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【8話】迷惑なAランク冒険者
しおりを挟むベッドに押し倒されたユウリは、体を横向きにされた。
そのすぐ隣で、体を横にするリエラ。
二人は今、向き合う体制になっている。
「おおお、お前! 自分が何をしているか分かっているのか!」
二人の間の距離は、ほとんどない。
リエラの整った顔が、ユウリの目と鼻の先にある。
そんな状況にユウリは、大きく動揺。
顔が真っ赤になる。
「いいから早く離れろ!」
「申し訳ありませんが、それは聞けません!」
強い意思の乗った言葉で、断固拒否するリエラ。
ユウリの背に両手をまわし、ギュッと抱きよせる。
「思った通り! 最高の抱き心地です!!」
ムギュ。
ユウリの顔が、リエラの胸にギュッと押し付けられる。
「ちょっとリエラ! 何してる!」
なんとか逃げ出そうと、必死にもがくユウリ。
しかしリエラの力は強く、まったく逃れることができない。
そうこうしているうちに、リエラはすやすやと寝息を立ててしまった。
ユウリ様しゅきぃ、と気持ちよさそうな声で寝言を立てている。
「どうすんだよ……これ」
抱き枕状態になっているユウリの体は、リエラとピッタリ密着している。
彼女の温もりを、体全体で感じてしまう。
それを意識したらもう最後。
ユウリは、極限の緊張状態になってしまった。
バクバクバク!
うるさいくらいに心臓が脈打って、とても眠れそうにない。
******
眩しい太陽が部屋に差し込む朝。
目を覚ましたリエラが、上半身を起こした。
隣で体を横にしているユウリは、その様子をじっと眺めている。
「おはようございます、ユウリ様。一日の初めからユウリ様を見られるなんて、私、とっても幸せです!」
「……それは良かったな」
寝起きからテンションマックスなリエラと違い、ユウリのテンションは低かった。
しょぼついた目をこすりながら、大きなあくびをする。
「とても眠そうですね。目の下にクマもできていますし」
「昨日は一睡もできなかったんだ。……誰かさんのおかげでな」
今さっき起床するまで、リエラはユウリをギュッと抱きしめていた。
その間ユウリは、ずっと緊張状態。
すやすや眠れるはずもなかったのだ。
「それはお気の毒に……」
お前のせいだ、と言いそうになるが止める。
両手を胸の前で組み涙目になっているリエラにそれを言えば、大いに傷つけてしまうかもしれない。
彼女の悲しむ顔を想像したら、どうにも言えなくなってしまったのだ。
「今日は一日、お部屋でお休みになりますか?」
「いや、冒険者ギルドの依頼をこなす」
とにかくユウリは金が欲しかった。
宿代を稼いで、リエラと別の部屋に宿泊したい。
同じ部屋に宿泊する限り、リエラは一緒のベッドで寝てくる気がする。
そうしたらまた、徹夜が確定してしまうだろう。
それは御免だ。
今晩こそスッキリ眠り、しっかり体を休めたかった。
宿屋を出たユウリとリエラは、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルド内には大勢の冒険者がおり、依頼受注カウンターには長蛇の列ができている。
その列の一番後ろに並ぶ、リエラとユウリ。
リエラの話によれば、依頼を受けるにはここに並ぶ必要があるらしい。
「この後の流れはどんな風になっているんだ?」
自分たちの番が来るまで暇なので、そんなことをリエラに聞いてみる。
依頼受注カウンターで依頼を受ける。
依頼を達成したらギルドに報告し、報酬金を受け取る。
簡単に言うと、こういうような流れになっているらしい。
それに加え、冒険者ランクが高いほど、受けられる依頼の幅が広がるのだとか。
(俺もリエラもFランク。まともな依頼には期待しない方がいいな)
逆に言えば、一番下のFランクだと簡単な依頼しか受けられないということだろう。
依頼を受ける前から気分が落ちるが、こればかりはしょうがない。
ガンガン依頼をこなし、早く冒険者ランクを上げたいところだ。
冒険者ギルドについてあれこれ話しているうちに、列はどんどん進んでいく。
今依頼を受注しているのは、四人組の大男たち。
その後ろには、ユウリとリエラが並んでいる。
四人組の大男たちが終われば、次はいよいよユウリたちの番だ。
「よぉ、アメリア」
四人組の大男のうちの一人が、受付嬢に声をかけた。
青いバンダナを頭に巻いているその男は、全員が大きな体躯をしている四人組の中でも、一番大きい。
「……おはようございます。ロッソさん」
ロッソが声をかけたとたん、これまでずっと笑顔で接客していたアメリアの顔が曇った。
「俺たちが受けられる依頼で、一番報酬金が高いのをよこせ」
「それでしたら、オーガの討伐依頼ですね」
カウンターの下から、アメリアは一枚の紙を取り出した。
アメリアが取り出したのは依頼書だ。
依頼書には、依頼内容、受注条件、報酬金、討伐対象の詳細といった、様々な情報が記載されている。
「……報酬金、たったのこれっぽっちか。もっとまともな依頼はないのかよ?」
「申し訳ございません。今紹介できる最高額の依頼がこちらです」
「しけてんなぁ……!」
大きな舌打ちを鳴らすロッソに、他の三人はゲラゲラ笑った。
ものすごく態度の悪い連中だ。
(冒険者は良い人ばかりだと思っていたけど、こういうマナーの悪いヤツらもいるんだな)
期待を裏切られたようで、少し悲しくなる。
「こちらで依頼受注は完了――」
「それよりアメリアよぉ……」
カウンターに身を乗り出したロッソが、アメリアの腕を無理矢理掴んで持ち上げた。
「いつになったら俺とデートしてくれんだよ!」
「申し訳ございません。……その、都合が合わなくて」
「またそれかよ! ふざけんじゃねえ!」
ロッソの怒号が飛ぶ。
嫌がっているのが分からないのだろうか。
それとも、分かっていてやっているのだろうか。
(こいつ、クズだな)
【勇者覚醒】を発動したユウリ。
ロッソの太ももに、ヒノキノボウルグをコツンとぶつける。
「おわっ!?」
間抜けな声を上げたロッソ。
グラっとバランスを崩し、派手に尻もちをついた。
「クソガキ、てめぇ!」
勢いよく立ち上がったロッソは、グルっと反転。
ユウリの両肩を掴む。
眉間にありったけの皺をよせ、オーガそっくりの鬼のような形相でユウリを睨んだ。
「俺様に攻撃するとはいい度胸してるじゃねえか、おい! Aランク冒険者であるロッソ様によお!」
「攻撃? 俺はそんなことしてないぞ」
肩をすくめたユウリが、ハン、と鼻を鳴らす。
「俺の持ってる棒きれが、お前に当たってしまったことは認める。けど、ただそれだけだ。……なぁ、そうだよな?」
一つ後ろに並ぶ男性冒険者に聞くと、彼は「あぁ、その嬢ちゃんの言う通りだ」と言ってくれた。
「ふざけんな! ハンマーに殴られたような衝撃だったぞ! ただの棒切れに、そんなことできる訳ないだろ!」
「知るか。お前の感じ方がおかしいだけだろ」
「でめぇ……! ふざけるのもいい加減にしろ!」
怒りに顔を染めたロッソが殴り掛かってきた。
スピードの乗った、重みのあるパンチだ。
Aランク冒険者だけあって、それなりにの実力を持っているようだ。
山中で殺した追手の騎士よりは、いくらか強いように思える。
しかし、【勇者覚醒】を発動したユーリの敵ではない。
ロッソのパンチを軽々と避け、その腕を片手で掴み上げた。
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