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【5話】お礼の食事
しおりを挟む可愛い。
スレンダー美少女に言われたその言葉に、ユウリは複雑な気分を味わっていた。
褒められて嬉しいと思う一方、違和感が拭えない。
少女の体に変貌したということに、まだ慣れていないのだ。
(これが『可愛い』じゃなくて『カッコイイ』だったら、手放しで喜べたのにな……)
悟られないように、小さくため息を吐いた。
「とりあえず、怪我はないようだな」
「……は、はいっ!」
ユウリの言葉で我に返ったのか、ハッとするスレンダー美少女。
そのまま深く頭を下げてきた。
「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」
「気にしないでいい。それじゃあな」
「お待ちください!」
立ち去ろうとしたユウリは、大きな声で呼び止められる。
「どうかお礼をさせてください!」
「いや、本当に気にしないでいいから」
「助けていただいた恩を返さないというのは、納得がいかないのです!」
一歩踏み込んできた、スレンダー美少女。
本気の目をしている。
この様子では、言っても聞かないだろう。
そこまで本気であれば、断る方がかえって悪い気がしてきた。
(それに、この子の言っていることは俺も分かるしな)
誰かに借りを作ったままというのは納得がいかない。
ユウリもそういうタイプだった。
「分かった」
小さく言ったユウリ。
彼女の提案を受けることを決める。
「それじゃあ、ご飯をおごってくれないか?」
お礼の内容にご飯を指定したのは、ユウリが今、激しい空腹状態に陥っているからだ。
異世界転移してから今日で二日。
その間ユウリは、一度も食事をしていなかった。
先ほどまでいた山には、食べられそうな野草やキノコが生えていなかった。
渓流があったので水分だけは確保できたが、水を飲んだところで空腹感は消えなかったのだ。
「お安い御用です! それでしたら、私の暮らしている街が近くなので、そこへ行きましょう」
「ひょっとしてそれは、あそこの街か?」
目的地としている平原の先に見える街を、ユウリは指でさした。
「はい。ディアボル王国辺境都市、ファイロルです」
「……ディアボル王国」
ユウリの口元がニヤリと上がる。
(よし、ツイてる!)
神官長はディアボル王国のことを、憎き隣国、と言い表していた。
そこから察するに、モルデーロ王国とディアボル王国が敵対関係にあることは確かだ。
敵対関係にある国に、おいそれと追手は送れないはず。
潜伏先として、ディアボル王国以上に適した国はないだろう。
「どうかされましたか?」
「なんでもない。……そういえば、まだ名乗っていなかったよな。俺はユウリだ」
「リエラと申します。では、ユウリ様。ファイロルへ参りましょう」
「おう」
平原を歩いて、三十分ほど。
目的地であるファイロルに、ユウリとリエラは到着した。
(結構盛り上がっているな)
石畳で舗装された路上は、多くの人で賑わっていた。
集まって話をしていたり、道端にずらっと並んでいる露店で買い物をしたりしている。
ファイロルは、とても活気のある街だった。
「お食事の件ですが、どのような食べ物をご所望ですか?」
「うーん、難しいな……。そうだ、リエラおすすめの店に連れていってくれないか?」
食べたい物があるかと聞かれても、とっさには出てこない。
ここはリエラにお任せすることにした。
「かしこまりました。そういうことであれば、私にお任せください!」
リエラは自信たっぷりの顔で、自らの平たい胸をドンと叩いた。
リエラに連れられて向かった先は、小さな飲食店だった。
夕食どきということもあってか客数は多いが、ガヤガヤとはしていない。
客層が良いのか、ゆったりと落ち着いている。
(いいところだな)
ここは、ユウリが好きな雰囲気の店だった。
「お二人様ですね。こちらへどうぞ」
店員に案内されたテーブル席に、二人は対面になって座る。
「このお店のステーキ、とっても美味しいんですよ」
「おお、ステーキか! じゃあそれにしようかな!」
ステーキといえばごちそうの代名詞。
無条件にテンションが上がる。
店員を呼び、二人はステーキを頼んだ。
(早く来ないかなぁ~)
ワクワクしながら、ユウリはステーキが来るのを待つ。
しばらくして、二つのステーキが運ばれてきた。
肉厚のステーキが、鉄板の上でジュウジュウ音を立てている。
目の前に広がる美味しそうな光景に、ユウリはゴクリと喉を鳴らした。
「いただきます!」
ナイフでひと口大に切り、パクリ。
瞬間、ユウリはカッと目を見開いた。
「うまい……! うますぎる!!」
弾ける肉汁にジューシーな食感。
まさに絶品。最高のステーキだ。
こんな料理が食べられるなんて、それだけでも異世界転移した価値がある。
そんなことを思えてしまうほどに、このステーキは美味しい。
食べる手が止まらない。
食欲がおもむくまま、バクバクと頬張っていくユウリ。
しかし、その動きをピタッと止める。
(……視線を感じる)
視線の正体は、対面に座るリエラだ。
運ばれてきたステーキに、彼女はまだ口をつけていない。
ナイフとフォークも持たずに、ただうっとりとユウリを見つめている。
「……食べないのか?」
「申し訳ございません。その……ユウリ様の食事姿があまりにも可愛いすぎて、つい見とれてしまいました」
頬に手を当て、キャッ、と声を上げたリエラ。
ほんのりと頬が赤くなる。
(また、『可愛い』か……)
本日二回目の可愛いに、ユウリはガクリと肩を落とした。
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