15 / 44
【15話】ミノタウロス
しおりを挟む猛スピードで、ミノタウロスとの距離を詰めたユウリ。
ミノタウロスの顔面めがけ、ヒノキノボウルグを繰り出す。
左手に持った戦斧で、その攻撃を防ぐミノタウロス。
同時に、右手の戦斧をユウリの顔面へ振ってきた。とても素早い攻撃だ。
二本の斧を巧みに操っての、防御と攻撃。
これまでに見たこともないトリッキーな戦闘スタイルは、ユウリにとって予想外だった。
「うお、危ねっ!」
後ろに飛び退き、攻撃を躱したユウリ。
しかし完全には躱しきれなかった。頬に小さな切り傷ができる。
かすり傷とはいえ、戦いで傷を負ったのはこれが初めてだ。
「今の攻撃を避けるとは、中々やるな」
「お前もな」
トリッキーな戦闘スタイル。
ヒノキノボウルグの攻撃を受け止めた防御。
素早い攻撃。
中々に侮れない相手だ。
思った通り、アッシュオーガよりも格上のようだ。
(もう少し本気を出すか)
周囲を巻き込むんでしまうことを心配しているユウリは、常に力を抑えて戦っている。
しかし今回の相手は、いつものままでは倒せないかもしれない。もう少しだけギアを上げて戦ってほうが良さそうだ。
深く息を吸い込むユウリ。
抑えていた力を、ほんの少しだけ解放する。
「さて、第二ラウンド開幕といこうか」
ミノタウロスとの距離を、一瞬にして詰めるユウリ。
力を解放した分、先ほどよりも速度が爆発的に上がっている。
「お前、何をした!?」
急に早くなったユウリの動きに、ミノタウロスは驚きを隠せていない。
言葉にそれが表れている。
ミノタウロスの腹部をめがけ、ユウリはヒノキノボウルグで殴りつける。
ユウリの攻撃を、ミノタウロスは左手の戦斧でガード。
先ほどより強いユウリの攻撃によろけつつも、右手の戦斧を振るってくる。
先ほどと同じ攻撃だ。
「同じ手を二度も食らうかよ!」
向かってくる右手の戦斧に合わせ、ヒノキノボウルグを繰り出した。
腹部へ繰り出したときよりも、少しだけ強い力を込める。
二つの武器が衝突。
ヒノキノボウルグが、ミノタウロスの戦斧を叩き割る。
「なに!?」
武器を破壊されたミノタウロスの表情に、大きな焦りが浮かんだ。
(ここが攻め時だ!)
ヒノキノボウルグを振るい、追撃を仕掛けるユウリ。
残った左の戦斧で、ミノタウロスはとっさにその攻撃を受けた。
だが、受け止めきれない。
ヒノキノボウルグの追撃は、左の戦斧をも破壊した。
ミノタウロスを守るものは、これで何も無くなった。
あとはヒノキノボウルグでとどめを刺すだけだ。
しかしユウリには、試してみたいことがあった。
突き出した右腕の手のひらを、ミノタウロスの体にぴったりつける。
「お前、攻撃魔法に耐性を持っているんだよな。俺の魔法が通用するか、試させてくれよ。今後の参考にしたいんでな」
「や、やめろ!」
ユウリの魔法は自分の耐性では防げない。
それを本能で察したのか、ミノタウロスが声をあげる。
しかしユウリは、その制止の声に従う気はなかった。
「【ファイアボール】」
「ああああああ!!」
巨大な炎に包まれたミノタウロスが、大きな叫び声を上げた。
攻撃魔法に対し、強い耐性を持っているミノタウロス。
一般の冒険者が使うような攻撃魔法では、かすり傷をつけることすらできない。
熟練の魔法使いでも、大きなダメージを与えることは難しい。
しかし、【勇者覚醒】により強化されたユウリのファイアボールの威力は規格外。
ミノタウロスの耐性をもってしても、それを防ぐことはできなかった。
「こんなに強い相手は、あのお方以来だ……」
(あのお方? 何だそりゃ?)
よく分からないことを呟いて、ミノタウロスは地面に伏した。
「終わったな」
後ろを振り返ってみると、オークの死体が五つ転がっていた。
リエラとフィアに、ケガを負った様子はない。
二人とも無事に役目を果たしてくれたようだ。
(良かった)
二人のところへ向かったユウリは、ホッと安堵の息を吐く。
「ちょっと、行ってくるのじゃ」
ユウリと入れ違うようにして、フィアが歩いていく。
地に伏せているミノタウロスを、じっと見下ろした。
「エマ、お主のかたきは討ったぞ」
今は亡き親友に報告するフィア。
ポロポロと涙をしている。
その涙にはきっと、色々な感情が詰まっていることだろう。
ユウリとリエラは何も言わず、ただ黙ってその姿を見つめていた。
少しして、フィアが戻ってきた。
「ユウリ、リエラ。本当にありがとう」
微笑むフィアの瞳には、涙はもう残っていない。
「わらわはこれでやっと、前に進める気がするのじゃ」
「おう」
「良かったですね、フィアさん!」
フィアの目的は果たせたようだ。
ミノタウロスを討つことができて本当に良かった、ユウリはそう思った。
三人は笑顔で、その場を立ち去った。
デルドロ大洞窟を出るなり、フィアが急に立ち止まった。
「お主たちにお願いがあるのじゃ!」
大きな声を出したフィア。
ユウリとリエラも、その場に足を止める。
「お主たちと過ごした時間、とても楽しかった。だからわらわは、これからもお主たちといたいのじゃ!」
「それはつまり、俺たちのパーティーメンバーに入りたいってことでいいのか?」
「……うむ。【ウォーターボール】しか使えんわらわなど、いらんかもしれんが」
バツが悪そうに、フィアは視線を伏せた。
「強さなんて関係ない。俺もお前といて楽しかったよ。だから、フィアが仲間になるのは大歓迎だ」
それに、パーティーに美少女が増えるのは喜ばしい限りだ。
120歳という実年齢はさておき。
「お主、本当に良いヤツじゃな!」
顔を上げたフィアは、とても嬉しそうに笑っていた。
「リエラもそれでいいよな?」
「もちろんです! 一緒に楽しい冒険をしましょうね、フィアさん!」
フィアへ向け、リエラは満面の笑みを見せた。
「ファイロルに戻ったら歓迎会をしましょう!」
「お、いいな!」
「久しぶりに、たらふく酒を飲むとするかの!」
冒険者パーティーに、賑やかな仲間が加わった。
ワイワイ盛り上がりながら、三人はファイロルに戻る道を歩いていく。
63
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる