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【21話】盗賊団のアジトへ
しおりを挟む建屋に怒鳴り込んできたエルフのオッサンは、鼻息を荒くしながらグリコに詰め寄った。
「本気かよ長老! こんな非力そうな小娘どもが役に立つとは思えねぇ!」
ユウリたちを睨みつける、エルフのオッサン。
鋭い視線に込められているのは、大きな苛立ちと不信感だ。
「黙れビトー。ミノタウロスを討ったユウリ様のお力を借りるしかない――長老である私がそう判断したのだ。分かったなら、とっとと出ていけ。話の邪魔だ」
「そんなもん分かってたまるかよ! 俺の娘――」
「連れていけ」
グリコの言葉に、両脇に控えていた二人の屈強なエルフが無言で頷く。
彼らによって、ビトーは外へ連行されていった。
「大変失礼いたしました。ビトーの失礼な発言は、長老である私の責任。罰でしたら、私がなんなりと受けます」
「いや、別にそんなのいいよ。それよりあのオッサン、なんであんなにキレてたんだ?」
「スポイド盗賊団に攫われたエルフの娘……それは、ビトーの一人娘なのです。病で妻を亡くしているビトーにとっては、唯一の家族です」
(大事な一人娘を救いにいくのが、俺たちみたいなガキじゃああもなるか)
ユウリたちの外見を見て、とても任せられないのと判断したのだろう。
そうなるのも無理はない。
「それであの……依頼の方は、お受けいただけますでしょうか?」
「いいぞ」
ユウリは即答する。
もし怪しい話だったら断っていたが、聞いた感じ何も問題はなさそうだ。
「ありがとうございます!」
「俺たちは今から依頼をこなしてこようと思う。盗賊団のアジトがある場所を教えてくれ」
「はい。すぐに地図と馬車をご用意いたします! どうか、よろしくお願いいたします!!」
深く頭を下げるグリコに、ユウリ一行は大きく頷いた。
スポイド盗賊団のアジトまでは、馬車で二時間ほどかかる。
ユウリ、リエラ、フィアは今、そこへ向かって走っている馬車に乗っていた。
その後ろでは、もう一台の馬車が走っている。
車内に乗っているのは、腕の立つエルフの男たち数人。
向かう先はユウリたちと同じ、スポイド盗賊団のアジトだ。
アジトに到着してからは、事前に決めた流れに沿って動くことになる。
まずはユウリたちが、スポイド盗賊団のアジトを制圧。
狂化の髪飾りを奪還し、さらには、アジトに囚われているビトーの娘を救出する。
最後に、スポイド盗賊団の身柄を腕の立つエルフたちに引き渡す。
簡単に言えば、突入してことを起こす役がユウリたち。
エルフたちは、後処理だ。
「うーん」
ガタガタ揺れる車内で、ユウリは考えごとをしていた。
グリコからの依頼は三つ。
スポイド盗賊団の制圧。
狂化の髪飾りの奪還と、破壊。
ビトーの娘の救出。
上二つは、問題なく遂行できるだろう。
しかし、最後が問題だ。
盗賊団がビトーの娘を人質にするようなことがあれば、身動きが取れなくなる。
そうなった場合、アジトの制圧も狂化の髪飾りの回収もできなくなってしまうだろう。
(アジトを制圧する前に人質を救出すべきだろうけど、どうしようか)
その方法が、ユウリは思いつけないでいた。
「どうしましたかユウリ様。難しい顔をされていますよ」
「何じゃ。困りごとか?」
「あぁ。実はちょっと悩んでいることがあるんだ」
一人で考えても、良い案が思い浮かびそうにない。
考えごとを、二人に打ち明ける。
「囚われている女の子の救出は、私にお任せください」
リエラがスッと手を上げて申し出た。
「私なら、誰にも悟られずに人質の場所を探り当てることができます」
「それができれば問題点はクリアだけど……。でも、どうしてリエラがそんなことできるんだ?」
誰にも悟られずに人質の場所を探り当てる、それに必要なものは潜入系のスキルだ。
しかし、リエラは剣士だ。
そういった、戦闘に関係ないスキルを習得しているとは思えない。
「私、ユウリ様部の屋に忍び込みたい一心で潜入スキルを極めようと思ったんです。そのために、ファイロル一のスパイ――師匠に弟子入りして、夜中にレッスンを受けていました。そうしたら意外に才能があったみたいで、潜入スキルだけならSSランク冒険者レベルだと、師匠からお墨付きをもらったんです」
「おお! ユウリへの深すぎる愛を持っているリエラだからこそ、成しえたことじゃな! あっぱれじゃ!」
「…………よくやったリエラ」
色々とツッコミどころは多かったが、ユウリはこれを全てスルー。
動機は不純そのものだが、リエラの潜入スキルのおかげで問題はクリアされた。
細かいことには目を瞑る。
「人質の居場所を特定してそこへ行くまでに、時間はどれくらいかかるんだ?」
「どんなに広い場所でも、五分もあれば特定できます」
「よし。これで作戦が決まった」
ユウリは両手をパンと叩く。
「まず、リエラは先に単独でアジトへ潜入。人質の居場所を特定して、そこで待機だ。五分後、俺とフィアが派手に騒ぎを起こす。敵が動揺している隙に、リエラは人質を連れてアジトを脱出。馬車へ向かってくれ。俺とフィアは、そのままアジトを制圧する」
「承知しました!」
「了解じゃ!」
勢いある二人の返事からは、溢れんばかりのやる気を感じた。
同じく、ユウリもやる気に満ちていた。
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