19 / 44
【19話】ハプニング
しおりを挟む服飾店を出た四人。
それからも、色々な場所を訪れていく。
ジュエリーショップに入ったり、オシャレなカフェでスイーツを食べたり、ベンチに座って談笑したり。
そんな様々な体験はユウリにとって初めてのことばかりだったが、どれもが楽しかった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、いつしか夕焼けの赤がポプラの街を染めていた。
「そろそろ帰りましょうか。お夕飯は、ポプラ名産の牛肉を使った料理らしいわよ」
アメリアの言葉に、テンションの上がる三人。
夕食についてあれやこれやと話しながら、一行は宿へ戻っていく。
宿に戻ってしばらく。
ユウリたちの部屋に、従業員が夕食を運んできた。
「ご夕食でございます」
大きなテーブルに載せられていくのは、牛肉を使った様々な料理。
美味しそうな料理に、四人の視線が吸い寄せられていく。
従業員が部屋を去ってから、四人は食事を始めた。
料理を口にした四人は、全員が全員とも「美味しい!」と同じ言葉を口にする。
「ユウリの料理と同じくらい美味しいのう!」
「そいつは最高の褒め言葉だ! ありがとうな、フィア」
「フィアさんばっかり褒められてずるいです! 私はユウリ様の料理の方が好きですよ!」
「へぇ、ユウリちゃんの料理ってそんなの美味しいのね。私も食べてみたいわ!」
絶品の料理に舌鼓を打ちつつ、話に花を咲かせていく。
四人の食事をする手は早く、あっという間に料理は空になった。
「ふぅ、食べた食べた。大満足だぜ」
「ユウリちゃん、まだ満足するのは早いわよ」
腹をポンポンと叩くユウリに、アメリアがフフっと笑う。
「この宿の目玉は大きな露天風呂よ。それに入らず満足するのは、いけないことだわ」
「おぉ、そうか。温泉宿だもんな!」
人生初の露天風呂に、ユウリのテンションはグングン上がる。
入るのが今から楽しみだ。
「じゃあ三人で先に入ってこいよ。俺はその後で入るからさ」
それを口にしたとたん、他の三人の顔が一気にユウリへと向いた。
三人とも、何言ってんのこいつ? 、みたいな顔をしている。
ほんわかしていた雰囲気が、急に冷たくなってしまった。
「……お前ら、急にどうしたんだよ」
三人の態度急変の理由が分からないユウリは、恐る恐る聞いてみる。
ユウリの目の前まで来たリエラが、両肩をガッと掴んだ。
服飾店で試着を迫ってきたときと、なんだか雰囲気が似ている。怖い。
「ユウリ様。こういう時はみんなで一緒にお風呂に入るんですよ」
沈黙すること数秒。
ユウリは「えええええ!?」と大声を上げた。
風呂に入る時は、衣服を全て脱ぐはずだ。
他の三人と一緒に入るとなれば、色々と見えてしまうのは確実。
その刺激に、ユウリは耐えられる気がしない。
「当然じゃな」
「まぁ、普通はそうよね」
アメリアとフィアも、リエラと同意見のようだった。
「ユウリ、ひょっとしてお主恥ずかしいのか?」
「当たり前だろ!」
「何を恥ずかしがることがあるんじゃ? よく分からん」
普段は頼れるヤツなのにのう、と呟いたフィアが肩をすくめた。
「フィアさんの言う通りです。行きますよ、ユウリ様」
リエラが手を掴んできた。
掴む力はかなり強く、簡単には振りほどけそうにない。
「リエラ、本当にやめてくれ!」
「ユウリ様と初めてのお風呂……ふふふ」
リエラは妄想の世界に入ってしまった。
ユウリの話など、まったく頭に入っていない様子だ。
(こうなったら……!)
「フィア! アメリア!」
リエラの説得を諦めたユウリは、他の二人に助けを求める。
それはもう必死に、救援要請する。
しかし、二人は首を横に振った。
「ユウリ、往生際が悪いぞ。観念せい」
「怖がらなくていいのよユウリちゃん。お風呂に入っちゃえば、きっと恥ずかしくなくなるわ」
こうして、ユウリの救援要請は却下された。
お風呂楽しみね、なんていう話をしながら廊下を歩き出す、ユウリ以外の三人。
行き先はもちろん、露天風呂だ。
(ここまでか……!)
全てを諦めたたユウリ。
こうなってしまったのなら、もうやることは一つしかない。
ユウリはギュッと目を瞑る。
お風呂から上がるまで決して開かない、そう強く誓った。
「つ、疲れた」
露天風呂から部屋に戻ってきたユウリは、どっと疲れていた。
ずっと目を瞑っていたので、風呂を楽しむ余裕などまったくなかった。
さっぱりリフレッシュしている雰囲気の三人とは、大違いだ。
(早く横になりたい)
疲れているユウリは、そんなことを思った。
「もう寝ようぜ」
ユウリの提案に、他の三人は頷いた。
部屋の壁際に設置された、巨大なベッド。
四人はその上で、体を横にした。
左から順に、アメリア、フィア、ユウリ、リエラという並びだ。
ふかふかのベッドの上で目を瞑ったユウリは、すぐに強い眠気を感じた。
ほどなく眠りにつくだろう。
だがそれを許さないかのように、リエラが抱き着いてきた。
「ユウリ様~」
寝言を言いながら、ユウリの顔を胸に押し付けるリエラ。
ユウリを抱き枕みたいに扱ってくる。
以前なら、このまま朝までリエラの抱き枕になっていただろう。
しかし、今のユウリは違う。
日頃からリエラに抱き着かれているユウリは、両腕の拘束から抜け出す術を身に着けていたのだ。
「ふふふ」
小さく含み笑いを上げながら、拘束から逃れるユウリ。
そのまま寝返りを打つと、ぼよん。
大きくて柔らかいものが、ユウリの顔面に当たった。
フィアの胸だ。
リエラとはまったく違う感触に、ユウリは顔を赤らめる。
フィアは、その場でぐるりと回転。
体が上下反転になる。
「肉……肉をもっと食べたいのう」
寝言を呟いたフィアが、そのまま抱きついてきた。
ぷにぷにの太ももが、ユウリの顔面に密着する。
(寝相が悪いにもほどがあるだろ!)
フィアから離れようと、体をよじよじ動かすユウリ。
しかしここで、事態が悪化してしまう。
引き剝がしたはずのリエラが、背中から抱き着いてきたのだ。
前後から抱き着かれ、サンドイッチ状態になるユウリ。
密着されているせいで、体が思うように動かせない。
逃れようと試行錯誤するが、どうもうまくいかなかった。
「こうなったら……!」
ユウリのとった行動は、諦め。
色々頑張ったが、もうどうしようもない。
こういうときは、思い切りの良さが大事だ。
「今日は一日、楽しかったな」
ユウリはポツリと呟く。
今日一日の体験は、どれもが新鮮で楽しいものだった。
露天風呂や、二人の美少女に抱き着かれている今の状況など、アクシデントはあった。
でも、そういうのもなんだかんだで楽しいと感じている自分がいる。
きっとそれは、みんながいるからだろう。
「また、みんなで来たいな」
ゆっくり目を閉じるユウリ。
その口元は、楽し気な笑みを浮かべていた。
52
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる