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旧メリピ国滅亡

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イートスとノマキとヘワケリカを騒がした反乱軍は警備の厳重なヘワケリカの町の駐屯所にある牢屋に移送されていた。牢屋に入ってから静かに過ごしている。サイモンは訴えることがあると主張するのでこの後に宰相とリッキー隊長と俺との四人で話をすることになっている。面会の準備ができたようだ。



「サイモン、お前は言いたいことがあるそうだな。存分に聞かせてもらおう」
「国王に必ず伝えると約束するか?」
「お前自分の立場わかってんのか!!」
「リッキー!!まあ落ち着け。。。」
「宰相殿・・・」
「サイモンの話が終わって納得できなかったら殴るなり蹴るなり好きにすればいい。そんな簡単な話ではないのだろう、サイモン?」
「宰相閣下、本当に長くなるが聞いて国王陛下に伝えてほしい。俺たちの要望も含めるが一族の切実たる思いが詰まっているのだ」



今から九十年前まで時間は遡る。ハンド―ラ国は北西の小国でボールド国は建国以前でまだ存在していなかった。現在のハンド―ラ国の南東からボールド国の北東にあたる土地で穀倉地帯の豊かな土地をもつメリピ国があったのだ。豊かな土地とハンズ―川からの大量の水を使い牧歌的で守備隊が多少いるだけでまわりの国と協調しながら少しずつ領土を開墾しながら増やしていた。


家族を大事にして大家族が中心で三世代同居が当然の農業国家だった。永遠に続く平和な永世中立国だろうとまわりの国々は羨ましがっていた。こんな国家にもいきなり国が傾く事態は起きる。イートス歴四百三十五年(今から六十年前)のこと、何故か蚊が多く人々は困っていた。その秋になると蚊は減ってきたが高熱を発生させる風邪のような症状を引き起こす。特に四十歳以降の年代は熱が下がってきても体力が戻らずに違う病気も引き起こし命を落としていく。



その翌年はイナゴバッタの大発生で苦しんだ。ベテランの害虫を退治する人が減ったのが原因ではないかと記録に残っている。豊かな国故に餓死するような飢饉にはならなかったが外貨を稼げないので国力は落ちる。その翌年には諸外国から合併話がきたり土地の買い占めの行動があったりと揺さぶりをかけてくる。今までにはないことでメリピの国王はいらだちが隠せずに国民の予想もしない行動にでてしまう。


諸外国に干渉されない強い国家になる!!傭兵を雇い軍備を強化する。軍への参加希望者へは農業よりも高い給金を用意する。それでも国王の計画には及ばないために徴兵制を導入する。確かに王宮軍は強化されたが、国を支える穀物倉庫の収穫量が少しずつではあるが下がっている。国王の暴走と誰の目にも明らかに写っていた。しかしそのことを陛下に進言するのはご法度であった。王宮内で古く使える執事の家の引退されたご隠居が陛下に進言したそうな。無理な軍備増強はメリピにはふさわしくありませんと、牧歌的な農業国がメリピの姿ですと。でもご隠居は翌日の昼食後にいきなり逝ってしまわれた。それから誰も陛下に進言することはできなくなった。



ここからこの国王がいなくなるまで暗黒の時代は続き、穀物の生産量もピーク時より下がっているのだが陛下に報告することはできずに捏造した数字での報告になっていた。要するに嘘の報告しかできない体質にまで陥っていたのだ。だが、ようやく転機が訪れる。この問題の国王が病に倒れたのだ。王宮内の人間はそれまで誰も打ち合わせなどしていないが、国王を伝染病の隔離病にすることに異を唱える者はだれもいなかった。国王は特別室の地下の部屋に集中看護と称されて医療機関の初の特別体制として毎日病状の診察結果を国内に公表した。誰もが気にするところだけに芝居も必要だった。



助けたい患者ではない患者に対面した時の医師と看護師の対応の苦悩は言わずともわかる気がする。これこそが究極の選択ではないだろうか?助けるのが医道。助けない道はない。しかしながら医師も人間ならば患者を診る診ないの選択肢は与えてほしい。だからこそ、この国王の診療は勘弁してほしい。看護師とも話し合いは重ねた。結果、宰相閣下から皇太子殿下に判断を委ねたい旨を申し出た。拒否されたときは自決する薬も看護師と決めてあった。結果は・・・医師と看護師団の労いと慰労に感謝を、診療の可否の結果は現場の診療団の判断に委ねるとの通知だった。



当時の皇太子殿下にも国王の狂変ぶりは尋常ではないと眉が動くほどの狂乱の事態だった。国王は一か月で帰らぬ人となった。皇太子は即位して農業王国の復活に備えて宰相と内密に進める。軍事力を強化した影響で軍事力崇拝者が多く発生して一派閥になったためである。軍事力崇拝者の一派は勢力が国策で衰えることを理解した。だがすべての人間が納得するわけもなく、対立は続いた。自衛権を持つ軍の位置づけで決着するのに十年の月日が流れた。


牧歌的な農業国に国の進路を決めて進んでいたイートス歴四百七十五年(今から二十年前)にメリピ国は滅亡を迎える。侵略してきたのは新生のハンド―ラ国だった。西側の国を侵攻か併合で吸収して東のメリピに攻め込んできた。防衛する軍を持ってはいたが事前に調略をされていてより大きな武力に憧れる若い世代は家族を説得しハンド―ラへ寝返っていった。このピンチに立ち上がり活躍したのがサイモン将軍である。一か月で落とされる予定は大幅にずれ込み半年間耐えた。しかしイートスは持ち超えたが南のノマキとヘワケリカにはサイモン将軍はいないのである。絶好のチャンスとイートスで動けないハンド―ラを横目にボールド国はヘワケリカとノマキを半年で落した。領土の半分以上を失ったメリピにもう補給はない。ここで歴史からメリピ国は消滅した。


「ハンド―ラに吸収された俺たちはなにか言える立場ではないが、誰もがある一点のことだけ要求した」


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