6 / 44
【6話】冒険者パーティー結成と、刺激の強すぎるシチュエーション
しおりを挟むガックリするユウリだったが、気を取り直して話題を振ることにした。
「そういえば、リエラはどうしてあの平原にいたんだ?」
「冒険者ギルドのゴブリン討伐依頼を受けて、あの平原――メロガ平原の洞穴に潜むゴブリンを狩っていたんです。ユウリ様と出会ったのは、その帰り道。言い忘れていましたけど、私、冒険者をしているんです!」
「あまり詳しくないけど、冒険者っていうのはモンスターを狩って報酬金をもらう人たちのことだよな?」
冒険者という職業は、小説やアニメで何度か目にしたことがある。
モンスターの種類など詳しいことは分からないが、漠然とした知識だけは頭の中に入っていた。
「はい、その通りです。と言っても、私はまだほとんど依頼をこなしたことがないんですけどね」
冒険者になってからまだ一か月なので、とリエラは続けた。
「なるほどな。どうりで赤色のモンスターに及び腰になっていたわけだ」
「……それはどうでしょうか」
上を向いたリエラが、困ったような顔になる。
「私のような駆け出しでなくとも、オーガを前にすればほとんどの冒険者がああなると思いますよ」
「え、もしかしてオーガって、わりと強いモンスターなのか?」
腹部へ繰り出した一撃だけで、オーガは絶命した。
たったの一撃で死ぬようなモンスターが強力な力を持っているとは、到底思えない。
しかしリエラは、真面目な顔で「はい」と肯定した。
「オーガはかなり危険なモンスターですよ。Bランク冒険者でも、命を落とすことがあります」
「……ランクってなんだ?」
知らない単語が飛び出してきた。
クエスチョンマークがユウリの頭に浮かぶ。
「冒険者にはその実力や功績によって、ランクが与えられているんです。私のような駆け出しは一番下のFランク、一番上がSSランクとなっています」
「Bっていったら、けっこう上の方じゃないか! マジかよ……オーガってそんなに強いモンスターだったのか」
「ですから、ユウリ様が一撃で葬ってしまった時は本当に驚きました。ものすごい実力をお持ちなのですね!」
「あんまり実感ないけどな」
肩をすくめ、ユウリは苦笑する。
「そうだリエラ。冒険者って俺でもなれるのか?」
潜伏先として魅力的なファイロルの街。
ここであれば、追手に遭遇することなく平和に暮らしていける可能性が高い。
しかし、生活していくには金が必要となるだろう。
その金を得るには、何らかの仕事をしなければならない。
細かいルールに囚われることなく、比較的自由に生きることができる冒険者。
これまで社会の歯車として生きてきたユウリからしてみれば、まったく別の生き物だ。
だからこそ、そんな自由な生き方が新鮮で面白そうだと思った。
「問題ありません。年齢性別身分、その他もろもろいっさい不問です。必要なのは登録名くらいですね。ちなみにこれは、本名でなくても構いませんよ」
「良かった」
心の底からホッとする。
身分を証明するものが必要、とか言われたら、どうしようかと思った。
登録条件ゆるゆるな冒険者ギルドに感謝だ。
「あ、あの……ユウリ様」
互いの指をちょんちょんと突き合わせ、急にモジモジし始めるリエラ。
上目遣いでユウリを見る。
「もし良かったら、私とパーティーを組んでくださいませんか。私、非力で役立たずですけど、ユウリ様のために身も心も捧げ――」
「あぁ、いいぞ」
迷うことなくユウリは答える。
こんな美少女とパーティーを組めるなんて最高だ。
毎日が楽しくなること間違いないだろう。
何を迷うことがあるのだろうか。
「よろしいのですか!?」
「もちろんだ。これからよろしくな、リエラ」
「ありがとうございます!!」
席を立ち、ずいっと身を乗り出したリエラ。
ユウリの両手をギュッと握る。
リエラの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
(俺とパーティーを組めたことが、そんなに嬉しかったのか)
まさか泣かれるとは思わなかった。
少し恥ずかしもあるが、そんなにも感動してくれたのが嬉しくもある。
食事を終えた二人は、冒険者ギルドに向かった。
ユウリは冒険者の新規登録。
リエラはゴブリン討伐依頼の完了報告。
それぞれ用事がある。
ギルドの中に入ると、武器を携えているガラの悪い男たちがいっせいにユウリを見た。
彼らはリエラと同じく、冒険者をしているのだろう。
「おい、まだガキじゃねぇか……。どうしてこんなところに来たんだよ」
「かわいそうに……。きっと特別な事情があるんだ」
冒険者たちから寄せられたのは、心配と同情の声だった。
人相の悪さからは予想できない優しさを、彼らは持っているようだ。
人は見かけによらないという言葉を、ユウリはあらためて実感した。
「では私、完了報告をしてきますね」
「おう。俺は新規登録してくる」
「報告が済んだら、すぐそちらに向かいます」
それぞれの用事を済ませるため、ユウリとリエラはいったん別行動をとる。
新規登録カウンターに向かったユウリは、受付嬢に声をかける。
「新規登録したいんだけど、いいかな」
「はい。では、こちらの用紙に登録名をご記載ください」
(登録名は、本名じゃなくても良いんだよな。うーん……)
少し悩んだが、しっくりくる名前が出てこない。
結局は、慣れ親しんだ『ユウリ』と言う名前を記載した。
「登録名は『ユウリ』でお間違えないでしょうか?」
「あぁ、問題ない」
「こちらがギルドカードになります。依頼を受注する際に必要となりますので、無くさないようご注意ください」
手のひら半分くらいの大きさをした白色のカードを受け取る。
カードに記載されていたのは、登録名と冒険者ランク。
ユウリのランクは、もちろん一番下であるFだ。
「こちらで登録は完了しました。ユウリ様の活躍を期待しております」
「ありがとう」
「ユウリ様!」
ちょうど登録が終わったタイミングで、リエラが駆け寄ってきた。
「お待たせしました」
「ナイスタイミングだな。ちょうど俺も今、登録が終わったところだ」
それぞれの用事を終えた二人は、冒険者ギルドを出る。
「私は宿に戻りますけど、ユウリ様はどうされますか?」
「……あ、どうしよう」
脇目も振らずにモルデーロ王国を出てきたユウリは、一文無しだった。
金が無い以上、宿を借りることはできないだろう。
(金が入るまでは野宿するしかないか……)
ガックリと肩を落とす。
「もしかしてユウリ様、泊まる宿が決まっていないのですか?」
「……宿が決まっていない以前に、宿屋に払う金が無いんだ。色々あって、今の俺は一文無しだからな」
「それでしたら、私の宿に行きましょう。ユウリ様のお代は、私が払いますから!」
「いいのか!」
なんて慈悲深いのだろうか。
輝かしい笑顔でそう言ってくれたリエラは、救いの女神に他ならない。
ありがたい言葉に、ユウリは甘えることにした。。
リエラが宿泊しているのは、小さな宿屋だった。
かなり年季が入っている。
出入り口になっている木製のスイングドアを抜けて、宿屋の中に入った二人。
フロントにいる老婆に、ユウリは声をかける。
「部屋を借りさせてくれ」
「悪いけど、今は満室だよ。他を当たってくんな」
(……マジかよ)
いきなり出鼻をくじかれた。
予想外の事態に、ユウリの頭は真っ白になる。
その一方で、リエラはまったく動じていなかった。
「いえ、部屋を新たに借りに来たのではありません。私の部屋に、一人追加したいのです」
「なんだ、そういうことかい。それなら、もう一人分の料金を追加で払っておくれ」
「承知しました」
(…………え?)
あれよあれよと進んでいく二人のやり取りを、ユウリは愕然としながら眺めていた。
私の部屋に一人追加したい、というリエラの注文。
それはつまり、リエラとユウリが同室になるということだ。
(いやいやいや、それはマズいだろ!!)
美少女と一つの部屋で寝泊まり。
男なら夢見るシチュエーションだが、女性経験の乏しいユウリにはあまりにも刺激が強すぎる。
いくらなんでも、段階を飛ばし過ぎだ。
慌ててリエラを制止しようとする。
「な、ななななに言ってんだよリエラ! 話が違うぞ!」
「話が違うとは? 私は最初からそのつもりで、ユウリ様をお誘いしたのですよ」
「そうなの!?」
「お支払いは終わりました。行きますよ、ユウリ様」
固まっているユウリの手をグイっと引っ張り、奥へと進んでいくリエラ。
先ほどとまったく同じ輝かしい笑顔が、その表情には浮かんでいた。
106
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる