TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空

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【39話】門番

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 凶王を討つため、ファイロルを出立してから二日。
 モルデーロ王国王宮の地下通路に、ユウリはいた。
 
「リエラに感謝しないとな」

 リエラからもらった大広間への隠しルートのおかげで、今のところ誰にも見つかっていない。
 
 この地下通路を抜ければ、いよいよ目的地である大広間に出る。
 そこには凶王が待ち構えているだろう。
 
(それが最終決戦だ)
 
 グッと拳を握る。
 気を引き締めたユウリは、一歩一歩を力強く歩んでいく。
 
 
 長いこと歩き続け、ようやく地下通路の終わりが見えてきた。
 奥に見えている扉、その先が大広間だ。
 
 しかし、その扉の前には魔族が立っていた。

 青色をした体躯には、引き締まった筋肉がついている。
 地面に突き立てた巨大な剣の柄を握りながら、ユウリをまっすぐに見ている。
 その瞳には、溢れんばかりの闘志が映っていた。
 
(まあ、そう簡単にはいかないよな)

 肩をすくめたユウリは、その魔族に向かって口を開く。
 
「一応聞くけど、そこを通してくれないか? その扉の先にいるヤツに会うために、俺はここに来たんだ」
「それは不可能だ。この扉を守るのが、私の役目だからな」
「門番ってわけか」
「なんとでも呼ぶがいい。……それにしても、どうしてここが分かった? この場所のことはどこにも漏れていないはずだ」
「変態だけど優秀な仲間がいるんでな」
「そうか」

 フッと小さな笑みを浮かべた魔族。
 地面に突き立てていた巨大な剣を片手で軽々しく持ち上げ、切っ先をユウリへ向けてきた。
 
「我が名はギーツ。私がもっとも尊敬するお方、凶王様の腹心だ」
「自己紹介か。ずいぶん丁寧な魔族もいたもんだな」
「私は流儀を重んじる。殺す相手に名乗るのが、私なりの流儀だ」
「そうか。悪いけど、俺は名乗らないぞ。美少女以外には進んで名乗らないって決めているんだ」

 ユウリは【勇者覚醒】を発動。
 バージョンアップしたヒノキノボウルグの切っ先を、ギーツへ向ける。

「守りたいものを守るために、お前を殺す」
「分かりやすくていいな、少女よ!」

 地面を蹴ったギーツが、一瞬にしてユウリに近づいた。
 
 巨大な剣を両手で握り直したギーツ。
 下方向から、斜め上に斬り上げてきた。
 
 巨大な剣を振るっているとは思えない、尋常でない攻撃スピードだ。
 常識の域をはるかに超えている。
 
 しかし、対応できないスピードではない。
 ギーツの攻撃に合わせるように、ユウリはヒノキノボウルグを繰り出す。
 
 両者の武器が衝突。
 ビリビリとした激しい振動が、ヒノキノボウルグを持つユウリの手に走った。
 スピードだけでなく、パワーもすさまじい。
 
(ビトーのオッサンに感謝だな)

 ひび割れたままのヒノキノボウルグで攻撃を受けていたら、砕け散っていただろう。
 この戦いの前に修復してもらっておいて良かった。
 
「私の攻撃を受け止めたか。非力そうな外見とは違い、確かな実力を持っているようだな」
「そりゃどうも」
「まだまだ余裕そうな態度だな。しかしその余裕、いつまで持つかな?」
 
 そこから始まったのは、武器どうしの打合い。
 ヒノキノボウルグと巨大な剣。
 両者の武器が、何度も何度も衝突する。
 
(こいつ、やりづらいな)
 
 ギーツの剣は変則的な剣筋をしていて、とても読みづらい。
 それに加えて、その攻撃はスピードとパワーを併せ持っている。
 ギーツの剣の腕は相当高い。
 
 気が抜けない。
 少しの判断ミスが、命取りになってしまうだろう。
 
 そんなやりづらさに加え、ユウリは違和感も感じていた。
 剣を交えるごとに力を吸い取られていくような、そんな不思議な感覚だ。
 
 その違和感が気になり、体の内に意識を集中させたユウリ。
 瞬間、その正体に気づく。

「こいつ!」

 後ろに飛び退き、ギーツと距離を取る。
 
「急にどうした?」
「やってくれたな。俺の魔力を奪うなんてよ」
「……ほう。そこに気付くとはな」

 感心したような声色を上げたギーツ。
 それは決して冷やかしなどではなく、本当にそう思っているみたいだった。
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