40 / 44
【40話】ゲームリセット
しおりを挟むギーツの視線が、剣の刀身に向く。
「魔剣・マジックドレイン。刃を交えた相手の魔力を奪う効果を持っている。貴様は身体強化系の魔法でその化け物じみた動きをしているようだが、魔力がなくなれば非力な少女だ。殺すのは容易い」
ギーツの言っていることは正しい。
【勇者覚醒】を発動している間は、常時魔力が消費されている。
魔力がなくなれば当然、【勇者覚醒】の効果も消えてしまう。
マジックドレインと数多く打ち合ったせいで、ユウリの残存魔力は残り少ない。
あと一、二回打ち合えば、魔力が尽きてしまうだろう。
「貴様の魔力量は、もう空に近いな」
「まるで俺の魔力量が見えているかのような言い草だな」
「刃を交えれば、大抵のことは分かる。あと一、二度打ち合うだけで、貴様の魔力は空になるだろう」
「そこまで分かるとはすげえな。大正解だ。……でも残念、もう一歩だったな」
自分の胸に手を当てたユウリは、ニヤリと笑う。
「さあ、ゲームリセットといこうぜ。【勇者覚醒】」
【勇者覚醒】は、ステータスを極限レベルまで高める効果を持つ。
それは魔力量も例外ではない。
尽き欠けていた魔力は【勇者覚醒】を発動したことで、元に戻った。
「貴様、いったい何をした?」
「打ち合えば分かるさ」
空いていたギーツとの距離を再び詰めたユウリは、ヒノキノボウルグを繰り出した。
マジックドレインでそれを受けたギーツ。
瞬間、大きな動揺が走る。
「馬鹿な! 魔力量が戻っているだと!?」
「言ったろ? ゲームリセットだってな!」
目にも止まらない速さで、ユウリは連撃を繰り出していく。
ギーツはそれを防いでいるが、だんだんと押され始めていた。
ユウリの魔力量が戻っていることに、ギーツは動揺を隠しきれていない。
それが、動きを鈍らせているのかもしれない。
だがらこそ、隙が生まれる。
「ここだ!」
がら空きとなっていたギーツの腹部に、ヒノキノボウルグを深々と突き刺す。
地面に膝から崩れるギーツ。
ゴポっという音とともに、大量の青い血が口からこぼれた。
「少女よ、貴様は強い。私の完敗だ」
「いや、結構惜しかったぞ。魔力が空になっていたら、俺の負けだったからな」
魔力を奪われていることに気づかないでいたら、ユウリは死んでいただろう。
力を吸い取られていくような違和感に気づいたことが、勝負の決め手だったのだ。
「そうか」
ギーツがフッと笑った。
その笑みは、どこか満足気だ。
「しかしその程度の力では、凶王様に遠く及ばない」
ゆっくりと瞳を閉じるギーツ。
もっとも尊敬していると言っていた凶王の名を最期に挙げ、笑って死んでいった。
「じゃあな」
死したギーツに、別れを告げたユウリ。
潔い性格をしていて個人的には好感を持てる相手であったが、殺したことにまったく後悔はない。
「俺は、俺のすべきことをするだけだ」
口元を引き締め、凶王が待ち受ける大広間への扉を開いた。
32
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる