あなたのために愛情こめて作ってみたの』って、具合にな! そうすれば、クロードとの距離がグッと縮まること間違いなしだ!」
18
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。


悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい
藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ!
「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」
社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから!
婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。
しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!?
さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。
「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる