TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空

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【41話】凶王

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 扉を開き、大広間の中に入ったユウリ。
 
 その部屋の中には、とてつもなく広い空間が広がっていた。
 中央には、豪華な金色の玉座が置かれている。
 
 この場所は、ディアボル王国王宮の謁見の間によく似たつくりになっていた。

 しかし玉座に座っているのは、ディアボル王国の国王ではない。
 漆黒のプレートアーマーを着ている魔族――凶王だ。
 
 むき出しになっている顔には、楽し気な笑みが浮かんでいる。
 
「ネズミが一匹入ったことに気づきギーツを出したが、まさか倒してくるとはな。人間にしてはやるではないか、小娘」
「仲間がやられたってのに、ずいぶんと上機嫌なんだな」
「上機嫌にもなるさ。久しぶりに骨のありそうな者と戦えるのだからな。しかし、間違えていることがあるぞ」

 金色の玉座から立ち上がった凶王。
 チッチッチと指を振りながら、ユウリのところへゆっくり歩いてくる。
 
「ギーツは仲間ではない。それなりに使えるヤツではあったが、所詮はただの下僕だ。使い捨ての駒の一つにしかすぎん。仲間、などというくだらない言葉で同列に語られるのは心外だな」
「そうか。全ての国を支配するなんて、クソ野郎の考えそうなことだと思っていたが、どうやらその通りみたいだな」
「……ほう。そこまで知っているのか。ならば貴様は、それを止めに来たのか?」
「正解だ。俺のものを守るため、お前には死んでもらう!」

 地面を蹴ったユウリは、凶王に向かっていく。
 腹部めがけて、ヒノキノボウルグを繰り出す。
 
 腰に携えていた剣を抜いた凶王。
 ユウリの攻撃に合わせるようして剣を繰り出し、ヒノキノボウルグを弾いた。
 
「なんと重くて素早い攻撃……! くくく!」
 
 凶王の口元に浮かんでいた笑みが、さらに大きくなる。
 
「これならもう少し力を出しても良いだろう!」

 力強く踏み込んできた凶王が、斬りかかってくる。
 恐ろしくスピードの乗った一振りだ。

 しかし、ギーツと比べれば遅い。
 
 横にステップを踏み、ユウリは剣を避ける。
 すかさず、凶王の腹部をヒノキノボウルグで殴りつける。
 
 その攻撃はヒット――だが、浅い。
 腹部に接触した瞬間、凶王は後ろに跳んだ。ダメージを最小限に抑えたのだ。
 
(惜しかった……。でも浅いとはいえ、それなりのダメージは与えたはずだ)

 ヒノキノボウルグの破壊力は高い。
 かすっただけでも大きなダメージを与えることができるだろう。

 しかし凶王は、ブレることなく立っている。
 余裕たっぷりの表情からは、まるでダメージなど受けていないように見えた。
 
「いい一撃だったぞ。SSランク冒険者レベルとか言われていた軍団長よりも、貴様はずっと上の実力を持っているようだ。褒めてやろう」
「そうかよ。お前に褒められてもまったく嬉しくないけどな」
「そう言うな。この戦いを心ゆくまで楽しもうではないか」

 向かってきた凶王が剣を振り下ろしてきた。
 先ほどよりも、スピードが上がっている。
 
(さっきのは全然本気じゃなかったってことか。……こいつ、完全に遊んでるな)

 普通の人間なら、舐められていることに怒る場面かもしれない。
 
 だが、ユウリは違う。ほくそ笑む。
 
 そういう慢心な態度は隙を作る。
 今が、凶王を討つ絶好のチャンスなのだ。
 
 凶王の剣を、自由になっている左手で受け止めるユウリ。
 大きな衝撃が腕に走るが、耐えられるレベルだ。
 
「俺の剣を素手で止めただと!?」

 剣を止められたことに、大きく驚く凶王。
 浮かんでいた余裕が一瞬で消える。
 
 今頃になって慢心していた態度を改めたのだろう。
 だが、もう遅い。
 
「くらえ!」
 
 凶王の腹部めがけ、ヒノキノボウルグを繰り出す。
 
 メキメキメキ!
 先ほどの浅い感触とはまったく違う、確かな手ごたえ。

 その感触が意味するものは、直撃。
 ユウリの攻撃が、クリーンヒットした。
 
 腹部に殴打をくらった凶王の体が、遠くへ吹き飛んでいく。
 
 だが、ユウリの攻撃はまだ終わらない。
 地面に横たわる凶王へ、片手をかざす。
 
「【ファイアボール】」

 ユウリから放たれた巨大な火の球が、凶王に着弾。
 巨大な炎がその体を包んだ。
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