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【31話】切り札
しおりを挟む訝しげな顔をするユウリ。
この国を救ってくれ、いきなりそう言われてもピンと来るはずがない。
「きちんと説明してくれ」
「もちろんだ」
大きく頷いた国王は、ゆっくり口を開いた。
「メロガ平原の先にある隣国、モルデーロ王国のことは知っているか?」
「ああ」
「先日、諜報員から連絡があってな。モルデーロ王国は、我がディアボル王国へ攻め入る準備を始めているらしい。そしてその戦に、大きな個人戦力を投入するという話なのだ」
「大きな個人戦力……なんだそりゃ?」
「大いなる力を持つ者を召喚する大魔法――勇者召喚。その魔法を、お主は知っているか?」
「……知っているさ」
28歳サラリーマンだったユウリは、勇者としてこの異世界に召喚されたのだ。
当然、勇者召喚のことは知っている。
「だが、いったいそれが――いや、待て。まさか大きな個人戦力ってのは……!」
ユウリの次に召喚された、新たな勇者。
その言葉が、ユウリの頭に浮かぶ。
「恐らく、お主の想像している通りだ。今回の戦、モルデーロ王国は勇者を投入してくるやもしれない。お主には、勇者が出てきた場合の対処を頼みたい」
「つまり俺は、ディアボル王国側の切り札ってわけか」
「そうだ。相手の切り札に対抗するには、こちらも切り札を使うしかない。我が国の最高戦力である、ユウリを使うしかないのだ」
目を瞑った国王が、大きなため息を吐く。
「私は争いが大嫌いだ。戦争なんてしたくはない。本音を言うと、お主のような小さな子どもを戦場になど出したくない」
スッと目を開く国王。
その瞳には、強い覚悟が宿っている。
「しかし、国を黙って明け渡すにはいかないのだ。私には、国民を守る義務がある……! 身勝手なお願いだということは分かっている。だが私はお主に頼るしかない。だから、どうか――」
「何よそれ!!」
大声を上げ立ち上がったのは、シャルロットだった。
瞳からは、ボロボロと涙がこぼれている。
「お父様の言うこと、ぜんぜんわかんない! どうしてユウリが危険な目に目に遭わないといけないのよ!」
「言っただろ。それはユウリが、大いなる力を持っているからだ」
「知らないわよそんなの! 強かったら戦わないといけないなんて、誰が決めたのよ!」
「しかし、ユウリに頼るしか――」
「ユウリは私の大切な友達なの! 私から大切な人を奪わないでよ!!」
シャルロットの叫びによって、謁見の間がしんと静まる。
その静寂の中を、ゆっくり歩いていくユウリ。
シャルロットの前まで進んでいって、優しく頭を撫でる。
「俺のために、いっぱい怒ってくれてありがとうな。とっても嬉しいよ。……でも、ごめん。俺はこの話を受けることにする」
「ど、どうして!?」
目を見開いたシャルロットが、ユウリの服をギュッと掴んだ。
行かないで欲しい。そんな気持ちが痛いくらいに伝わってきた。
こんなにも心配してくれることを、ユウリはものすごく嬉しく感じる。
(でも……それでも俺は行く)
「この国には、俺の大事な人たちが大勢いる。俺はその人たちを守るために戦う。俺が守りたい人の中にはな、シャル、お前もいるんだ」
「そんな言い方ズルいわよ!」
叫んだシャルロットは、ユウリに思い切り抱き着いた。
「そんな風に言われたら、私、ユウリを止められないじゃない!」
ユウリの胸に顔を埋めるシャルロット。
びゃあびゃあと大きな声で泣く。
「俺は絶対帰ってくる。安心して待っててくれ」
優しい口調でそう言いながら、シャルロットの背中をさすった。
新勇者の力は未知数だ。
ユウリよりも強大な力を持っている可能性だって考えられる。
それでもユウリは、戦うと決めた。
大切な人を守るために。
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