TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空

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【3話】規格外の力

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「嘘だろ……おい。なんで当たらないんだよ」

 剣を振ろ下ろした騎士は大きく瞳を開き、愕然としていた。
 何が起こったのか、それすら理解できていないといった風だ。
 
「おい、何ふざけてんだよ! いくらガキだからって手加減してんじゃねえぞ! 真面目にやれ!」
「う、うるせえ! 俺は殺すつもりで剣を振ったんだ! ただ、コイツの動きが急におかしくなって――」

 騎士二人が口論している中、ユウリは足元に落ちていた木の棒を拾い上げる。
 長さ30センチほどの、なんの特徴もない木の棒だ。
 
「次は俺の番だ」

 剣を振り下ろしてきた騎士に向け、拾い上げた木の棒を振り下ろした。
 
 とっさに剣を構えた騎士。
 刀身を盾にして木の棒を受ようとする。

 木の棒と剣が接触。
 瞬間、バキンという甲高い金属音が響く。
 
 ユウリが振り下ろした木の棒が、騎士の剣を砕いた。
 
「…………は? なんだよそれ!」
 
 落ちている木の棒が剣を砕くなど、常識ではまずありえない。
 騎士の表情に、驚きと怯えの色が濃く浮き出る。
 
 一方のユウリは、予想していた通りの結果に満足していた。
 
 道に落ちていた何の変哲もない木の棒であっても、【勇者覚醒】によってステータスが引き上げられているユウリが振るえば恐ろしい威力を持つ武器へと変わる。
 さらには使用武器強化により、木の棒自体の能力も上昇している。
 騎士の剣など相手にならないのは当然のことだった。

「じゃあな」

 剣を失い無防備になった騎士の喉元に、木の棒を突き刺す。
 
 目を大きく見開きながら、騎士は息絶えた。
 きっと人生の最期まで、何が起きたのか理解できていなかったのだろう。
 
(あれ、何も感じないな)

 これまでの28年間、善良な一般市民として暮らしてきたユウリ。
 人を殺したのは、これが初めてのことだった。
 
 しかし騎士を殺す際、ユウリはまったく躊躇わなかった。
 蚊を殺すのと変わらない感覚だった。
 
 それに殺人を犯せば、嫌悪感や罪悪感といった感情が溢れ出て、苦しむものかと思っていた。
 だが、そういったものを何も感じない。
 
 命を奪うことへの抵抗、命を奪ったことに対する罪の意識。
 その二つが無くなっているような気がする。
 もしかしたらこれも勇者召喚による影響かもしれない。

「ば、化け物だ!!」

 少し離れた場所にいるもう一人の騎士が悲鳴を上げた。
 ユウリに背を向け、逃げ去っていこうとしている。
 
 しかしユウリは、このまま黙って見過ごす気はなかった。
 
 ここで騎士を見逃せば、モルデーロ王国にこのことを報告するだろう。
 逃亡者の身である以上、自分に繋がるような痕跡は消しておかなければならない。

「弱い者いじめは趣味じゃないけど、これも俺のためだ。自分の運の無さを恨みながら死んでくれ」

 片腕を胸の前に突き出したユウリは、それを騎士の背中へ向ける。
 
「【ファイアボール】」
「なんだよその魔法!?」


 おぞましい音を上げて背後から迫ってくる巨大な火の球に、騎士は驚愕の表情を浮かべる。
 彼の知っている【ファイアボール】とそれは、あまりにも異なっていた。

 火属性の初級魔法、【ファイアボール】。
 手のひらから小さな火の球を放つ魔法で、威力はかなり小さい。
 当たったところでせいぜい、軽い火傷を負うくらいだろう。
 
 しかしユウリの放った【ファイアボール】は、通常の何十倍もの大きさになっている。
 
 規格外の魔法だ。
 飲み込まれたら最後、全身が燃えつくされてしまうだろう。
 
「ふざけんな!! 俺はまだ死にたく――」


 言い終わる前に、騎士は巨大な火の球に飲み込まれた。
 
 【勇者覚醒】の使用魔法強化により、ユウリの放った【ファイアボール】は、通常のものと比べ大きさも威力もケタ違いになっていた。
 と、そんな事実を知ることもなく、騎士は燃えカスとなっていった。
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