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【44話】ユウリが望むもの
しおりを挟む新たなスキル【伝説の勇者】を土壇場で発動したことで、凶王を討つことができたユウリ。
ファイロルの宿に戻ると、ユウリの帰りを待ってくれていたみんなが泣きながら出迎えてくれた。
「みんな、ただいま」
リエラ、フィア、シャルロット、ソフィ。
大切なみんなにこうしてまた会うことができて、ユウリは心の底から喜びを感じていた。
その日の夕食は、ユウリの祝勝会ということでいっぱいのごちそうを五人で囲むことになった。
大盛り上がりで食事は進んでいく。
「ユウリ、口を開けなさい」
熱々のグラタンが載っている皿を手に持ったシャルロットが、妙に緊張した様子で言ってきた。
顔がほんのりと赤くなっている。
「なんでだよ?」
「いいから早くしなさいよ!」
「……分かったよ」
理由はよく分からないが、シャルロットは必死みたいだ。
拒否するのもかわいそうなので、言う通りに口を大きく開ける。
「絶対帰ってくるっていう約束を、あんたは守ってくれたでしょ。だからこれは、私からのご褒美よ。ありがたく受け取りなさい」
皿に載っているグラタンをスプーンですくったシャルロットは、それをユウリの口に突っ込んだ。
熱々のグラタンを突っ込まれたユウリ。
激しい熱に叫び散らしそうになるも、大量の水を飲んで必死に喉へと流し込んだ。
「……シャル。お前の気持ちはすごく嬉しい。でもな、熱々の料理はダメだ。下手したら今ので俺は死んでた――」
「ユウリ様」
ニコリと笑っているリエラ。
その手には、熱々のグラタンが載った皿を持っている。
「……まさかとは思うが、そのグラタンを俺の口に突っ込む気か?」
「はい! シャルさんだけずるいです!」
元気よく返事をしたリエラが、ユウリの口にグラタンを突っ込んできた。
口の中が、再び灼熱へと変わる。
しかし、ユウリの難は、それで終わらない。
フィアとソフィまでもが、グラタンを持ってユウリに近づいてきたのだ。
「ソフィ、わらわたちも参加するぞ!」
「はい! ユウリさん、味わってくださいね!」
二人までもが、ユウリの口にグラタンを突っ込んできた。
(どうして俺がこんな目に……!)
そんなことを思いながら、ユウリは必死でグラタンを流し込んだ。
その後で四人を説教したのは、言うまでもない。
熱々の料理を突っ込まれるという大変な体験をしたユウリだが、同時にこんなことも思っていた。
(こういう時間をみんなと過ごせて幸せだ。この幸せを、俺は守ることができたんだな)
凶王を討ったことで、大切な人と過ごす平和な日々を守ることができた。
それを再び実感したユウリは、小さな笑みを口元に浮かべた。
******
凶王を討ってから、数日。
ユウリ、リエラ、フィア、ソフィの四人は、ディアボル王国国王に呼び出された。
凶王を討ったことの礼を、ぜひとも言いたいのだそうだ。
場所は前回と同じ、王宮にある謁見の間が指定されていた。
謁見の間に入室するユウリ一行。
中央の玉座には、国王が座っている。
その隣のイスには、シャルロットが座っていた。
「よくぞやってくれた。この国――いや、世界の危機を救ってくれたお主たちに深く感謝する」
ユウリ一行へ、国王が深く頭を下げた。
「特にユウリ。凶王を討ったお主の功績は素晴らしい。よってお主には、『大英雄』の称号を授けよう」
「ななななんてことを!?」
国王の隣に控えていた臣下が慌てふためく。
「ディアボル王国千年の歴史で大英雄の称号を授かった者は、ただの一人もおりません! 前代未聞です! それをこんな冒険者風情に贈るなどありえない! 国王様、どうか考え直してください!!」
「黙らんか!!」
国王が一喝。
ビシッとした大きな声が、謁見の間に響いた。
「ユウリの功績は偉大。まさに前代未聞だ! ならばそれに見合う称号を与えるのは当然のこと! これ以上反対するようなら、貴様を解雇してやる!」
「ひぃぃ! それだけはご勘弁を!」
顔面を真っ青にした臣下は、国王に深く頭を下げた。
国王はつまらなそうに鼻を鳴らしてから、咳ばらいをした。
「つまらないところを見せてしまったな。すまない」
「いや、別にいいよ。よく分からないけど、すごい称号をくれてありがとうな!」
笑顔でそう言ったユウリに、国王は優しく頷いた。
「ユウリ、お主には前代未聞の功績に見合った褒美をあげたい。なんでも申すがいい」
「本当になんでもいいのか?」
「ああ。金銀財宝、領地、爵位……なんでも申せ。お主の希望は、この私が全力で叶えると約束しよう」
「じゃあ、温泉宿のチケットをくれよ」
「…………なに?」
国王は目を丸くした。
隣に控えている臣下も、同じような顔をしている。
「一人分じゃないぞ。俺、リエラ、フィア、シャル、ソフィ、アメリア――六人分な!」
「……」
国王の返事はない。
未だに驚愕しているままだ。
そんな国王に、ユウリはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「全力で俺の希望を叶えてくれるって言ってくれたよな? もしかして嘘だったのか?」
「いや、嘘はない。お主の希望を叶えるのは容易いだろう。しかしだな……ユウリ、本当にそんなもので良いのか?」
「ああ。欲しいものは既に手に入っているからな!」
ユウリが望むのは、大切な仲間と過ごす幸せな日々だけ。
それはもうとっくに、ユウリは手に入れていた。
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