21 / 44
【21話】盗賊団のアジトへ
しおりを挟む建屋に怒鳴り込んできたエルフのオッサンは、鼻息を荒くしながらグリコに詰め寄った。
「本気かよ長老! こんな非力そうな小娘どもが役に立つとは思えねぇ!」
ユウリたちを睨みつける、エルフのオッサン。
鋭い視線に込められているのは、大きな苛立ちと不信感だ。
「黙れビトー。ミノタウロスを討ったユウリ様のお力を借りるしかない――長老である私がそう判断したのだ。分かったなら、とっとと出ていけ。話の邪魔だ」
「そんなもん分かってたまるかよ! 俺の娘――」
「連れていけ」
グリコの言葉に、両脇に控えていた二人の屈強なエルフが無言で頷く。
彼らによって、ビトーは外へ連行されていった。
「大変失礼いたしました。ビトーの失礼な発言は、長老である私の責任。罰でしたら、私がなんなりと受けます」
「いや、別にそんなのいいよ。それよりあのオッサン、なんであんなにキレてたんだ?」
「スポイド盗賊団に攫われたエルフの娘……それは、ビトーの一人娘なのです。病で妻を亡くしているビトーにとっては、唯一の家族です」
(大事な一人娘を救いにいくのが、俺たちみたいなガキじゃああもなるか)
ユウリたちの外見を見て、とても任せられないのと判断したのだろう。
そうなるのも無理はない。
「それであの……依頼の方は、お受けいただけますでしょうか?」
「いいぞ」
ユウリは即答する。
もし怪しい話だったら断っていたが、聞いた感じ何も問題はなさそうだ。
「ありがとうございます!」
「俺たちは今から依頼をこなしてこようと思う。盗賊団のアジトがある場所を教えてくれ」
「はい。すぐに地図と馬車をご用意いたします! どうか、よろしくお願いいたします!!」
深く頭を下げるグリコに、ユウリ一行は大きく頷いた。
スポイド盗賊団のアジトまでは、馬車で二時間ほどかかる。
ユウリ、リエラ、フィアは今、そこへ向かって走っている馬車に乗っていた。
その後ろでは、もう一台の馬車が走っている。
車内に乗っているのは、腕の立つエルフの男たち数人。
向かう先はユウリたちと同じ、スポイド盗賊団のアジトだ。
アジトに到着してからは、事前に決めた流れに沿って動くことになる。
まずはユウリたちが、スポイド盗賊団のアジトを制圧。
狂化の髪飾りを奪還し、さらには、アジトに囚われているビトーの娘を救出する。
最後に、スポイド盗賊団の身柄を腕の立つエルフたちに引き渡す。
簡単に言えば、突入してことを起こす役がユウリたち。
エルフたちは、後処理だ。
「うーん」
ガタガタ揺れる車内で、ユウリは考えごとをしていた。
グリコからの依頼は三つ。
スポイド盗賊団の制圧。
狂化の髪飾りの奪還と、破壊。
ビトーの娘の救出。
上二つは、問題なく遂行できるだろう。
しかし、最後が問題だ。
盗賊団がビトーの娘を人質にするようなことがあれば、身動きが取れなくなる。
そうなった場合、アジトの制圧も狂化の髪飾りの回収もできなくなってしまうだろう。
(アジトを制圧する前に人質を救出すべきだろうけど、どうしようか)
その方法が、ユウリは思いつけないでいた。
「どうしましたかユウリ様。難しい顔をされていますよ」
「何じゃ。困りごとか?」
「あぁ。実はちょっと悩んでいることがあるんだ」
一人で考えても、良い案が思い浮かびそうにない。
考えごとを、二人に打ち明ける。
「囚われている女の子の救出は、私にお任せください」
リエラがスッと手を上げて申し出た。
「私なら、誰にも悟られずに人質の場所を探り当てることができます」
「それができれば問題点はクリアだけど……。でも、どうしてリエラがそんなことできるんだ?」
誰にも悟られずに人質の場所を探り当てる、それに必要なものは潜入系のスキルだ。
しかし、リエラは剣士だ。
そういった、戦闘に関係ないスキルを習得しているとは思えない。
「私、ユウリ様部の屋に忍び込みたい一心で潜入スキルを極めようと思ったんです。そのために、ファイロル一のスパイ――師匠に弟子入りして、夜中にレッスンを受けていました。そうしたら意外に才能があったみたいで、潜入スキルだけならSSランク冒険者レベルだと、師匠からお墨付きをもらったんです」
「おお! ユウリへの深すぎる愛を持っているリエラだからこそ、成しえたことじゃな! あっぱれじゃ!」
「…………よくやったリエラ」
色々とツッコミどころは多かったが、ユウリはこれを全てスルー。
動機は不純そのものだが、リエラの潜入スキルのおかげで問題はクリアされた。
細かいことには目を瞑る。
「人質の居場所を特定してそこへ行くまでに、時間はどれくらいかかるんだ?」
「どんなに広い場所でも、五分もあれば特定できます」
「よし。これで作戦が決まった」
ユウリは両手をパンと叩く。
「まず、リエラは先に単独でアジトへ潜入。人質の居場所を特定して、そこで待機だ。五分後、俺とフィアが派手に騒ぎを起こす。敵が動揺している隙に、リエラは人質を連れてアジトを脱出。馬車へ向かってくれ。俺とフィアは、そのままアジトを制圧する」
「承知しました!」
「了解じゃ!」
勢いある二人の返事からは、溢れんばかりのやる気を感じた。
同じく、ユウリもやる気に満ちていた。
42
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる