TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空

文字の大きさ
上 下
25 / 44

【25話】気まずい道中

しおりを挟む
 
「ベスター! 護衛を変えなさい! 今すぐに!!」
「……申し訳ございませんが、それは不可能です」
「はぁ!?」

 裏返った叫び声が、謁見の間に響く。
 
 激昂状態のシャルロットは、闘牛場の牛のよう。
 今すぐにでもベスターに飛びかかりそうな勢いだ。

「あんた、第五王女である私の命令が聞けないっていうの!」
「レドリオ王国への出立は明朝。今から変更しようと思っても間に合いません。どうかご理解ください」
「……あー! もう!」

 ドン!
 地面を強く踏んだシャルロットが、その勢いでイスから立ち上がる。

「最悪よ!!」

 シャルロットは、ぷりぷりしながら謁見の間を出て行った。
 
「ユウリ様たちには、部屋を用意しております。すぐに案内の者を寄こしますので、このままここでお待ちください」

 ベスターはそう言ってから、出入り口の方へくるっと方向転換。
 急ぎ足でシャルロットを追っていった。
 
******
 
 翌朝。
 
 ユウリ、リエラ、フィア、シャルロット、ベスターの計五人が乗っている馬車が走り始めた。
 行き先はレドリオ王国だ。
 
 王族が使用する馬車ということもあってか、通常の馬車と比べて車内はとても広い。
 ソファはふかふかで、最高の座り心地をしている。
 
 ユウリ、リエラ、フィアの冒険者グループは、車内の一番奥に横並びになって座っている。
 
 その対面に座っているのは、シャルロット。
 ムスっとした顔をしている。
 
 ベスターは出入り口近くにポツンとひとりで座り、本を読んでいた。
 
 車内には今、気まずい沈黙が立ち込めている。
 その雰囲気を作っているのは、対面でムスっとしているシャルロットだ。
 
 頬杖をつきながらずっと窓を見ており、ユウリたちと目線を合わせようとしない。
 イライラしているのが一目で分かる。

 原因はおそらく、昨日の一件だろう。
 そのせいで、ユウリはいたく嫌われてしまったようだ。
 
(まぁ、時間が解決してくれるだろう)

 人の怒りというのは長くは続かない。
 時間が経てば、シャルロットの機嫌も直るはずだ。


 しかし、その見通しは甘かった。
 夕方になっても、シャルロットの態度に変化はない。
 
 レドリオ王国までは、馬車で一週間かかる。
 このままでは息の詰まるような今の空気に、一週間耐え続けなければならない。

(そんなの無理だ)

 気まずい雰囲気を打ち破るべく、ユウリは行動を起こす。
 
「その、昨日は悪かったよ。いきなりあんなこと言って。デリカシーに欠けてた」

 頭を下げての謝罪。
 
 しかし、対面からはなんの返事もない。
 
(失敗か……)
 
 そう思ったとき。
 
「別にいいわよ」
 
 シャルロットの声が聞こえた。
 
「あんたに言われたことは事実だし。お兄様やお姉様たちと比べて愛想も顔も悪いって、よく言われるもの。親しい人がいないのも当然だわ」
「愛想はともかく顔は可愛いだろ」
「私の目の前で他の女性を口説くなんて……まさかユウリ様、私を捨てるんですか!?」
「お、修羅場っていうやつじゃの! 血みどろの争いじゃ!」
 
(何言ってんだこいつら……)
 
 興奮しているリエラとフィアに、ユウリはため息を吐いた。
 
「あなたたち、仲がいいのね。ちょっと羨ましいわ」
 
 シャルロットがボソッと呟く。
 そこには、悲しさと寂しさが入り混じっているように思えた。
 
「ものごころつく前にお母様がなくなってから、私はずっと一人だったの。以前はお父様――国王がたま会いに来てくれたけど、仕事が忙しいみたいで今はめっきり。もう三年は会ってないかしら」
「ベスターは?」
「あいつは違うわ」

 シャルロットが首を横に振る。
 
「ベスターは小さい時からの側近だけど、仕事以外の会話をしたことは一度もないわ。私、あいつに嫌われているもの」

(確かにその通りかもしれない)
 
 横目でベスターを見る。
 
 もし仲が良ければ、シャルロットの隣に座っているはずだ。
 あんな離れたところで本を読んでいるのはおかしい。
 
「あんたたちって一緒に組んでから長いの?」
「いや、そうでもないぞ。俺とリエラがパーティーを組んだのが三か月前。フィアが加わったのが、二か月前だな」
「そんなに短いの!?」

 よほど意外だったのか、瞳を大きく見開いたシャルロット。
 不思議だわ、という呟きが口から漏れる。
 
「一緒に冒険してるうちに、自然と仲が深まるんだよ」
「……ねぇ、もしよければ冒険の話を私に聞かせてくれない?」
「あぁ、いいぞ!」

 快諾すると、シャルロットの顔がぱあっと輝いた。
 彼女の笑顔を見たのはこれが初めてだったが、とてもよく似合っている。
 
「それではまず、ユウリ様の抱き心地の話からですね!」
「いやいや、何を言っておる。まずは酒の話からに決まっておるじゃろ!」
「…………お前ら、ちょっと黙ってろ」

 リエラとフィアにツッコミをしてから、冒険者としての日常を語っていく。
 
 この話を境に、ユウリたちとシャルロットの距離がグッと縮まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い

竹桜
ファンタジー
 主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。  追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。  その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。  料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。  それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。  これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...