4 / 44
【4話】スレンダー美少女
しおりを挟む二人の追手の処理を、ユウリは無事に終えることができた。
これで安心して休憩――といきたいところだが、そうもいかない。
追手がこの二人で終わりとは限らない。
他の追手と遭遇しないためには、もっと先まで進む必要がある。
(別に見つかったところで大丈夫なんだろうけど……)
先ほど殺した二人の追手は、【勇者覚醒】を発動したユウリを前に手も足も出ていなかった。
他の追手の実力が先ほどの二人と変わらないようなら、問題なく処理できるだろう。
だが、ユウリの目的は人殺しではない。
モルデーロ王国の追手が来ないような場所まで行き、身を隠すことだ。
もちろん必要があれば殺すが、できるだけ不要なトラブルは避けたいと思っている。
そうして先を進もうとしたユウリだったが、ここである異変に気付く。
「あれ、消えた……」
【勇者覚醒】を発動したことで全身に纏っていた淡い白色の光が、パッと消えてしまったのだ。
自身の体に【勇者覚醒】を発動してから、三分ほどが経っている。
一定時間経過したことで、効果が消えてしまったのかもしれない。
「試してみるか」
近くに生えている大木の幹を、右手で殴りつける。
【勇者覚醒】の効果が残っていれば、幹に大穴を空けるくらいはできるだろう。
しかし、幹はびくともしなかった。
まるでダメージを受けている様子がない。
反対に、殴りつけたユウリの拳はジンジンと痛んでいる。
思った通り、【勇者覚醒】の効果は消えてしまっていたようだ。
「三分の時間制限つきか。これからは気を付けないとな」
【勇者覚醒】を発動していないユウリは、だだの非力な少女。
今後【勇者覚醒】を発動する際には、常に時間を気にしておく必要があるだろう。
「……それにしても痛いな」
ジンジンと痛む右手をさすりながら、ユウリは山の中を進んでいく。
******
それから二日後。
「……よし、終わった!」
あれ以降追手に遭遇することなく、ユウリは無事に山を降りることができていた。
山を降りた先には、草木生い茂る緑の平原が広がっていた。
空に浮かぶ真っ赤な夕日が、平原の緑を茜色に染めている。
さらなる遠くには、街らしきものが見える。
(とりあえず、あそこへ行くか)
ろくに休憩も取らず山道を歩いてきたので、体はもうへとへと。ゆっくり休みたい気分だ。
街に入れば、少しは落ち着けるかもしれない。
遠くに見える街を目指し、ユウリは平原を歩き始めた。
「オオオオオ!!」
平原を歩いていると、大きな咆哮が消えてきた。
獣のような叫び声だ。
突然聞こえてきたその声に、ユウリは足を止める。
「いったいなんだ……?」
声が聞こえた場所は、ここからそう離れていない。
気になったユウリは、その方向へ向かった。
そこにいたのは、赤色の人型モンスター。
鬼のような、厳つい顔をしている。
巨大な体躯には、隆々とした筋肉がパンパンに盛り上がっていた。
その赤色のモンスターの対面には、一人の少女がいる。
背中まで伸びている艶めく茶色の髪に、エメラルドのように美しい緑色の瞳。
15歳くらいの見た目をしている、すらっとしたスレンダー美少女だ。
両手で剣を握るスレンダー美少女は、赤色のモンスターと向き合うようにして立っている。
斬りかかろうと、タイミングを図っているのだろうか。
(いや、違うな)
ガタガタと体を震わせているスレンダー美少女は、及び腰になっている。
強張った顔には、大きな怯えと恐怖が色濃く浮かんでいた。
赤色のモンスターに襲われている、と見るのが妥当だろう。
こんな時、ユウリの取るべき行動はたった一つだけだ。
目の前で美少女が困っているのなら、迷わず助ける。それ以外の選択肢なんて最初からないのだ。
「うぉおおおお!!」
【勇者覚醒】を発動。
山中で拾った木の棒――ヒノキノボウルグ(ユウリ命名)を片手に地面を蹴り、赤色のモンスターめがけ一直線に向かっていく。
その速度は人間の域を遥かに逸脱しており、とても目で追えるものじゃなかった。
スレンダー美少女と赤色のモンスターの間に、割って入ったユウリ。
突然目の前に現れたユウリに、赤色のモンスターは驚きの表情を浮かべた。
「くらえ!」
赤色のモンスターの腹部めがけ、ヒノキノボウルグで殴りつける。
ユウリの攻撃に、赤色のモンスターはいっさい反応できていない。
攻撃速度が速すぎて、見えていないのだろう。
ヒノキノボウルグが、無防備な腹部に直撃。
ブチブチブチ!
繊維が断裂するような音ともに、赤色のモンスターの巨大な体が吹き飛んでいく。
仰向けで地に伏した赤色のモンスターは起き上がるどころか、ピクリとも体を動かさない。
ぐったりとした顔面からは、完全に生気が失われていた。
「すごい……あのオーガをたった一撃で」
地面に伏せている赤色のモンスターを見るスレンダー美少女は、呆然とした表情を浮かべていた。
「おい、怪我はないか?」
声をかけると、スレンダー美少女の視線がこちらへ向いた。
「……!」
ユウリを見るなり、両手で口元を抑えるスレンダー美少女。
雷に打たれたかのように、背筋がビクンと大きく跳ねた。
「か、可愛い……!!」
いっぱいに見開かれた緑の瞳には、ありったけのハートマークが浮かんでいた。
85
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる