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【17話】アメリアからの誘い
しおりを挟む朝日が外を照らす午前七時。
宿のシングルベッドの上で、ユウリは目を覚ます。
「ふぁ~、良く寝た」
ゆったりと体を起こす。
寝ぼけている体に気合を入れるため、頬を手のひらでペチっと叩いた。
フィアが冒険者パーティーに加入してから一か月。
彼女が加入したことで、パーティーの雰囲気がさらに盛り上がった。
ユウリにとって、とても嬉しい変化だ。
その一方で、不思議な変化もある。
「今朝もだ……」
隣で気持ちよさそうに寝息を立てているリエラを、怪訝な目で見る。
ユウリ、リエラ、フィアの三人は同じ宿で宿泊しているが、部屋はそれぞれ別々。
一人一部屋、自分だけの部屋を借りている。
にもかかわらず朝起きると、隣でリエラが寝ているのだ。
ここ二週間ほどずっと、そんな謎の現象が続いている。
部屋の鍵は必ずかけてから寝ているのに、どうやって入ってくるのだろうか。
不思議でならない。
先日、本人に聞いてみたのだが、『愛の力です!』とのこと。
まったくもって意味不明な回答は、ユウリの謎を解決してはくれなかった。
「考えても仕方ないか」
こうして考えていても、答えは分からないだろう。
首を横に振って、頭に浮かんだ疑問を振り払う。
「俺は今からギルドに行くけど、お前も来るか?」
「……」
リエラからの返事はない。
続けて体を揺すってみるが、リエラは一向に起きる気配はなかった。
ユウリ様ぁ、と、幸せそうな顔でむにゃむにゃ寝言を呟いている。
(これは起きそうにないな)
気持ち良く寝ているところを、無理に起こすのも悪い。
諦めたユウリは、もう一人のパーティーメンバーの部屋へ向かう。
「おーい、フィア。今からギルドへ行くけど、お前も来ないか?」
コンコンコン。
少し強めにドアをノックするも、返事は帰ってこない。
ドアノブをひねると、するりとドアが開く。
鍵はかかっていなかった。
「またか……」
ユウリは小さくため息を吐く。
フィアは部屋の鍵をかけ忘れる癖がある。
何度も注意をしているが、まったくといっていいほど効果は出ていない。
部屋の中には、床で爆睡しているフィアがいた。
ベッドから転げ落ちてしまったのだろう。
「どんだけ寝相悪いんだよ。まったく、こんなところで寝ていたら風邪ひくぞ」
フィアの体を持ち上げて、ベッドの上に戻す。
そうして、体の上からそっとふとんを被せた。
一緒にパーティーを組んで分かったのだが、フィアは結構だらしないところがある。
もう一人のパーティーメンバーであるリエラも、だらしないところが多い。二人は同じタイプだ。
そのためユウリが自然と、たらしない二人の面倒を見ることが多い。
(フィアも起きそうにないか)
爆睡しているフィアを横目に見たユウリは、そう判断。
仕方ないので、一人で冒険者ギルドへ向かうことにした。
冒険者ギルドへ入ったユウリは、依頼受注カウンターへと向かった。
「おはよう、ユウリちゃん」
受付嬢のアメリアが、親し気な笑顔で挨拶をしてくれた。
ほとんど毎日冒険者ギルドを訪れていることもあって、彼女とはもうすっかり仲良しだ。
「あら、今日はリエラちゃんとフィアちゃんは一緒じゃないのね。いつもみんな一緒なのに珍しい」
「あいつらはまだ寝てる。声をかけたんだけど、リエラもフィアも起きなかったんだ」
「そっか。寂しいわね」
「……別にそんなことはないけど」
というのは強がりだ。
正直、ちょっと寂しい。
(まさか俺が、こんなことを思う日が来るなんてな)
転移前のユウリは、いわゆるぼっち。
一人でいるのが当たり前だった。
だから、知らなかった。
仲間と過ごす日々がこんなにも楽しいということを。
それを教えてくれたリエラやフィアには、本当に感謝している。
「そうだ、ユウリちゃんたちにお話があるのよ」
「俺たちってことは、リエラとフィアにもか?」
「うん!」
アメリアが大きく頷く。
「私の知り合いが、隣町のポプラで温泉宿をオープンすることになったのね。その人が、『オープン前に友達と一緒に遊びにおいで』、と私に言ってくれたのよ。ユウリちゃんたちの予定が合えばだけど、どうかしら?」
「温泉か。いいかもしれないな……!」
連日依頼をこなしているユウリたちは、モンスターと戦い続ける日々を送ってきている。
今にして思えば、休日らしい休日というのを取っていない気がする。
たまにはリフレッシュを兼ねて旅行に出かけ、体を休めるというのもありかもしれない。
それに、みんなで出かけるというのが、とっても楽しそうだ。
「リエラとフィアにも伝えておく! 誘ってくれてありがとう、アメリア!」
みんなでのお出かけにワクワクしているユウリ。
いつもより弾んだ声でお礼を言った。
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