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【33話】目的変更
しおりを挟む「女の子か……。やりづらいな」
勇者は可愛いらしい女の子だった。
肩の上で切り揃えられた銀髪に、青い瞳をしている。
歳はユウリと同じくらいだろうか。
その勇者の体は、禍々しいどす黒い光を纏っている。
なにかしらのスキルを既に発動しているとみて、間違いないだろう。
「やりづらいけど、お前には死んでもらう。俺の大切な人たちを守るためにな」
「グルルル……!」
返ってきたのは、獣のような唸り声だった。
「ガアアアアア!!」
雄叫びのようなものを上げた勇者が、距離を詰めてきた。
【勇者覚醒】を発動したユウリと同じくらいに速い。驚異的なスピードだ。
「ルウ! ルウ! ルウ!」
解読不能な声を上げながら、勇者は、右手に持った剣を力任せに振るってきた。
ユウリはそれを、ヒノキノボウルグで受ける。
勇者の力任せの剣は単純で、まったく技術がない。
しかし、その一撃一撃は非常に重い。
とんでもないパワーだ。
並の人間であれば、この攻撃を受け止めることは不可能だろう。
ディアボル王国軍の兵士では歯が立たないのも納得だ。
「ルウ! ルウ!」
剣を振ってくる勇者は、獣のような声で叫び続けている。
その姿は、とても正気とは思えない。
洗脳でも受けているかのようだ。
普通とは思えない勇者に、ユウリはそんな疑惑を抱く。
(あれ、頭になんかついてるぞ)
勇者の頭上には、キラキラ光っているものがつけられていた。
それは、古びた銀色のティアラ。
宝石が散りばめられた、豪華なつくりをしている。
一見すると、何の変哲もない髪飾りだ。
しかし、よく見てみれば違う。
そのティアラは、ただついているのではない。
勇者の体と、一体化していた。
一体化するティアラなんて、聞いたこともない。
不気味なそれに、ユウリはおぞましいものを感じる。
「グゥゥ……」
力任せに剣を振るっていた勇者の動きが、ピタリと止まった。
急な変化にハッとするユウリ。
勇者についてあれこれ考えていたのを止め、戦いに集中する。
動きが止まった勇者だったが、そうなったのはほんの一瞬だけだった。
自由になっている左腕の手のひらを大きく広げた勇者は、それをユウリへ向けてきた。
「グルルルルウ!!」
勇者の手のひらから放たれたのは、巨大な火の球だった。
飛んできた火の球を、ユウリはヒノキノボウルグでとっさに叩き割る。
二つに割れた火の球が、離れた地面に着弾。
大きな爆音とともに、地面が激しくめくれ上がった。
地面を蹴って後方に飛び退くユウリ。
いったん距離を取る。
「とんでもない魔法を使ってきたな」
勇者の放った火の球は、とんでもない威力を秘めていた。
元S級冒険者であるジェイクの放った火属性の最上級魔法、【ドラゴンブレス】よりもずっと高威力のように思えた。
まともに受けていたら、無傷では済まなかったかもしれない。
しかし今の魔法攻撃のおかげで、勇者の倒し方を閃いた。
念のためにもう一度検証する必要はあるが、読みが当たっていれば問題なく殺すことができるだろう。
だが、ユウリには気になっていることがあった。
勇者がつけているティアラ、それがどうしても引っかかっている。
さらに、勇者が上げている獣のような叫び声。
それがなぜか、苦しみ悶えているように聞こえるのだ。
「…………あ!」
ユウリの頭に浮かんだのは、エルフの隠れ里での記憶。
『狂化の髪飾りは、特別な力を持つ人間のみが装着できると言われているアイテム。装着者の身体能力、魔法攻撃力を大幅に増加させるという効果があります。しかしそれを装着すれば、自我は失われ命令に従うだけの人形となり果ててしまう。さらには、装着者に耐え難い苦痛を与えます』
狂化の髪飾りについて説明する、グリコの言葉だった。
規格外の身体能力と魔法攻撃力。
正気を失っているとしか思えない行動。
苦しみ悶えているような叫び声。
勇者の頭についているティアラが狂化の髪飾りだとすれば、それらの不審な点にすべて納得がいく。
(あのティアラさえぶっ壊せば、元に戻るかもしれないな)
「その呪縛、俺が断ち切ってやる」
操られているだけの可憐な美少女を殺すのは、なんとも心苦しい。
勇者の殺害ではなく狂化の髪飾りの破壊へ、ユウリは目的を切り替えた。
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