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【20話】エルフの里
しおりを挟む楽しい小旅行からファイロルに戻った、その翌朝。
ユウリ、リエラ、フィアの三人は、冒険者ギルドへ向かっていた。
仲良く喋りながら、路上を歩いていく。
(やっぱり二人がいると楽しいなぁ)
そんなことを考えたユウリは、つい顔が緩んでしまう。
「どうしましたか、ユウリ様?」
「なんだか嬉しそうにしておるのう」
「……別になんでもない」
お前らと一緒だと楽しい、なんて口にするのは恥ずかしい。
面と向かって言えるはずもなかった。
「ほら、とっとと行くぞ」
二人の追求から逃れるように、ユウリは少し歩く速度を上げた。
冒険者ギルドへ入るなり、アメリアが小走りで駆け寄ってきた。
「ユウリちゃんに指名依頼が来ているわよ」
アメリアから依頼書を手渡される。
冒険者になってから二か月近く経つが、指名されるのは初めてのことだ。
手渡された依頼書を、ドキドキしながら確認する。
「どれどれ」
ユウリはまず、一番重要な依頼内容をチェック。
しかしそこに記載されていたのは、『詳細は直接会った時にお話します』との文字。
他には何も書いていなかった。
「何だよそりゃ……」
いきなり肩透かしをくらってしまう。
がっくりするユウリだったが、気を取り直して依頼者の欄を見る。
そこには、エルフの里の長老、とあった。
「エルフっていうと、色白で耳が長い種族のことか?」
頭に浮かぶイメージをユウリは口にした。
「うむ、外見はその通りじゃ。他には――」
エルフについて、フィアが語ってくれる。
500年の寿命を持つ、長寿種族。
世界中のあらゆるところに集落があり、そこで固まって暮らしている。
他種族とは基本的に関わろうとしないが、まったく交流が無いという訳じゃない。
フィアが語ったのは、だいたいこんな内容だった。
「他種族と基本的に関わろうとしない、か……。じゃあどうして、俺を指名したんだろうな?」
問うてみるが、返事は返ってこない。
ユウリも含め、みんな考え込んでいる風だった。
「依頼者に会ってみないと、それは分からないかもね」
「それもそうだな」
アメリアの言葉に、ユウリは同意する。
「ユウリ様は、この依頼を受けるのですか?」
「まだ決めていない。肝心の依頼内容が分からないしな」
とんでもない依頼内容という可能性もある。
指名依頼されたからといって受けるのは、あまりにも危険だ。
「でも、話は聞いてみようと思っている。俺を指名してくれたのに無視するのは、心が痛いからな」
「ユウリ様、カッコイイです!」
「うむ。それでこそユウリじゃ」
せっかく指名してくれたのだから、少しはそれに応えたいと思う。
(でも、変な依頼だったらその時は断るけど)
こうしてユウリたち三人は、エルフの里へ向かうことになった。
ファイロルより北へ馬車を走らせること、一日ほど。
ユウリたちは、エルフの里へ到着した。
森や川に囲まれた、自然豊かな場所だ。
(お、あれがエルフか)
里の入り口には、エルフが立っていた。
長い耳に、雪のような白い肌。
想像していた通りの外見だ。
「あんたらの長老から依頼を受けたユウリだ。話は聞いているか?」
「ユウリ様ですね! お待ちしておりました!」
背筋を伸ばしたエルフが、深々と頭を下げてきた。
とても礼儀正しい。
「長老のところへご案内いたします。私についてきて下さい」
エルフの後について、ユウリたちは里の中に入っていく。
里の中には、木造の家や店がポツポツと建っている。
こじんまりした田舎町といった感じだ。
「着きました。この中で長老がお待ちです」
案内されたのは、木造の建屋だった。
道中で見かけた家に比べると、少しだけ大きい。
エルフがドアをノックする。
「長老、ユウリ様をお連れしました」
「入るように伝えてくれ」
「はい」
ここまで案内してくれたエルフは、中へとお入りください、と言って去っていった。
その場に残された三人。
ドアを開けて建屋の中に入る。
建屋の中には、三人のエルフが横並びで立っていた。
真ん中にいるのは、白い髭を生やしたエルフ。
その両端には、屈強な体つきをしているエルフがいる。ボディガードのような雰囲気だ。
真ん中のエルフが、一歩前へ踏み出した。
「お越しいただきありがとうございます。私はグリコ。ここの長老をしている者です」
「俺はユウリだ。他の二人は、リエラとフィア。俺のパーティーメンバーだ」
「初めまして。リエラと申します」
「フィアじゃ! よろしくのう!」
挨拶をした二人に、グリコが深く頭を下げる。
「ここへは話を聞きにきた。依頼を受けるかどうかは、それを聞いてから判断する」
依頼書を取り出したユウリは、それを依頼者であるグリコへ向ける。
「まず聞きたいんだが、どうしてあんたは依頼書に依頼内容を記載しなかったんだ?」
「ご無礼はお詫びします。……ですが今回の話は、あまり表沙汰にしたくない内容なのです」
グリコの雰囲気が重々しくなった。
(危ない話か?)
穏やかでないグリコの物言いに、ユウリの緊張が高まる。
「一週間ほど前です。スポイドという男が率いるスポイド盗賊団に、この里は襲撃されました。その際、エルフに伝わる大秘宝――狂化の髪飾りを強奪されてしまったのです」
「狂化の髪飾りじゃと!?」
青い瞳をくわっと見開いたフィアが、大声を上げた。
「知ってるのかフィア?」
「うむ。狂化の髪飾りはとても恐ろしい効果を持つアイテムじゃ。これを装着した人間は苦しみを受け続け、命令を遂行するだけの人形となる――魔法使い族の間では、有名な話じゃ」
フィアの言葉に、グリコは小さく頷いた。
「狂化の髪飾りは、特別な力を持つ人間のみが装着できると言われているアイテム。装着者の身体能力、魔法攻撃力を大幅に増加させるという効果があります。しかしそれを装着すれば、自我は失われ命令に従うだけの人形となり果ててしまう。さらには、装着者に耐え難い苦痛を与えます」
「……確かにそれは表沙汰にできないな」
そんな物騒なアイテムが盗まれたと広く知られたら、大きな混乱が起こる可能性が高い。
依頼内容を伏せていたのも納得だ。
「あなた方には、スポイド盗賊団のアジトの制圧、並びに、狂化の髪飾りの回収。そして、狂化の髪飾りの破壊をお願いしたいのです」
「破壊するのは構わないが、本当にいいのか? 大秘宝ってことは、エルフにとって価値のあるものだろ?」
「ユウリ様のおっしゃる通りです。狂化の髪飾りは、私たちエルフにとって大きな価値のあるアイテム。先祖代々、大切に受け継がれてきました。しかし、私は思ったのです」
グッと拳を握るグリコ。
引き締まった雰囲気には、大きな覚悟を感じる。
「狂化の髪飾りは危険なアイテム。いつか必ず、世に災いをもたらすことになる。だからそうなる前に、破壊してしまおう――私はそう思いました。しかしその矢先、スポイド盗賊団に奪われてしまったのです」
「……なるほどな」
今の話を聞く限り、グリコは立派な考えを持っている。
そういうことなら協力してあげたくなるが、まだダメだ。
もう一つ気になっていることがある。
「どうして俺を指名したんだ」
「ミノタウロスを討ったユウリ様は、大きな実力をお持ちだ。そのようなお方ならスポイド盗賊団のリーダーに勝てる、そう見込んでお願いしたのです。我々エルフでは、あの男にかないません」
言い切ったグリコは、悔しそうな顔をした。
「盗賊団リーダーのスポイドという男は、卓越した魔法の使い手。それに加え、ミノタウロスの体毛で作られた鎧を着ているため、魔法攻撃に強い耐性を持っています。魔法攻撃が主体の私たちエルフにとっては、まさに天敵なのです」
「それで俺に助っ人を頼んだ訳か」
「さようでございます。……それであの、今回の依頼についてもう一つお願いしたいしたいことがあるのです。差し出がましいのは承知なのですが、話を聞いてくださいませんか?」
「依頼内容を増やしたいってことか?」
「はい」
頷いたグリコは、神妙な面持ちになる。
「昨日のことです。里の外にある川辺で遊んでいたエルフの幼き娘が、スポイド盗賊団に攫われました」
「盗賊団はどうしてそんなことをしたんだ?」
「恐らく人身売買目的でしょう。ヤツらが盗むのは、物だけではないのです」
「ひどいをことをしますね」
「許せんクズどもじゃな」
盗賊団のクズな行いに、リエラとフィアが憤慨した。
それはユウリも同じだ。
「攫われたエルフの娘は、アジトに囚われているはず。ユウリ様たちには、その娘の救出をお願いしたいのです。報酬は追加でお支払いしますので、どうか――」
「おい!!」
エルフのオッサンが、突然怒鳴り込んできた。
無精ひげの生えた厳つい見た目に、毛むくじゃらの手足。
エルフのオッサンは、エルフというよりもドワーフに近かった。
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