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【28話】元Sランク冒険者の殺し屋
しおりを挟む馬車を降りたユウリは、すぐに異常に気付く。
馬車の先頭部分。
そこでは、馬車をけん引していた馬がぐったりと地に伏せていた。
馬の首は、おかしな方向に折れ曲がっている。
生気を失った目が、もう死んでいるという事実を強く物語っていた。
死んでいる馬の横では、御者が仰向けに倒れていた。
腹部には大きな風穴が空いており、大量の血が地面に流れている。
馬と同じく、死んでいることは明らかだ。
「よお、クソガキ」
死体となった御者の傍らに立つ、スキンヘッドの大男が口を開いた。
全身がぶ厚い筋肉に覆われている。
大きな右手の拳は、真っ赤な血で染まっていた。
馬と御者を殺したのは、このスキンヘッドの男で間違いないだろう。
「お前がBランク冒険者のユウリだな?」
「……どうしてお前がそこにいる」
スキンヘッドの男の問いを無視して、新たな問いを投げるユウリ。
その視線は、スキンヘッドの男の隣にいる男性へ向けられている。
「答えろよ…………ベスター」
スキンヘッドの男の隣にいるのは、メガネをかけた知的な男性。
シャルロットの側近である、ベスターだった。
「一言で言い表すなら、平和が嫌いだから、ですかね」
爽やかな笑顔で言ってくるベスター。
何を言っているのか、さっぱり理解できない。
「両国が争うための火種を投入する、それが私の目的です。生意気な第五王女の死を利用してね」
「……シャルの情報を流していたのも、殺そうとしたのも、全部お前の仕業ってことでいいんだな?」
「はい、その認識で合っています」
「そうか」
悪びれることなく認めたベスターに、ヒノキノボウルグを向けるユウリ。
【勇者覚醒】を発動する。
ユウリの腹の内は今、かなり煮えたぎっている。
シャルロットを殺そうとしているベスターを、絶対に許すことはできない。
「初めて見る魔法だな。身体強化系の魔法か? ちょっとは楽しめそうだな!」
淡い白色の光を纏うユウリを見て、スキンヘッドの男の口角がニヤリと上がった。
「おい、メガネ! 巻き込まれたくなかったら下がっていろ!」
「言われなくてもそうする。頼んだぞ、ジェイク」
ベスターは少し離れた物陰へ移動。
歪んだ笑みを口元に浮かべながら、こちらをじっと見ている。
「まずはお前からだ。その後でゆっくり、王女様の断末魔を楽しむとしよう」
「シャルを殺させはしない。そのために、お前にはここで死んでもらう」
「かっこいいこと言うじゃねえか」
ヒュー、とジェイクが口笛を鳴らした。
「口だけは立派みたいだな。そんなお前の口がどんな断末魔を上げるのか、今から楽しみで仕方ねえぜ!」
巨体とは思えない俊敏な動きで、距離を詰めてきたジェイク。
ユウリの顔面めがけ、右の拳で殴りつけてくる。
いっさい躊躇のないその拳を、ユウリは左の手のひらで易々と受け止めた。
「嘘だろ!?」
拳を受け止められたジェイクに、大きな動揺が走る。
「いったいどんな手品――」
「死ね」
言い終わる前に、ヒノキノボウルグでジェイクの腹部を殴りつける。
吹き飛んだジェイクの巨体が、後ろの壁に激突。
その衝撃で、壁にヒビが入る。
「て、てめぇ! もう許さねえぞ!」
勢いよく立ち上がったジェイクが、大きな声で叫んだ。
鋭い瞳には、怒りの炎が燃え盛っている。
(……タフだな)
殺すつもりで、ユウリは殴りつけた。
オーガを一発で殺せるくらいの力はあったはず。
並みの人間なら今の一撃で終わっていただろう。
それを耐えたということは、かなりの実力を持っているのかもしれない。
(だが、そんなことはどうでもいい。俺がやることは変わらない)
殺意のこもった目で、ジェイクをじっと見据える。
「殺す! ぶち殺す!! 【身体強化】」
ジェイクの体が青白い光を纏った。
地面を蹴って、飛び出したジェイク。
【身体強化】の魔法によって、彼の身体能力は上がっている。
先ほどの何倍もの速さで、ユウリとの距離を詰めてきた。
「たかだかBランク冒険者の雑魚が、俺に勝てると思うなよ!」
ジェイクはまたしても、右の拳で殴りつけてきた。
狙う場所も同じ。ユウリの顔面だ。
対するユウリも、先ほど同じように左手で攻撃を受け止めようとする。
しかしユウリの左手に接触する直前、ジェイクは握りしめていた拳をいっぱいに広げた。
「死ねクソガキ! 【ドラゴンブレス】」
ジェイクの手のひらから放たれたのは、激しく燃える炎。
その炎が、ユウリの顔面に直撃する。
【ドラゴンブレス】は、火属性の最上級魔法だ。
とてつもない破壊力を持っており、人間の体などあっという間に燃やし尽くしてしまう。
「俺のことを肉弾戦しかできないタイプだと思い込んでいただろ。残念だが、俺は攻撃魔法も使えるんだ! って、もう聞こえてないか!」
ジェイクが勝利を確信したかのような笑みを浮かべた。
だがそれは、一瞬で凍りつく。
「ペラペラうるせえよ。くだらないフェイント攻撃に成功したのが、そんなに嬉しいのか」
それは、ユウリの声だった。
勝利を確信していたジェイクの顔が、みるみる青ざめていく。
「……お前、どうして、生きてるんだよ。それに、なんで無傷……」
「そんなの簡単だ。お前の攻撃魔法の威力よりも、俺の防御力が上だった。それだけだ」
【ドラゴンブレス】が直撃したはずのユウリの顔面には、傷一つ残っていなかった。
【勇者覚醒】を発動したことで、ユウリの防御力は極限まで上昇している。
とてつもない威力を持っている【ドラゴンブレス】でも、ユウリの防御力にはとうてい及ばない。
直撃したところで、まったくダメージはなかった。
「【ドラゴンブレス】は最上級魔法だぞ! そんな人間いるはずねえ!」
「知るか。お前のものさしではかるな」
ユウリはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「そうだ。冥途の土産に教えてやる。実は俺も、攻撃魔法を使えるんだよ。まぁお前と違って、誰でも使えるような初級魔法しか使えないんだけどな」
ジェイクに向かって、バッと手のひらを広げる。
「ふざけんな! こんなところで死んでたまるかよ!」
本能で危機を察知したのか、逃げようとするジェイク。
しかし、もう遅い。
「【ファイアボール】」
ユウリの手から放たれた巨大な火の球が、ジェイクの体を包み込んだ。
炎から逃げようともがいているようだが、まったく意味がない。
やがて、無意味なその動きが止まる。
聞くに堪えない汚らしい断末魔を上げて、ジェイクは死体となった。
「さて、あとは」
ジェイクを討ったユウリは、少し離れた物陰にいるベスターへ視線を向けた。
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