上 下
3 / 46

【3話】主人公

しおりを挟む
 第一回恋愛相談より十日後。
 
「あんなに毎日クロード様に話しかけていたというのに……いったいどうなさったのかしら、リリーナ様」
「クロード様にこっぴどく注意を受けて、傷心なさっているとか」
「別の男性に乗り換えたという話を聞きました」

 学園内は、こんな話題で持ちきりだった。

 優れた美貌と地位を持つリリーナは、学園きっての有名人。
 毎日クロードに話しかけていた彼女がそれを突然めたとなれば、ありもしない噂話が飛び交うのはもはや必然だった。
 
 そんな中、事の真相を知っているリヒトは嬉しい気持ちになっていた。
 
(リリーナのやつ、しっかり約束を守っているみたいだな)

 三日持てばいい方――そんな風に考えていたので、この結果には驚きだ。
 こうも協力的なら、クロードと結ばれる日もそう遠くないかもしれない。
 
 そんなルンルン弾んだ気持ちのリヒトは今、王都の街にいた。
 新しくオープンしたスイーツショップへ学園の帰りがけに寄った、その帰り道だ。
 
 右手に持っているキャリー箱の中には、たくさんのケーキが入っている。
 家族や使用人たちへのプレゼントだ。
 
「ん……あれって」

 少し離れたところにいる、メルティ魔法学園の制服を着た女子生徒が目に入る。
 
 フワフワしたミルク色の髪に、海のように綺麗なブルーの瞳。
 守ってあげたくなるような、とても可愛らしい顔立ち。
 
「ステラ、だよな?」
 
 ステラ・フェルライド男爵令嬢。
 リヒトと同じ二年Cクラスに在籍する女子生徒で、そして、マジカルラブ・シンフォニックの主人公だ。
 
 そんな彼女の隣には、ヘラヘラしたガラの悪い大男が立っていた。
 どう見たって、友人同士には見えない。
 
 大男は、ステラに向けて何か言っているようだった。
 
(いったい何を喋っているんだ?)
 
 ここからでは、話の内容までは聞き取れない。
 
 大男に対し、ステラは困惑している素振りを見せている。
 
 そのとき。
 大男がステラの腕を掴んだ。
 
 合意の上ではなく、無理矢理掴んだように見えた。
 
 大男は人気ひとけの少ない路地裏の方へと、強引にステラを引っ張っていく。
 
「おいおいおい!」

 リヒトは急いで、路地裏の方へと向かう。
 
 
「ちょっとくらい遊んでくれたっていいじゃねえか!」
「い、いや……! 放してください!」
「へへへ……! その恐怖に怯えている顔、最高にそそるぜえっ!」
「――せっかく良い気分だったのに、お前のせいで台無しだ」
「……あん? 誰だてめえ?」

 ステラの腕を放した大男は、リヒトを睨みつける。
 ついさっきまで下品な笑いを浮かべていた口元には、ありありとイラつきが浮かんでいた。
 
「ステラ、こっちに来い」

 リヒトの声にビクッと反応したステラ。
 転びそうになりがらも必死に足を動かし、リヒトの背面に回り込む。
 
「なに勝手なことしてくれてんだ! ああん!?」
「勝手なことしているのは、どう考えてもお前の方だろ?」
「黙りやがれ!」

 大男の体が白色の光を纏う。

(身体強化系の魔法か)

 魔法を発動する際は、術者の全身が光を纏う。
 その光の色は発動する魔法の種類によって異なる。
 
 大男が纏っている白色は、身体強化系の魔法だ。
 
(俺とやり合うつもりか。面倒だな)

 リヒトは小さくため息を吐く。
 
「一つ忠告してやるよ。怪我したくなかったら、今すぐ回れ右して家に帰れ」
「俺様に向かって、随分と舐めた口聞いてくれるじゃねえか! ぶっ殺してやるぜ、クソガキがぁ!!」
「こりゃダメそうだな……仕方ない」
 
 リヒトは自身の体に、【身体強化】の魔法を発動。
 大男と同じ、白色の光を全身に纏う。

「地獄で後悔しろや!」

 顔を真っ赤にした大男が殴りかかってきた。
 魔法を使っているだけあって、中々に素早い攻撃だ。
 
 しかし、リヒトの相手ではない。
 大男の拳を軽々と避けると、がら空きの腹部にボディーブローをお見舞いする。
 
 その一撃で大男は気絶。
 バタンと地面に倒れた。
 
 リヒトはモブだが、人並み以上の力を持っている。
 リリーナやクロードといった化け物レベルには及ばないが、それでも、それなりには強いのだ。
 
 体を反転させたリヒトは、背面にいるステラに笑いかける。
 
「これでもう安心だ。怪我してないか?」
「は、はい」
 
 小さく頷いたステラの体は、ぶるぶると震えている。
 大男への恐怖心が、まだ消えていないのだろう。
 
「そうだ。お前にいいものをやる」

 右手に持っていたキャリー箱を、ステラの手に握らせる。
 
「これでも食って元気出せ。じゃあな」

 困惑しているステラに手を振り、リヒトは路地裏を去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢・お助けキャラ・隠しヒロインって、役割過多だと思います。

章槻雅希
ファンタジー
皇国の重鎮セーヴェル公爵令嬢アレクサンドラは学院の卒業記念舞踏会で突然第9皇子から婚約破棄を告げられる。皇子の傍らには見知らぬ少女が寄り添ってこちらを嘲笑うかのような表情で見ていた。 しかし、皇子とは初対面。アレクサンドラには婚約者などいない。いったいこの皇子は何をどう勘違いしているのか。 テンプレな乙女ゲームに転生したアレクサンドラ。どうやらヒロインも転生者らしい。でも、どうやらヒロインは隠しルートには到達できなかったようだ。 だって、出来ていれば断罪イベントなんて起こすはずがないのだから。 今更ながらに悪役令嬢ものにハマり、衝動の余り書き上げたものです。テンプレ設定にテンプレな流れ。n番煎じもいいところな、恐らくどこかで見たような流れになっていると思います。 以前なろうに投稿していたものの修正版。 全8話。『小説家になろう』『Pixiv(別名義)』にも投稿。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

悪役令嬢に転生した私は断罪ルートを回避するためにお兄様と婚約します

平山和人
恋愛
私こと、クロエ・コーネリアは、15歳の誕生日に前世の記憶を思い出した。クロエは全てのルートでヒロインの恋路を邪魔する悪役令嬢として登場する。 どの攻略対象ルートでも容赦なく断罪されて、国外追放や奴隷墜ちなどの惨めで悲惨な末路を辿る運命にある。しかも、ギロチン送りになる第一王子ルートに転生してしまった。 このままではまずいと、私は頭をフル回転させて考えた結果、ある考えが浮かんだ。悪役令嬢はヒロインの恋のライバルだ。ならば物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になれば、私は断罪ルートから回避できるのではないだろうか。 そのために私はお兄様の部屋へと向かった。 お兄様は、実は私の従兄で、本当の兄ではない。ならば婚約できるはずだ。 お兄様は私の申し出を承諾し、婚約することになったのだが、私は気づいていなかった。お兄様がとんでもなく意地悪で腹黒いことを。

処理中です...