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【2話】形勢逆転
しおりを挟む屋敷の外に出たユウリは、広大な庭園にいた。
植林された大きな木の陰に身を隠し、先ほどまでいた屋敷とは逆方向に目を向ける。
この先には、大きな門扉がある。
そこを抜ければ王宮の敷地外に出られるだろう。めでたく脱出成功という訳だ。
その門扉には複数人の警備兵が立っている。
外に出るには、彼らの許可が必要だろう。
(でも、許可を取りに行くのは危険かもしれないな)
警備兵がユウリの処分を知っているかどうかは不明だが、知っていた場合はまず外に出してくれないだろう。
身柄を拘束されるか、最悪の場合はこの場で処分される、なんてこともあり得る。
知っていた場合の危険を考えると、ここで姿を出すべきではない。
ユウリは、そう判断した。
「別のルートを探すしかないか」
門扉からの脱出を諦めたユウリは、他に外に出られるような場所を探していく。
そうしてからしばらく。
目をこらして必死に歩き回っていたユウリの足が止まる。
「あそこからなら……!」
王宮と外を隔てている、巨大なフェンス。
それをよじ登り脱出するのは無理そうだが、ユウリが着目したのはそこではない。
地面とフェンスの間には、わずかな隙間が空いている。
以前の自分では、決して通れないような隙間だ。
しかし、小さな女の子になった今のユウリであれば話は違う。この体なら、くぐり抜けられるはずだ。
周囲に人がいないことを確認し、素早くフェンスに近づくユウリ。
腹ばいになってよじよじ動いていき、フェンスの下をくぐり抜ける。
「よし、うまくいった」
無事に王宮の外へ脱出。
これでとりあえずの危機は、乗り越えることができた。
ひと息つきたい気持ちになるが、それはもう少し後だ。
今はここから離れるのが先。
スタっと立ち上がったユウリは、急いで走り去って行った。
王宮を脱出してから二、三時間ほど。
辺りが薄暗くなり始める中、名前も知らない山の中にユウリはいた。
「つ、疲れた……」
大木に背中を預け、ペタッと地面にへたり込む。
しばしの休憩タイムだ。
(本当なら、休憩している暇なんてないんだけど……)
ユウリがいなくなったことに気づいたモルデーロ王国が、追手を放ってくるかもしれない。
それを考えれば、もっと先まで進んでおきたいところ。
しかし、がむしゃらに足を動かしていたユウリの体は、もう限界に近かった。
転移前の体であれば、休憩せずとも、もっと先まで進めていただろう。
だが、今の幼くなった体では無理だ。
外見相応に、体力がかなり低くなっていた。
スッと瞳を閉じると、待っていたかのように眠りの波が襲ってきた。
しかしユウリは、閉じた瞳をすぐに開けることとなる。
ザッザッという足音が、どんどん近づいてくるのだ。
「こんなところに居たのか、ニセ勇者さんよぉ!」
「まさかこんな非力そうなクソガキが、召喚された勇者とはな。国王様も気の毒に」
近づいてきのたは、赤色の騎士服を着た二人組。
抜き放った剣を片手に持ち、嘲笑交じりに口角を上げている。
(クソッ、少しの休憩も与えてくれないのかよ!)
立ち上がったユウリは、二人組の騎士を緊張の面持ちで見やる。
対する二人組の騎士は余裕の表情をしている。
そして、愉快な声で、じゃーんけーんポン!
彼らは、じゃんけんを始めたのだった。
二度のあいこを繰り返したあと、勝負がついた。
「よっしゃ、俺の勝ちだぜ! 早く殺してこいよ!」
「チッ、面倒くせぇな」
勝った方はその場で足を止め、負けた一人のみがユウリとの距離をじりじり詰めてくる。
「弱い者いじめは趣味じゃないが、これも王国のためだ。自らの無能さを恨みながら死ぬといい」
ニヤリと笑った騎士。
手に持っている剣を、ためらうことなく振り下ろしてきた。
騎士が振り下ろしてきた剣をまともに受ければ、ユウリは確実に死ぬだろう。
迫りくる絶対的な死。
それを認知した時、ユウリの脳に無機質な声が流れてきた。
『スキル所有者が生命の危機に瀕したことを確認――【勇者覚醒】の開放条件を達成しました。スキル発動により次の効果を得ることができます。使用武器、並びに使用魔法の強化。ステータス極限上昇』
脳に流れてきた声が何を言っているのか、いまいちよく分からない。
だがユウリは、生き残るためにはこれに賭ける他にないと、そう直感した。
胸に手を当て、スキルの名を口にする。
「【勇者覚醒】」
ユウリの全身が、淡い白色の光を纏った。
それを纏ったとたん、騎士の動きが急にスローモーションになった。
右方向へ移動したユウリ。
振り下ろされた騎士の剣を難なく避ける。
その動きは、人間の目で追うことは不可能なくらいの異常な速さになっていた。
ステータスが引き上げられたことによる影響だろうか。
(これが【勇者覚醒】……すごい力だ。これならこいつらに勝てる)
形勢逆転。
強大な力を得たユウリは、ニヤリと口角を上げた。
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